52匹目 ネズミ、ライド中⑭
「本当にありがとうございました。大変参考になりました。感謝感激雨あられです。今日この時を一生胸に刻みこみ、決して忘れることはありません。よろしければ、あなたのお名前をお聞かせ願えますか?」
「ああ……そういや、教えてなかったな」
「是非知りたいです。あなたは一生の恩人です。このわたくしビードの研究者人生、その結実を、全てあなたへの尊敬に充てつつこの生涯を過ごしていきたいと思います」
「はあ……」
いちいち台詞が長い研究者・ビード。ハジメは彼に、なにげに自らの名前を公表していなかった。ビードの自己紹介の途中で、彼が色々と脱線したためである。
と、ハジメは先ほどの彼の自己紹介を思い出す。ギルカ名刺式提供。あれはかなり、カッコよかった。ハジメも真似して、その金属板を懐から取り出し、彼へと差し出してみる。
氏名 ハジメ
スキル【みじめ】
術《雷術Ⅲ》
従魔
レベル65
「……え?」
と、しかしビードは、祝勝会解散直前のサージュと同じような反応をした。ギョッとした表情。ヤバい奴を見るような目で、ハジメを凝視してくる。
ヤバいのはお前の方だろうが、とハジメは思った。あんな変態コスをイヌ耳少女に着せちゃって。
ハジメは、ビードの横を見遣った。マロナはまるでビードの付属品みたいに、ただその横に着席して引っ付いているだけである。そこそこ距離が近い。
が、それだけで、さっきから全く会話に加わっていなかった。また、その様子もない。どうやら、彼女は従者とか秘書的ポジションで、積極的に発言するつもりはないらしい。ご主人ビード様のご友人とのご歓談に割って入る気はない、といった具合に。
「あなた、従魔契約をやっているのですか?」
と、ようやく沈黙を解き、開口したビード。まだ、ハジメを疑うような目付きは残っている。
「え……はい。それが何か?」
つられて、口調が重くなるハジメ。神妙な雰囲気だ。やがて再び、男ビードの口が重々しく開かれる。
「それ、自らの意志でやっていますか?」
「……うん?」
ハジメは、男の質問がよく理解できなかった。いきなり出てきた『従魔契約』という単語。全く、想像もしていなかった展開だ。なぜそこに反応されたかはわからないが、思考を巡らせる。
……まあ、自分の意志かどうかと言えば、そうなのだろうけれど。ザクロに半強制的に実行されたとはいえ、同意したっちゃ同意した。後からだが。
『取引』──ハジメは雷術をもらう=ザクロはベルを存分に可愛がる。
そう、《術》を受け渡される為であった。そうでないと、色々と面倒くさいらしい。問題回避の、割合と合理的な手段だと納得したのだけど……違うのか?
