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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第二章 獣人奴隷解放
50/80

45匹目 ネズミ、ライド中⑦

起きて盗んで(四人パーティ登場)

「あっ、ハジメさん目覚めました!」


「よし、もう一回、回復薬飲ませろ!」


「はい!」


 ……知らない冒険者が、ハジメを介抱していた。


「大丈夫ですか? 今、敵から離れた所に居ます。……会話できますか?」


「……おう」


 返事すると、そのハジメにまた別の冒険者が、小瓶に入った黄緑色の液体を飲ませる。

 嚥下した。すると、みるみる身体の傷が塞がれていく。痛みも、引く。


 ハジメは地面に寝かされていた。上体を起こす。

 自分を介抱する見知らぬ冒険者たち(四名、パーティだろうか?)を見遣る。意識がハッキリする。


 さっきの人──ハジメがイノシシとワンマンプレーで組み合ってた時、話しかけた若い男だった。弓を背負っている。

 それと、ハジメを制止したおやじ。単身、乗り込もうとした時の。斧を担いでいる。

 あとは杖を持った後衛職みたいな女性と、格闘家みたいな獣人の少年だ。


「あの……おれは」


「ハジメさん。言われた通り、《魔法陣型複数(マージナル・ユナイツ)魔力増(・ルミネイト)幅機構(・フィールド)》を展開しておきました。でも、二回目で本当ギリギリなので、規模と威力はさっきより少ないんです。それと、目標には近付けなくって、描いたのは向こうの方なんですけど……うまく誘導させます」


 と、にわかに報告した冒険者の一人──若い男(弓)が、指差す方を見る。

 向こうの方。右側の少し、木々が開けた場所。

 そこに、先程の魔法陣(炭で描かれた、地面の模様)が広がっていた。

 が、少し小さい。一回目の見事な巨大魔法陣よりも、円の大きさが、小さめだ。

 ギリギリ、イノシシが収まるくらいだ。


 もう一つ、風景を見遣る。今度は左側、もっと向こうの方。

 木々は薙ぎ倒されて、ほぼ真っ平らになっている。異様なフィールドだ。

 そこに、人間・獣人合わせて人類、約二十名ほどの冒険者たちが、例の巨大イノシシと闘っていた。

 皆一様にして、ボロボロである。


「嘘だろ……?」


 およそ百人いたのが──今や、二十名だ。

 他の人たちは、すでに戦闘不能でそこら辺に、人形みたいに転がっている。

 それを、なんとかして引きずる救護隊たち。安全なところまで運ぶつもりだ。


 ……それ程までに、イノシシは強かったのか?


