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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第二章 獣人奴隷解放
56/80

51匹目 ネズミ、ライド中⑬

「ほら、マロナ。自己紹介をしなさい」


 ハジメのいる丸テーブルへと着席したイヌ耳少女を確認すると、にわかに男は言った。その表情は笑顔だ。とても人が良さそうな、親切丁寧といった、穏やかかつ柔和な微笑みである。


 が、騙されてはいけない。こいつはすこぶる変態だ。変態鬼畜趣味男だ。

 というか、その子の名前はマロナだろ。さっき聞こえたよ。お前が自己紹介しろよ。


 ……で、今現在、イヌ耳少女へと自己紹介を促した変態。対する少女の、その格好である。


 セーラー軍服ボンテージ。肌色面積多し。


 少しいやかなり、この少女侍らす男の性癖が疑われる。この変態男の気がしれない。だいぶクレイジーな奴だ。状況を整理しよう。


 イヌ耳少女。その、罰ゲームみたいな変態へそ出しコスチューム。さらに、ここは食堂だ。夜の食堂。昼間ではない(ついでに店員さんが消滅し、営業終了状態)とはいえ、公共の場。

 そこのドアから普通に入店しやがった。つまり、この変態キ○ガイ格好のままこいつらは外を練り歩き、ここまで訪れたというわけだ。


 何プレイだよ。お散歩プレイ?

 ああ、イヌ獣人だから? ハッハッハ☆


 ……狂ってやがる。何もかもが間違っている。そこに倫理など存在しない。ただ、その少女がコスチュームに関してはあまり恥ずかしがりもせず(人見知りなだけの表情)、ハジメへと丁重に自分の名前を語る映像だけだ。


「マロナと申します。イヌです。ご主人様はビード様です。よろしくお願いいたします」


「……よ、よろしくお願いいたします……」


 ハジメは少しいやかなりドン引きしつつ返した。精一杯力を振り絞り、少女の言った台詞を繰り返しただけだが。


 変態白衣髪金男の名前はどうやら、ビードというらしかった。もちろん、様付けだ。やっぱそういう関係性なんだな。しかもこの男ビード、少女マロナに全部自己紹介を任せやがった。己の名前もだ。話を円滑に進めさせようとしている。ニコニコ笑顔だ。怖い。


 それとこの二人、なんかこちらに見せつけている感がある。勘弁してくれよ。そういうプレイは他所でやってくれよ、よそよそ。なんで若干見つめ合ってんだよ、そこの二人。自己紹介したんならこっち見ろよ。相手に失礼だろ。まあこんな状況(食堂・オブ・ザ・デッド)で、マナーもへったくれも無いのだろうが。


 ハジメは悟った。こんな惨憺に散乱した食堂舞台へ、ビードが着席したその理由。

 現在、外にはもう誰もいない。結構、夜も更けている。冒険者及び一般市民各位、家に帰った。そう、街には、おそらく外の道路には、誰も人っ子一人いないのだ。


 で、お散歩プレイ中の男&少女。唯一電気が点いていて、人の気配なしのここ食堂へと入店。ご主人ビード様が先に安全性を確認し、ハジメへと、そのコスプレイヌ耳少女を招いた。そういうシュチュエーションであった。要はこの二人(特にビード)、アホだ。


 それと、少女の『イヌです』発言は華麗にスルーする方向に定めるハジメ。たぶん、『イヌ獣人です』と伝えたかったのだろうな。そうだ。そうだと思いたい。


 や、やべえ奴らに出くわしたもんだ。

 ど、どうしよっかな……帰りたい。


「いやあ。ネズミ獣人とは珍しいですね。私、初めて拝見しました。ご氏名は?」


 ビードはベルの方を見遣った。ちなみに彼女は現在、食堂を清掃している。いつの間にか、荒れ果てた店内のテーブルたちは、元通りの綺麗なピカピカ姿に戻っていた。


 厨房の方で、ベルがその山積みの皿を洗っている。これもまたいつの間にか、ゴム手袋を着用して。ふう、と額の汗を拭いたその動作で見えた。


 そんなことしなくてもいいのに、ベルさん。床も全面、大まかなゴミが片付いている。たぶん彼女はこのまま、店内の片付けを遂行するつもりだ。いい子過ぎる。全然あなた関係ないのに。


