50匹目 ネズミ、ライド中⑫
わんわんお登場
「な、なにかあったのですか? ちょっとこの惨状は異常ですね。通報したほうがよろしいでしょうか?」
「いやいやいや。大丈夫大丈夫」
通報を宣言したその一般人男性に、しかしハジメは手を振りつつ拒絶する。
ドアを開け入店した男性は、その食堂内の荒れ果てた光景を見渡して、かなり狼狽していた。
当然だ。論理的帰結的反応だ。
今現在、彼及びハジメの視界には食堂が映っている。その食堂は実に陰惨たる光景を極めつつあった。
まず、人が誰もいない。唯一いるのはハジメと、ベルと、謎に酔っぱらい潰れた一般男性おやじ客である。それ以外はいない。店員も消滅、又の名を帰宅した。
そしてその風景。テーブルには食べかけの食事が散乱している。片付けられてない。床にゴミが散乱している。片付けられてない。人がたくさんいた形跡がある。しかし、それらはおしなべて片付けられてない。軽く惨劇だ。
なんとも、立つ鳥跡を濁しまくりな光景が、ここ夜の食堂には拡がっていたのである。事件だと思うのも無理はない。むしろ妥当だ。そのくらい、バイオレンスかつサイケデリックかつカオスなハイパービジュアル。
食堂・オブ・ザ・デッド。そんな感じだ。ちょうど、酔っ払い大の字おやじが死体役みたいだし。このおやじも、いい感じにカオスを演出していた。なんか色々汚いオーラを醸し出している。
「大丈夫ですか? 本当に通報しなくてよろしいんですか?」
「よろしいよろしい」
なんだかハジメは、ハードボイルドな重鎮みたいだった。その凄惨たる食堂の中央、テーブルに付いて鎮座している。周りの舞台と合わせて、まるで戦いが行われた跡地、そこに君臨する唯一の勝者兼生存者みたいだ。
その一般人男性へと無事の知らせを伝える、余裕たっぷり戦場生還者の貫禄。ついでに隣に侍らしているネズ耳少女も華麗なアクセントとなり、戦士男ハジメと、その美少女獣人従者ベル、みたいな構図。
と、男は再びハジメへと会話の糸を繋げる。
ハジメは余裕たっぷりの表情。通報とか、あんまり大事にしたくない。
それに、自分でもこの状況がよくわかっていなかった。皆、謎に帰ってしまった。
取り残された自分のみ。だから、この表情もただの虚勢だ。
「はあ。大丈夫なんですか」
「はいはい大丈夫」
「ははあ……よいしょ」
男は眼前に広がる異様な寝落ち風景に戸惑いつつも、ハジメの座る丸テーブルへと着席した。
……え? 着席するの?
この光景見たら、帰るだろ普通。
「いやあ。まさかこんな珍現象に遭遇するなんてね。人生何が起こるかわかりませんね。ハハッ」
「お、おう……」
ハジメは一瞬思考停止した。男は何故かハジメと会話の糸を途切れさせなかった。
むしろ、その男の存在そのものが珍現象であった。全く行動原理がわからない。人間、自分が理解できないものに恐れをなす生態である。だから、ハジメもその急激にエンカウントした男に若干尻込みした。
しまった。先手を取られた。席を外すタイミングを逃がしてしまった。
「うん? おいマロナ。何を膠着している、入ってきなさい」
「……?」
ハジメは振り向く。と、その男はドアの外にいた、まだ入店していなかったらしい誰かさんを呼んだ。人物。ドアの前に立つ。
『誰か』──獣人だった。
イヌ耳少女が、そこにいた。
「はい、ご主人様……」
「ご、ご主人様!?」
ハジメは思わず吹き出してしまった。少女はこの謎の男を、たった今『ご主人様』と呼んだ。
ご主人様。異世界に来て、なにげに初めて聞いた言葉だ。いきなりの、そのフィクションじみたパワーワードに、ハジメはさらに深く尻込みしてしまう。もはや尻が椅子に貫通しそうな勢いだ。
「こら、ご主人様はやめろと言っただろ?」
「は、はい。申しわけございません」
「いい。早く入りなさい」
「はい……」
(……)
ハジメは絶句していた。その見知らぬ二人のやり取りに、ではない。彼女──イヌ耳少女の服装に、である。
ほとんどコスプレみたいな格好だった。ちょっとハジメにはわからないジャンルのファッションだ。なんなら、ベテランコーディネーターでもそのジャンル特定は出来ないかもしれない。
イヌ耳少女。彼女の衣装。
あえて説明するならば、なんか軍服セーラーがボンテージになったみたいなコスチュームだった。いや、セーラーの元ネタが水兵だから、軍服の部分と若干重複しているのは否めない。
しかし、それを補って余りあるほどの、圧倒的ビジュアルコスチューム。
もはやコスプレとかそういう域を逸脱した、罰ゲームみたいな格好だった。
露出が激しい。なのに、将校みたいな帽子はちゃんと被っている。でもケモ耳が生えているから、少しずらして乗っかっている。
左のイヌ耳だけがぴょこんと飛び出ている感じ。右耳は帽子インだ。耳介の先っぽの、少し余った分が伏せて軍帽からはみ出ている。
