48匹目 ネズミ、ライド中⑩
ショタと女帝
「ザクロっ。ザクロ、ザクロ、ザクロ、ザクロ、ザクロ、ザクロ、ザクロっ!」
ハジメは素手で地面を掘っている。
既に戦闘によって、その身体は土と灰と汗塗れだったが、またこれでさらに指が血塗れになった形だ。
──男は何をしている?
ハジメが見た、最後の景色。ザクロをこの目で確認した、その最期の風景。
それは《魔法陣型複数魔力増幅機構》を放たれる前に、彼女が例のイノシシの巨体の下へ、潜り込んでいる映像だった。
下へ、潜り込む。
まるで、自らを犠牲としてでも、その巨体を担ぎ込み、拘束し、硬直し。
己を接着剤として、敵の身体を地面へと固定するように。
形としては、イノシシをヘルメットみたいにして被った、防御の姿勢にも見えるだろう。あたかも自分の身だけを案じ、緊急避難したような。
が、ハジメには全てがわかっていた。
彼女が戦士たちの前へと、その姿を最期まで決して現さなかったことを。
頑なに隠密行動を敢行させ、戦闘では四六時中潜伏し、味方の回復治療に努めていたことを。
そして──彼女が何より、その冒険者たちの身を案じていて。
皆を、誰よりも強く想い、自らを引き立てることなく、かの勝利条件を遂行させたことを。
「ザクロ、ザクロ、ザクロ、ザクロ、ザクロ、ザクロ、ザクロっ……」
全く、緊急避難ではなかった。
むしろ、一番の危険地帯へと、彼女はその身を先行させていた。
《魔法陣型複数魔力増幅機構》。──
現在、イノシシがその中央で確実に死んで横たわっている。
まともに喰らえば、B級モンスターだろうが、A級雷術師だろうが、生命はない。
その下。
ザクロが生きていた時いたハズの、敵の巨体の下。無惨に表面が黒焦げになった巨体の、屍体の、亡骸の──その下。
彼女はいなかった。
その姿さえ残らず、焼土と化した。
「ザクロ、ザクロ、ザクロ、ザクロっ」
ハジメは掘り続ける。爪は剥げ、指は出血し、その皮が裂けてボロボロになっている。
かつて、あのネコ耳美女がいた場所を。
死ぬ気で除けた巨大イノシシの下、その地面を。
「ザクロ、ザクロ……ザクロ」
最初に出会ってから、五日。まともに会話したのは、昨日から。
まだそれだけの日付しか経っていない。まだそれしか時間を共に過ごしていない。
なのに、自分の半身のような。
彼女が死んだら、同時に自分も死んでしまうような。
「ザクロぉ……」
もう何も聴こえない。何も見えない。
冒険者たちが、無心に掘り進め、やがて無力に放心したハジメを揺さぶり、問うように何か叫んでいる。が、それすらも感知できなくなるほどの、絶望。
男は狂っていた。ああ、自分も死のう。
そう思い立ったのは、しかし彼が彼女との間に結ばされた契約、《従魔契約》あってのことだろうか。
否──そうでなく。
純粋な心。その臆で、ハジメは彼女を。
あの突拍子もない、破天荒で、自分勝手、でも周囲を誰よりも思いやっている。
ザクロを、そんな女性のことを、本当に、本当に。──
「ああ……ザクロ、」
■■■
バチバチッ。
突然、電撃がハジメの背中を襲った。振り向く。
「──!」
ザクロだ。
彼女は生きていた。生存、していた。
遥か向こうの茂みに潜伏しつつ、かなり距離のあるハジメへとその片腕を伸ばし、電撃を一直線に放っていた。
無論、衝撃の音が響く。他の冒険者は、突如としてハジメを襲った電流に驚き、後ろをハッと警戒するように振り返る。
が、もういない。
ネコは結果、その身を最後まで隠し通した。離れ業を通り越して、もはや超人の領域である。
彼女の潜伏力はその存在を発現し、彼女自身の存在は、ハジメ以外全ての冒険者へと、戦況全期間を通じて秘匿とされた。
それこそ余す事なく、全ての冒険者に。
■■■
「乾杯ァイ!」
ジークが音頭を取った。ガッチャンガッチャンと、瓶が割れそうなほど激突する音が響く。
食堂だ。ハジメが異世界来て三日目の朝、ベルと訪れて朝食を摂った処。
あのネコ耳美女と、初めてエンカウントした、例の場所。
その食堂に今、冒険者たちは集い、祝杯を上げていた。