 おそらくこれはベルの習性みたいなものなのだろう。二日前の夕方もそうだったが、彼女は家事的能力を自身の存在意義の中で、かなり重要視している。(31匹目講義中①参照)


 どこで培われたスキル(【スキル】じゃない方)なのかはわからない。でもたぶん、こちらが止めてたとしても、掃除は遂行させるんだろう。なんかそんな気がする。そういう、健気すぎる子だ。


 ……掛けねえぞ。絶対にベルは、変態男・ビードの魔の手には掛けねえ。


「ああ、彼女の名前はチュー三郎ですよ。ちなみに、おれはハジメです」


 ハジメはすっとぼけた。ベルをチュー三郎と紹介した。なぜなら、彼女の本名を教える気はなかったからだ。この変態野郎に。


 と、一瞬ビードの目が見開かれた。

 ──ような気がしたが、すぐに元のニコニコスマイルに戻る。


「へえ……チュー三郎さんですか。いや、珍しいです。名前もそうですけど、ネズミ族、というところが。

 そういえば最近、B級のネズミ族冒険者ができたって話ですよね。弱小獣人族の、新たな希望らしいです」


 男ビードは言う。先ほどサージュとジークも、同じようなことを言っていた。なるほど、割と有名な情報らしい。少し、ビードの乱暴な口調が気になるところだが。


 と、ビードはにわかに気がついたように、懐から一枚の金属板を取り出した。ギルカだ。それをハジメへと、名刺みたいに手渡す。そういう使い方もできるのか。


 ハジメは丁重に受け取る。まあ、さっきのイヌ耳少女マロナの自己紹介で出てきたから、こいつの名前は知っているのだけれど。


「失礼、わたくしこういうものです」



 氏名 ビード

 スキル【裁縫】

 術 なし

 レベル20



 ……弱ッ。


 というか、スキル【裁縫】ってなんだ。そんなのが認められるなら、スキル【盆栽】とかもあるんじゃないのか?


 どういう価値基準なのだろう。女帝サージュも【魔法陣(マージナル・)結界:(フィールド:)炎塔(ワード・)の章(ブレイズ)】とかいう、よくわからない中二病スキルだったし。この世界のネーミングセンスが全く不明だ。今のところ、ザクロの【補食】が一番まともな気がする。


 そして合わせて気になるのが、イヌ耳少女マロナの変態コスチューム。


 ビード──スキル【裁縫】。

 マロナ──セーラー軍服ボンテージ。


 ……なんか恐ろしい推測が頭をよぎって仕方がない。よせよせ、よしとこう。これ以上考えるのは無粋だ。危険地帯だ。


 ハジメはギルカをビードへと返却する。丁重に受け取るビード。と、再び会話の糸を紡ぎ出す。少しくつろいだように、ゆったりと腰掛けながら。一人称も変わる。


「僕は研究職に就いております。獣人研究家。

 獣人と人間の生態差異の追求、及び種族間での魔力量と大陸的位置、発展の歴史などを鑑みつつの思考、解析、身体魔素関連部位と該当能力を検証し、その記録を補完、保存、人類の適切な保護ないし発展に紡績させる研究なんぞをやっております。

 なのですがね、ネズミ族をこういった市街で見かけるのは初めてですよ。とても興味深い現象です。いやね、観測結果とその傾向的に、彼女ら少数民族獣人は、たいてい僻地にてその存在を隠し通すような生き様が多いのですね。

 特にネズミ族はその種族方面実質自治領、セジウムにてその存在を確認されるばかりです。彼らは基本的に外部地域へと出ません。だから、その生態も未だ研究結果が著しく少ない部類であり、種族スキル等身体魔素関連部位観測事例数が中々に残存していないのですよ。