 今だってほら、女の子──ああ、あの斥候の子だ。さっきの、魔法陣攻撃の後で、おっさんに水をあげていた女の子。が、おっさんを引きずって木の陰まで行こうとしている。

 しかし、その子さえ無惨にも、イノシシの尻尾に薙ぎ払われた。

 地面にズザーッと引きずられる。と、抱えていた、おっさんとともに動かなくなった。


「こんなに、壊滅状態なのか……」


「──今、調査隊がギルドに連絡を入れています。クエスト失敗です。一旦引き揚げて、近隣の街にも助力を仰ごうと思います」


 呟いたハジメ。それに応えるように、後衛職の女性(杖)が言った。

 その声は、あの時の──ハジメが立ちションした時、排尿音を掻き消してくれた呪文詠唱の、女の子の声だった。


 ハジメは再び問う。これも、一人呟くみたいに。


「じゃあ、助けを待つ間、街は……?」


「……」


 女性は俯く。歯で、唇をギリッと噛んでいる。

 と、その後ろからおやじ(斧)が彼女の肩を叩く。真剣な面持ちだ。親指で、『自分たちは行ってくる』というジェスチャーをする。

 そして若い男(弓)と、獣人少年(拳)とともに、戦況へと向かう。


「待ってください──おれも、行く」


「!?」


 立ち上がったハジメに、振り向く男三人。座り、ハジメに話しかけていた女性も見上げる。

 その四つの目は、異様だ。ほとんど信じられないといった目で、驚愕しつつ、そのハジメを見ている。


 が、もうハジメに意気揚々とした、戦士の輝きは無かった。クエスト前、ギルドでのあのテンションは無い。

 もうふざけている場合でも、その状況でもなかった。


 ハジメは突撃する。なりふり構ってられない。


「──街には、ベルがいるんだ! 今だって、ずっと震えながら待ってるんだ! 他の奴らはどうだっていい! ただ、ベルが、ベルだけは……!」


 電撃の如く、瞬時にイノシシの前に到達する。

 そのまま駆け抜ける勢いで、敵へとトドメのパンチを喰らわせに行く。


 勝利条件。ワンマンプレー。そんなのもう、関係ない。

 ただ、イノシシ(こいつ)を倒す。

 街に待つ、ベルを助ける為に。──


「ちゅ?」


「ふぇ?」


 ()()()()、と。

 イノシシの背中。その剛毛から、ネズ耳が生えた。


「……うおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 ズザザザザッ。

 ハジメは咄嗟に軌道を変えて、空中で拳を逸らせる。と、そのまま向こう、奥の樹木に激突した。

 森林破壊も著しい。五、六本の木々ともども、地面へと抉るように引きずって、墜落する。


「べ……()()()()!?」


 ガバッと跳ね上がるハジメ。頭から血がピューピューと吹き出している。ゾンビみたいだ。

 その見上げる視線は、たった今気がつく、イノシシの背にライドしたネズ耳少女へと向けられていた。


「え、何やってんですかベルさん!?」


 再び驚愕の声を上げる。

 幻覚かと思う。目を擦る。疑う。

 しかし、光景は変わらない。


 光景──その獣人少女が手に縄を持って、それはもうカウボーイよろしく、その縄をヒュンヒュンと投げ、イノシシの牙に引っ掛けたことも。


「「な!?」」


 他の冒険者も気付いたらしい。眼前の異様な光景に呆気にとられる。いきなり出現した縄と、その手綱を握る少女に。


「べ、ベルちゃん!?」


 と、遠くで密かに瀕死の戦士たちを治療していたザクロも、つい驚きの声を上げる。

 ああ、ザクロお前、そこにいたのか。すごい潜伏具合だな。

 いやホントすげえよ。誰にも気づかれずに回復させてる。功労者(MVP)だよ。


「えいっ」


 と、再びその少女──カウボーイ(ガール?)で『ヒーハー!』するライド・ベルは、縄を投げた。

 すると反対側の牙と、ついでに角にもそのロープが引っ掛かる。

 ……なにげに命中率100%(ヒャクパー)だ。


「フゴッ!?」


 ──しかし、敵のイノシシも気付いた。

 やっとだ。ヤツも呆気に取られていたらしい。


 すぐさま猛烈に暴れ始める。ドッシンバッシンと、その場でジャンプ、旋回、足踏み、身体左右振りなどを試みる。

 が、ベルは落ちない。その小さい体躯を縮めながら、背中の赤い剛毛に張り付いている。


 いわゆる、乗り状態だ。ゲームなんかでよくある。


 その手に手綱をしっかりと握ったまま、一切離されることなく(というか、屈んでるから、剛毛に埋もれてネズ耳しか見えない)しがみつき、見事なまでに乗りこなしてる。


 ロープはキツく絡まっている。いつの間にか腕を通して肩にまで引っ掛かっているから(すげえな)、絶対に外れることはない。


「っていうか、あれ何の縄だ!? ベルさんどっから持ってきた!?」


「──ああ! アタシの縄ちゃんが無い! いつの間に!」


 振り向く。メイジだ。おお、お前も生存者側だったか。

 約二十名の中のその口紅男は、叫びつつ腰のベルト辺りを見る。先程ギルドで紹介した時にはあった、鞭と縄の位置だ。


 彼は鞭を持っている。それで戦っていたのだろう。

 が、腰には縄が無かった。おそらく、イノシシに掛けられている。……


「ま、まさか」


 ハジメはベルの方を向く。正確には、彼女のライドする巨大イノシシ、その背中の方。


 ロープを、盗んだ。

 皆の目を、盗んだ。


 そして今まさに、イノシシにライド中の。──


「ベルさん!?」

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