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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第二章 獣人奴隷解放
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46匹目 ネズミ、ライド中⑧

ライダーベルキャッチ

「ま、街に居たんじゃなかったんですか、ベルさん!?」


 ハジメは叫んだ。が、その声が本人に届いているかは定かではない。

 ベル。今現在、彼女はあの恐ろしい巨大イノシシモンスターにライド中である。


 まともな脳味噌を持つ賢明なる冒険者たち(あなた方)なら、もうお分かりであろう。彼女が今、とんでもなくむちゃくちゃな行動を起こしていることに。


「う、う、うう……」


 ぴょんぴょんとホッピングするイノシシに、しかし、かのネズ耳少女はヒャッハーしながら乗りこなす。無論、そんな余裕など無いのだろうけれど。しがみつくので、精一杯だ。

 が、驚くべきことに、また賞賛すべきことに、彼女は本当に奮闘していた。


 既に縄は拡がりながら、その巨大な体躯のアチラコチラにがんじがらめに引っ掛かっている。もはや抜け出すなど、さしものあの猛獣でも、望むべくもない。


「べ、ベルさん危ない!」


「ちゅ?」


 と、ハジメは再び恐怖の叫びを上げた。

 無理もない。イノシシは方針を変えたか、突如としてその身体を、くるりと方向転換させた。

 かと思うと、猛烈に足踏みし、未だ残っていた向こうのとりわけ巨大な一本の樹木へと、文字通り猪突猛進し始めたのである。


「ああっ」


 目を塞ぐ冒険者たち。これは確実に死んだ。

 ほとんど自滅の勢いで突っ込む、イノシシ。それに搭乗した、ライダーベル。


 樹木は折れるだろう。太い幹だ。

 が、それでも彼らは止まらないかもしれない。そのまま突き進み、死ぬまでその突進を繰り返すだろう。

 それに巻き込まれる、あわれな獣人少女。


 あたら若いその生命、憶えておこう。

 せめて我ら戦士の間でも、その勇猛果敢、愚かしくも懸命に戦った姿を、脳裏に刻みつけよう。

 塞いだ手の隙間から、ちらりと覗く。気になるとか野次馬根性とかではなく、後への追憶という崇高で高尚なる使命の為に。


 ──が、波乱。


「ベル!」


「は、ハジメさん!?」


 なんとその前から、あの同じく愚かなる電気男が飛び込んできた。見事なキャッチ。

 男は少女を救う。進行するイノシシの背中、その上へと水平に、さながらスリングショットのようにフライしつつ。


 ──飛翔! 男は獣人少女を庇った。飛びながら少女を受け止め、抱きしめ、その身体は(オトコ)のまま背後の樹木へとダイブする。


 ……結局、ぶつかるんかい!