「ジーク兄貴、さすがっした!」
「兄貴ィんん、最高よん。エンダム一番、最高に輝いていたわ」
「あ、あの、《血楼愚狼》のジーク様ですか?」
「あら、さっそく女の子が来たわよん」
「ヒュー、兄貴オットコ〜〜」
「え、えと。先程はありがとうございました! あの、護っていただいて……」
「あーん? そんなのわざわざお礼しなくていいんだよ。綺麗な女性を庇うのは、男として当然の摂理じゃねえか」
「ジーク様……きゅん」
キュンと来ている女の子。さっき戦闘でジークが助けた女の子だ。婚活っぽい下りの。
(42匹目 ネズミ、ライド中④ 参照)
ジークに他の冒険者たちがわらわらと集合する。本当に人望がある奴らしい。
皆の尊敬の目も健在。なんなら、さらにその輝きを増している。
広々とした食堂には、今や総勢二百人ほどの人々がたむろしていた。軽く渋滞現場である。
その内百人は、もちろん出撃した冒険者たち。彼らにB級モンスターの経験値は、平等に山分けされた。
イノシシ。
トドメを刺したのは──全員だ。
食堂は人でごった返している。建物から溢れ出た人間も、店の外でやんややんやと、その異常なまでの賑わいを見せていた。
「ホッホッホ。すごいのう、この人だかり。この儂、ゾッチもおったまげたわい」
「あら、こんなに沢山いても、あなたって輝いているわ、ミダス」
「いいや、ジェリー。キミの方がより輝いて見えるよ。他のやつは鼻くそと一緒だ。ティシューにくるめてゴミ箱にポイしてしまおう、ぶちゅー」
「ああん、ミダス! ぶちゅー」
「ホッホッホ。やっとるなあ」
紹介しよう。老人とダンサーの男女だ。
(43匹目 ネズミ、ライド中⑤ 参照)
老人は木の杖(魔法使いのそれではなく、本当にご年配の方が持つようなフォルムのそれだ)を持っている。
また、その格好。上半身はちゃんとした賢者じみた、ゴキブリみたいな色のローブを羽織っている。そのくせに、下半身はアロハみたいな短パンで、足はビーチサンダルである。
ダンサーの男女。女の方はフリフリのレオタードっぽい衣装、男もマジで気が狂いそうなほどペラッペラの同・レオタードだ。
つか、ほぼ半裸というか、服がぴっちりしてて、股間なんてモッコリが普通に浮き出ている。むしろその衣装を着ることによって、全裸よりもクソみたいな変態性が強化されたみたいに。
二人はぶちゅーしている。なんかもう勝手にやっとけって感じだ。
クソアベック! ○ァック!
「あのぅ、ジェイドさん。大丈夫でしたかぁ?」
「う、うむ。拙者は平気だ。それよりローズ殿、そなたこそ傷が深いのではないか?」
「いいえぇ、私は平気! だよぅ。あ、『平気』って、被っちゃいましたね、えへへぇ……」
「う、うむ……」
「「ニヤニヤ」」
「む、おぬしらッ。何をニヤニヤとしておるのか!」
「「ヘッヘッヘ」」
ニヤニヤと二人を見、ほくそ笑む男たち。
その二人──十代後半くらいの若い女の子と、傭兵みたいなデカ男おっさん。
(43匹目 ネズミ、ライド中⑤ 参照)
(↑さっきとおんなじ)
(45匹目 ネズミ、ライド中⑦ にも)
男の方は侍みたいな口調で、自身たちの仲を慈愛に満ちた目つきで見守る周囲の男たちを、牽制している。照れているのだろう。
女の子は例の斥候の女の子だった。陸上軍みたいな迷彩服とメットを被り、そのおっさん・ジェイドへと敬礼している。慕っているらしい。
少し気の抜けた、ぽわぽわっとした口調の子だ。高校生女子くらいに見える。
ぶっきらぼうな武士傭兵おっさんと、彼へ純粋に懐いているミリタリー斥候女子。
その慕い合う、しかし中々進展が無さそうな二人を、周りの知り合いの男共が『甘酸っぺえ……』といった感じに見守るといった構図だ。
「はあ。私の《魔法陣型複数魔力増幅機構》、効かなかったかあ……」
「いやでも、あれのお陰でイノシシの体力、かなり削げてたっすよ先輩! 気にしないでください!」
「ガッハッハ。リュウズの言う通り、気にすんなって、サージュ! それに、二発目でトドメを刺せたじゃないか。このゼンバ様もびっくりだ。あれは良い働きだったぜ、グッジョブ!」