 その上、ネズミ族は他希少獣人種と比較しても個体数が少ないというのも、それら原因の一つと考えられますね。先の大戦にてネコ族に狩られ尽くしたという考察もできますが、しかしそれはまた違ったように思われます。僕一個人の見解及び推測を述べますと、彼らネズミ族には特定の社会形式、つまりある一定のルールに従い、その生活スタイル兼生殖様式が分類または制限されているのだと愚考します。何故ならば、彼らは繁殖能力及びその欲求が元々高い種族なのです。よって、個体数が多少減少したところで、予測上常識的には、彼らは再びその喪われた人口を性的繁殖により復活させていくはず。

 しかしそれを、おそらく何らかの定められた形式的カルチャー的手段または法律によって、厳重な社会的束縛の下、あらゆる繁殖用法さらには生殖リビドー減少に充てている。要は、意図的かつ人為的な人口削減に努めているわけですね。理由は、未だ現在模索中です。人口を制限することによって、結果的に殺されるまたは死ぬこととなる個体数、死体、損害数を減らす。人間史上で言うところの、間引きと似たようなものです。しかし彼らの場合は、出産以前よりの対策傾向、合わせて弱小種族なりの倫理的発想による生存戦略なようですが。

 そうして彼らネズミ族は、その種族存在ごと、この世界地形の辺境にて秘匿させることに集中。さらに、種族的社会封鎖機構及び当文化によって、人民への連帯感を促すとともに、適切に処理されない個体はその生活区域から切り離す、または社会合意による妥当性合理的な殺害、抹消。これも人間史表現だと、村八分や異端審問ってところでしょうかね。

 というのは全てこの僕、愚かしくも浅ましい一研究職者の馬鹿げた妄想です。一介の人間の独断と偏見に基づいた意見でしかありませんね。エビデンスも充分に揃っていないのですよ、日々努力はしているのですが。なかなかどうして、彼らは僕に心を開くことはありません。そこそこ優しく接しているつもりですがね。まあいいでしょう。そこは今この会話には関係のないことですね。根拠なく考察を述べる、ハハ、研究者失格です。

 とにかく、チュー三郎さん、でしたっけ。彼女は本当に珍しい事例です。おそらく、僕以外にも街中等でお声を掛けられたことがあるのではないでしょうか。それら目撃者は、とてもラッキーな方々ですね。そして、この僕も運が良い。今日はとても素晴らしい日です。あなた方と出会えたのですから。もちろん、比喩ではありません。今日この時間この場所で僕が、彼女チュー三郎さんを視認した事例。これほどまでに、蓋然性が乏しいことはないでしょう」


「……」


 すげえ。今のビードの台詞だけで、原稿用紙三枚半はいっている。プロの早口言葉で一分間に六〇〇文字だとして、二分強だ。それを単純な音数に直すと(漢字も多いことだし)、もはや読み上げるのに何分かかるのかわからない。そして、字が密集し過ぎて、めっちゃ読みづらい。


 そもそも、何を解説しているのか、内容すらわからなかった。というのも、途中からハジメは若干寝ていた。元から、昼間のイノシシ戦や先ほどまでの祝勝会と合わせて、うとうと状態だったのだ。なんなら、昨日までのザクロトカゲベロチューダンジョンや、今朝のザクロワゴンダッシュも、それら疲労に含まれている。


 ハジメはなんとなくその話を、朧げな脳味噌内でまとめる。


 ──要は、ベルみたいなネズミっ娘は珍しいってことだな。


 だったらその一言でいいじゃねえか。なんでそんなグダグダ並べるんだよ。ああ、研究者だからか。そういえば白衣も着てるもんな。ただの、変態コスプレイの延長かと思ったけど。言ってることはまともに賢い人らしかった。


 それにしても、やっぱ相当珍しいのか、ベル。今までもネコ獣人とかイヌ獣人、ウサギ獣人とかは割と街中でもちらほら見かけたことはある。が、ネズミ獣人はベル以外、見たことがない。


 そうかそうか、ベルは激レア獣人種族ってことなんだな。


 ……なんだろう。軽い優越感。


 ハジメは食堂内をキョロキョロと見渡す。該当の、激レアネズ耳少女・ベル。彼女はキッチンから既に降りていた。もう全ての食器を洗い終えたらしい。早い!