露出が激しい。なのに、グローブとゲートルとブーツはちゃんと装備している。
これはグローブ部分がレザーの割と厚手のやつで、ゲートルはベルトみたいな意匠のぐるぐる巻き(ベルトでどうやって巻いたのか仕組みはわからない)、ブーツは軍靴のくせしてハイヒールのような突起がついている。
非常に戦闘向きではない。実用性皆無だ。アホだ。
露出が激しい。激し過ぎる。ほぼ半裸の様相。
女子高生セーラー服スカートは例の餃子ヒラヒラタイプのやつで、それが黒光りするボンテージ。
よくそんなヒダが作れたな。材質が気になる。本革じゃないのか。
で、何故か無意味にスリットが入っている。それもなんと前側に。
いやはや全く、防御も隠蔽もクソもない。隠す気・〇。パンツ丸見えだ。まあ、こちらも黒いピカピカのやつで、いわゆる見せパンというものなのだろうが。
腹は完全に出ている。ついでに背中も。人体において、脳と心臓を除いて一番守るべき臓物袋所持部分が、全く防がれてない。
ちなみに、この世界には、防御力とか攻撃力とかいったパラメーターは存在しないらしい。だから、刺されたら刺された分だけ受ける。
まともな奴なら、出来る限り布面積を大きくして、防御区域を増築すべきである。それがこのイヌ耳少女は、なぜに減少現象。
まあそもそも全身鋼鉄装備でも、相手のモンスターによっては死ぬときは死ぬもんだから、そんなに装備を気にするやつはいないが。
むしろ防御力より、《術》とか【スキル】とかを磨いた方がいいらしい。
特に、《術》の方。これは後天的で、基本的にほぼ誰にでも努力次第で上達できるから(ザクロなんかが良い例だ)、服装とか装備といった問題は、割と各自フリーダムな感じだ(女帝サージュの巫女姿も趣味というか、戦闘の喝を入れる意味合いらしい。ハジメにはよくわからない)。
それにしても、このイヌ耳少女がここまで急所全開なのは、やはりアホの所業と言っていい。可愛いおぺそちゃん。それが丸出し。ついでに下乳も。
セーラー服要素は、ほぼ襟とスカート(スリット入り前開きパンツ丸見え)だけだ。それも黒光りボンテージ。
つまり、
都合肌色部分=
・ゲートル上(膝下から上、スカートまで)
・絶対領域(ほぼ全開)
・肩〜手首
・お腹 (これがおかしい)広範囲。
で、
お腹詳細=
・もう大転子辺りから見えているんじゃないか? めっちゃギリギリ──下部
から、
・下乳(貧乳)丸見えボンテージ胸部
──上部
まで。
非常に幅広いフィールドを陣取っている。
(読みづらくてごめん)
極めつけに、首輪だ。イヌ耳少女に首輪。発想がアホ過ぎる。もはや愛着すら湧く。
ば、馬鹿じゃねえのか……
この『ネズミ、ライド中』(ギャグ編)最終盤に、とんでもないのが来やがった。本当に馬鹿だ。
というか、このイヌ耳少女侍らす、男の方がクレイジーなのか。絶対こいつの趣味だ。女の子の方からこんな衣装は着ない。それに、『ご主人様』とか自分のこと呼ばせてるし。変態野郎だ。
その変態野郎のビジュアルも紹介しておこう。ヤツは髪金のチャラチャラした風貌で、なぜか白衣を纏っている。なのに、非常に人の良さそうな顔で、口調や物腰がまあまあ丁寧だった。
それが、こんな変態趣味衣装着衣、及び外出行為を獣人少女に押し付ける男だとはな。とんでもないクズ野郎だ。
それに、イヌ耳少女の方もベルと同じくらいの年齢っぽくて、たぶん成人していないだろう。やべえ。
(※この物語はフィクションです。登場人物は全員十八歳以上です)
あまりにも危険すぎて、少し注釈を付けてもらいました。ありがとうございます。
髪金白衣変態趣味男は、三十代前半といったところか。現在、その合法半ロリ獣人少女をこちら側へ手招きしつつ、ハジメの対面に笑顔で着席している。やべえ。怖い。
と、やっとストーリーが動き出す。
ボンテージセーラー軍服イヌ耳少女はそのまま、散乱したゴミと食べ残し地雷を慎重に躱しつつ、テーブルまでたどり着いた。そして、変態髪金白衣男の隣へと着席する。
二人は、ハジメと向かい合って座る構図だ。謎に三者面談みたいなシチュエーションが構築される。ハジメはおっかなびっくり、それら行動を見守っていた。というか、見守るしか出来なかった。
現在食堂には計五人の容疑者がいる。ハジメ、ベル、変態男、マロナ(と呼ばれたイヌ耳少女)、酔っ払い潰れおやじ。
さあ、ここから何が始まるのかな?
筆者にもわからない。
イヌ耳少女のコスチュームのビジュアルは、各自脳内補完でどうぞお楽しみください。
自分でもあまり良く考えていません。
どうせビジュアル化されることもないので。
ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございました。