「うんうん。サージュがいなかったら、俺たち全滅だったよ。ありがとうサージュ」
「そ、そんなガットさん。頭をお上げくださいっ」
「いいやー、サージュを生き残らせて良かった! 護った甲斐があったな、な? リュウズぅ」
「ええ……ゼンバさん、ボクに振らないでって言ったでしょう?(小声)」
「んだよ、なっさけねえなぁ。それでもタマ○ン付いとんのかぇ!?」
「ひゃああ、お尻ぶたないでくださいよ!」
「ガッハッハー」
……まあ台詞がたくさんあること。
整理しよう。
(45匹目 ネズミ、ライド中⑦ 参照)
まず、今尻を打たれた男の子は、例の獣人少年だ。どうやらよく見たところ、トラの獣人らしい。
外見はショタ。完全に美少年のショタっ子である。ショタコンホイホイな素晴らしいトラ耳ショタだ。ついでに可愛いしましま尻尾も付いてるお☆
格闘家みたいな格好をしている。たぶん、職業は文句なしにモンクだろう(だじゃれ)。柔道着みたいな白い布に身を包み、腰を黒帯で締めている。
トラ耳格闘ショタ。う〜〜ん、Excellent!
お次は、そのショタケツをぶっ叩いたふざけんなクソ野郎、おやじ(斧)だ。
ワンマンプレーを実行しようとしたハジメを引き止めた、あのおっさん。
(ライド⑤終盤、⑥序盤参照)
ガタイがいい。異世界モノでよくいる荒くれ者だ。それ以上は描写説明しない。あいつショタ叩いた。人類の敵だ。
で、同じくそこら辺にたむろしているのが、若い男(弓)だ。なんかもう面倒くさい。勝手に容姿は想像してくれ。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。次が最後の人物ですよ。
最後に、サージュと呼ばれたお姉さん。例の、ハジメの排尿音を掻き消してくれた呪文詠唱の女の子だ。二十代中盤くらいかな?
弓男と同じくらいの年齢だ。結構可愛い系。
後衛職と描写したが、よくよく見ると巫女姿みたいな服装だった。あと、杖だと思ってたのは幣だったらしい。神主がよく持っている、あれ。
なぜそんなビジュアルなのかというと、例の巨大魔法陣《魔法陣型複数魔力増幅機構》。
その生みの親というか、発動させたのが彼女・サージュであり、職業は結界師のようだった。
おお、結界師。異世界来てようやく面白そうな役職の人と出会った。
サージュちゃんはどうやら、ハジメと同じくユニークスキル持ちらしい。
ハジメは【みじめ】。
彼女は【魔法陣結界:炎塔の章】。
えーなにそれ。めっちゃカッコイイ。
ユニークスキルのネーミング水準が全くよくわからないが、少なくともハジメよりは強そうな特別スキルなのは理解できる。
で、その謎に光っている結界スキルを、彼女は自身の戦闘の持ち味としているのだ。
だから重宝される。我が街エンダムには、無くてはならない人材、存在。
昼間のイノシシ戦の時も、彼女だけは後方に送り、皆で最後まで護り抜く勢いだったそうだ。
エンダムの女帝とも呼ばれている、というのはジーク提供の噂。
トラショタファイター、リュウズ。
荒くれおやじ(斧)、ゼンバ。
若い男(弓)、ガット。
結界師【魔法陣結界:炎塔の章】、サージュ。
(45匹目 ネズミ、ライド中⑦ 参照)
(↑さっきも言ったか?)
そう、彼らこそエンダム二番手のパーティ、《對贇瑩餐》である。すっげえ名前。
え? 一番手は誰だって?
言ったじゃないか、ジークたちだよ。
《血楼愚狼》。
各名前↓
老人『ゾッチ』
ダンサー男『ミダス』 女『ジェリー』
斥候女子『ローズ』
武士傭兵おっさん『ジェイド』
トラショタファイター『リュウズ』
荒くれおやじ(斧)『ゼンバ』
若い男(弓)『ガット』
結界師尿音消し女帝『サージュ』
兄貴『ジーク』
子分『ゲルク』
口紅『メイジ』
彼らは多分もう出てきません。
覚えなくていいです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