 まあ、庇った分だけ(あとハジメが電撃で衝撃を緩和させただけ)、イノシシよりは色々と免れたんだろうけれど。


「あうっ」


 ハジメの衝撃緩和の電流に巻き込まれたベルが、小さな悲鳴を上げる。

 当然の帰路だった。彼は彼女を抱きかかえていたのだ。身体全身を包みこまれるように、まともに喰らう、その電流を。


 が、大した攻撃でもない。スキル【みじめ】発動。レベル交換の法則だ。

 ハジメの電撃は樹木を軽く一掃したが、その腕に抱く獣人少女にはほとんどダメージを与えなかった。


 ──負傷! 男は獣人少女を庇った。その身体は華麗に着地するでもなく呆気なく轟沈し、そのまま深い森林へと強烈な大音量を炸裂させる。


 ああ、森林破壊も甚だしい。

 ハジメの電撃は、何本もの樹木を薙ぎ倒して昇天させる。こういう奴がいるから、地球温暖化は収まらないんだよ。

 皆さんもみだらな殺生はしないように。今日の授業はここまでです。佐藤さん山田さんもさようなら。太郎くん花子さんもまた明日。


「は、ハジメさん! 大丈夫ですか!」


「ハッ」


 ──目覚めた。

 学校の幻覚を見ていた気がする。

 起き上がる。ベルだ。ノーライダーベルだ。


「ああ、生きていた……よかった……ぐすっ」


「な、泣いてる!? そんな、ハジメさん大丈夫ですよ、あたし、生存してますよ……」


「うん……うん」


 ハジメは変なテンションである。きっと長時間の疲れが、ベルを救ったという一つの緊張緩和のもと、一気にドッと放出されたのだろう。可哀想に。


「そっち行ったぞ!」


「うわああ!」


 雑な悲鳴が聞こえる。顔を上げる。

 イノシシ、健在。


 縄でぐるぐる巻きにされてはいるものの、しかしその運動能力全てを包括的に拘束できたわけではなかった。

 敵はまだ「ゴフゥゥ、ゴフゥゥ……」と鼻息荒く怒り狂いつつ、冒険者たちを目の敵にしているようだった。


 もはやキラーの眼だ。確実に殺意を孕んでいる。


「やべえ……まだ拘束できていなかったか」


 と、ハジメは独り呟く。

 さっきまで、自分一人で殺そうとしていた敵だ。が、今となっては、ベルさえも協力してくれたのだ(何故ここにいるのかはまったく疑問だが)。

 せっかくここまで来たのなら、やはり皆で仕留めたい。何とかして、あのロープを引っ張って来て、さっきの魔法陣(なんちゃらフィールド?)にぶち込めやしないか。


 キーワードは『せっかく』だ。人はそういうのに弱い。ビジネスでも、この言葉で販促すると、まあまあ効果が出る。


 原点回帰。勝利条件通りで行こう。

 ハジメには、さっき回復薬を飲んだ分と、今一瞬気絶した分、微弱だが戦う力は残っている。


 それと、我々一番の切り札(ザクロ)が、まだどこかに潜んでいるハズ。──


「あれ!? ザクロ!」


 ──その切り札は、今まさに身を低くしつつ。

 例の手綱を握って、イノシシを引きずっている最中だった。

 ……なんと、その体勢ですらも、頑なにその身を茂みに潜伏させながら。


「こな……くそッ」


 さすがのザクロでも、あの巨体は重いらしい。少し力負けしている。

 と、イノシシが引っ裂くような叫び声を上げ、にわかにロープ向けて、その火炎息(ファイヤー・ブレス)を浴びせかけた。


「しまったッ」


 ハジメは駆ける。縄が、燃やされてしまう!


 ──が、燃えない。その業火にジリジリと苦悶の声を上げつつも、しっかりと耐えている。不思議なロープだ。

 例え不燃性とか、鋼鉄で出来たとかでも、全く燃えず溶けもしないのはおかしい。恐らく、あのレベルのイノシシの炎は、凄まじい温度だろうに。


「アタシの縄ちゃんは、そんじょそこらの縄じゃないわ。この街特製、エンダム印の魔道具ロープなんだから!」


 と、メイジが声を張り上げた。ガッツポーズ。

 にわかに湧く戦士たち。士気が回復してきた。


 それはたしかに、ハジメやベルの影響なのだろう。彼、彼女は、ぱっと見めちゃくちゃ弱い。が、そんな奴らだからこそ。

 特にベルなんて、こんなにも小さい少女が頑張っているんだ。そして、ちゃんと結果を出した。敵の拘束に成功したのだ。

 それを見て、自らも奮い立たない冒険者がいるであろうか?

 それを眼前にして、自らを情けないと思わぬ戦士がいるであろうか?


 そんなのがいたら、それこそ本物の。

 ──愚者である。


「皆! 《魔法陣型複数(マージナル・ユナイツ)魔力増(・ルミネイト)幅機構(・フィールド)》に集まって!」


 と、声がする。ああ、後衛職(杖)のお姉さんだ。ハジメの尿音を掻き消してくれた。

 本当に、透き通るようないい声だ。声優にでもなったらいい。


「「おおう!」」


 呼応する戦士たち。駆ける。大移動。といっても、二十名ほどだが。


「あ、そうだ。他の人たちは!?」


 気付くハジメ。振り向く。

 石のようにゴロゴロと転がった冒険者たち。瀕死、無惨、無力。およそ、八十名ほど。


 ──彼らを置いて、行ける?

 ──彼らだって、頑張ったのに?


 ……




 ■■■




 バチバチッ。


 突然、電撃がハジメの背中を襲った。振り向く。

 ザクロだ。彼女は潜伏しつつイノシシを引き連れたまま、ハジメへと片腕を伸ばし電撃を一直線に放つ、といった器用な離れ業を見せていた。

 無論、ハジメのみにである。他の人々は気づかない。


 静かなる対話。流れる一瞬。

 その、ネコの睨むような、マスカット色の双眸。……




 ■■■




 と、慄然、ハジメは全員と反対方向に向かって走った。

 驚く冒険者たち。が、もう気に留める奴もいなかった。

 きっと、彼には策略があるのだろう。皆、なんとなくそう感じていた。ハジメの行動が、彼らをそう信頼させるに至った。

 ハジメの先ほどのワンマンプレーは、決して無駄ではなかったと。──


 そしてハジメは、叫ぶ。

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