 そして、現在床にクリーナーを掛けている。と言っても、雑巾掛けだが。丁寧に、落ちた魚の骨なんかを拾って袋で縛っている。えらすぎる。翌日、ちゃんと食堂の人たちに、この働きを伝えたほうがいい。いや、そうするべきだ。


 脱法者ベルは、無償労働者ベルに昇格した。どこまで行ってしまうんだ、この子は。少しいやかなり、その将来が心配でしょうがない。


「はあ。ベルはそんなに激レア種族なんですね。幸運の銀色ネズミなんですね。

 まあ、たしかにあの子以外のネズ耳は、見かけたことはないです。おれが見たのは、せいぜいイヌとかネコとかウサギとかトラとかヤギとかですね」


「ヤギぃ!?」


 バンッ!!


 と、ビードは突如テーブルをぶっ叩いて起立した。


「……え?」


 ハジメはおっかなびっくりしている。急激な反応と、その机を叩いた音に驚いたのだ。純粋にびっくりした。床を磨いていたベルも、その大音量にびっくりして、跳ね上がってギョッとして振り返ったくらいに。


「ヤギヤギヤギ、ヤギぃ!? そ、それと、トラ? トラも!? 嘘だろ!」


「……いや、嘘ではないですけど……」


「マジで。いつ。どこで。誰が。誰を。どのように。どうやって。何を。どのように。如何にして。なぜ。どれを。どうしたら。そうなった」


「いや、普通に」


「普通じゃないだろ! ええ!? お前何言ってんだ……妄言癖か? 大丈夫? 通報する? 頭でも狂ったんじゃないか?」


「通報しない。狂ってません」


「じゃあホント!?」


「はいそうです」


「すごい、教えて!」


「……」


 ハジメは尻込みしつつ辟易した。テーブルを挟んで対面するビードは、もはや迫って眼前に来つつ、ハジメと接吻かますような勢いである。その目は、完全に研究職としての、好奇心及び探究心いっぱいの目であった。


 そんなに珍しかったのか、あのヤギ娘。ザクロ曰く、ドリーって名前だったっけ。それと、さっきまでここで開かれていた祝勝会にいた、トラショタファイター・リュウズの存在も、何気に激レアカウントに入っているらしい。


 今のビードの興奮っぷりは、先ほどのベルの時と、明らかに反応が違う。まあ、ハジメのいた現実世界でも、ネズミよりはヤギのほうが個体数は少ないだろう。トラなんて、なおさらだ。


 ネズミはもう、そこら辺にいる。ハジメは都会っ子だから、あまり見たことはないが。でも、普通に一般害獣だ。


 だからだろうか。リュウズみたいなトラ獣人は、レア中のレア、つまり希少種らしい。ハジメはビードに、色々教えてあげた。自分がこれまで異世界で見てきたことを。で、その合間の彼の頷きや、その輝く目、熱心な態度から、そう推察できた。というか、本人もそんな語りを(先ほどの長文解説みたいに)つらつらと述べていた。


 ヤギ──角型獣人は、さらに激レアも激レア、超超超超激レアらしい。もはや、絶滅危惧種レベル。世界にも、その確認事例は三桁もないらしい。その角型獣人の中でも、特にヤギは観測された件数がほぼない。(ゼロ)と言っても、過言ではない。もはや絶滅したとさえ言われている。


「……マジか。あいつ──ドリーは、そんな絶滅危惧種的、人間国宝的、人類の財産的ポジションだったのか」


「そうです!」


「はあ。普通に中二病のふざけた奴かと思った」


「いえ。生存が確認されたなら、もはや勲章ものです。国家が一つ揺らぎます」


「うわー。それ早く言ってもらいたかったな……」


 なにげにとんでもエンカウントを経験していたハジメは、内心でドリーを捕獲しておけばよかったと、少しいやかなり後悔していた。

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