と、ハジメの曖昧な肯定を受けたビードは、腕を組みつつ悩むようにして言う。
「まあ……あなたは男性ですから、そうじゃないかとは思ってましたけど。自分から誘ったんですか? なんでこんなことしようと思ったのです?」
「え? え?」
いきなりの質問ラッシュ&謎の意見に、ハジメは困惑した。事態を捌ききれない。ビードはまるで、万引きを犯した少年を尋問するベテラン警官みたいに、ハジメへと接する。
それに、サージュやジーク、その他帰宅した冒険者そっくりなビードのドン引き顔。なにか自分はおかしなことをしているのかもしれない。ハジメはそう悟った。と同時に、同調圧力的恐怖を感じ始めていた。皆のギョッとした目。たった今目の前の、ビードも。
「ど、どういう意味だ? 従魔契約がどうかしたのか? それは、そんなに変な制度なのか?」
従魔契約。ザクロが誘った。あのトカゲベロチューはたしかに異様で、一日経った今、ようやく口内のえぐみが取れたくらいだ。
(36匹目講義中⑥参照)
と、にわかに思考が冴え渡る。ザクロの言っていた言葉。
『裏技みたいなもんよ』
『ちょっと高度でマニアックなプレイとして、そういう方々に愛され続けてナンバーワンってとこね』
……
なんだか、嫌な予感しかしないハジメ。
そういう方々。
あの時は、聴き過ごしてしまったけど……
「はい。従魔契約をやっている人は、かなりイカれた人です。ちょっとあなたの性癖を疑います」
「……」
やはり、そういう類のヤツだったか。
祝勝会の、皆の反応を思い出す。ドン引きの表情。賑やかな仲間たち、離れる距離。
もう皆とも、やり直せないかもしれない。ハジメは泣きそうになる。
と、ハジメのギルカを眺めながらビードは続ける。
「そのご様子だと、あまり深く知らずに契約しちゃった感じですかね。よっぽど凄まじい恋人でもいるのですか? ヤンデレですか?」
「いや……恋人じゃない。そういう関係性では、全くない……」
ハジメは腕で涙の顔を隠し、天を仰ぎつつも、次会った時にザクロをしばくことを決意。
また丁重な口調になって、ビードへと問う。なんだか頭の整理が追いつかなくて、敬語と通常口調が混じる。
「ちなみに……どのくらいやばい感じですか? やっぱ、かなり異常性癖みたいな制度なんですかね。でも、ギルカに表示されるくらいだから、そんなにやばいやつでもないんじゃ……」
ハジメはあまり現実を見たくなかった。心の何処かで、大丈夫だよと言ってくれる存在が欲しかった。でも、あのドン引き様は尋常じゃない。会がお開きになって、ついでに店員が帰った。自分の子供がやっていたら泣くレベルの性癖とか、もうそういった次元ではないハズだ。
と、ビードが言う。こっちはなぜか砕けた口調になりつつ。ハジメを尊敬する気持ちに若干の減少現象が起こったらしい。
「世の中色んな人とその数だけの性癖がありますが、少なくともその従魔契約は誰もやらないよ。具体例を出そうか」
と、前置きしつつ(以下また長文)、
「SM、カレーライス、レバー丼、ケフィア、青、雪だるま、真珠のネックレス、花摘み、催眠、剃り、ポニー、パピー、キャット、Au蹴り、エイジ、ABDL、コス、オードント、オキュロ、エメト、ウロ、シト、ヘマト、トリコ、ハイグロ、ラクト、バルーン、ヒエロ、ハーマト、ナレート、ソムノ、アルゴ、メノ、ああ被っちゃったな、アッハッハ。
剣も、杖も、馬車も、魔法陣も、ってね。もう何でもありだよ、それっぽく聞こえる。テット・ド・モワンヌ、パニール、ロックフォール、リヴァロ。アッハッハ。
燕返し、笧、横笛、撞木、鵯越え、立鼎、獅子舞、蜉蝣、岩清水、これはいい名前だね。ロック、岩は好きだよ。静かだ。何も語らない、何も感じない。
まあ、R18にならんように気を付けたつもりだが、不快にさせたなら、ごめんよ。ボクは着せるのが好きだね。脱がせるのは邪道だ。
ま、それはいいとして、これら及びこれに入らなかった諸々よりも、その従魔契約はアブノーマルかつハードかつサイコかつクレイジービューティーってことさ。
ちなみにボクの好きなプレイは簀巻きプレイで、将来の夢は、女の子を全裸でブリッジさせて臍にラー油を垂らしてそれに餃子ちょんちょんパクリもぐもぐだけど、それでも従魔契約ってのはごめんだね。絶対にやらない。全く、誰が考えついたんだ、あんなの?
というか、キミもよくそんな発想が出てきたね。尊敬を一周回って蔑みに値するよ。あ、ギルカありがとね。返す」
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次回ライド最終回です。
やっと次に進む感じですね。長かった……
ここまで読んでいただきまして、大変ありがとうございましたm(_ _)m




