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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第二章 獣人奴隷解放
37/80

33.5匹目 馬車、移動中③ 〜All is your dream〜

「……つまり、人類に言語が一種類しかないのは、魔素の影響ってことですね?」


「然り。反対も言えるわ。もし魔素のない世界だったら……ってね」


 魔素のない世界。

 言語が統一されることはなく、獣人もモンスターもいない世界。

 ついでに術やスキルだってないだろう。


(それって、おれのいた世界じゃ……?)


 と、ハジメは顎を指で覆い、黙考した。

 魔素がないというのが、隕石が衝突していない(所説あり)世界線を指すのならば、なんとなく一致しているように思われる。

 この世界にも、ウマに角は無いし、人間だっている。

 きっと、他にも探せば共通点がワッサワッサと堀り出てくるだろう。


(が、土地の形は?)


 こればっかりは隕石だけでは説明がつかなさそうだ。

 実際この惑星(そういや名前聞くの忘れた)は球体らしいし、いくらなんでも大陸の配置や形が地球のそれとは違い過ぎる。

 だから、どんなに巨大隕石が降ってきても、またそれ故に、大きく星の形を変えずに土地の形だけ変えるというのは、まず不可能だろう。


(まあ、おれの乏しい教養と想像力で判断するのも不可能だがな)


 それに、疑問なら他にもそれこそワッサワッサと湧いてくる。

 アッシェリアに近い大陸で発展したのに、人間に獣耳が生えていない理由は?

 (サル獣人という説もあったが、違う世界から来たハジメがこの世界で言う『オリジナル』だと証明している、というのは言ってもどうせ誰にも聞き入れられないだろうけど)

 そもそも、ハジメがこの世界に喚び出された理由は?

 また、その原理は?

 誰がどうやって召喚したのか?

 それらは全て、ハジメのいた世界と何か関係のあることではないか?


「…………」


 まあ、ありえない話だ。

 個人の妄想、ただのタラレバ。


 なんとなく、一度そのアッシェリアとやらに行ってみたくなった。

 魔力濃度が高い──この世界の中心地(誰も踏み入れられない)というところだ。

 ハジメがこの世界に喚ばれた理由とか、戻れる方法とかもわかるかもしれない。


(まあ元の世界(あんなとこ)、二度と戻りたいとも思わんが)


「……ねえちょっと。何だんまりしてるのよ?」


 と、ザクロが沈黙しているハジメを見かねて尋ねた。怪しい人を見るようなジト目だ。

 が、そんな顔もやはり美人である。

 お姉さんっぽい妖艶な雰囲気を醸し出してるけど、実際いくつくらいなんだろう?

 ハジメの年上女性だろうか。

 というのを訊くのも、まあ少し憚られるけども。

 絶対怒られそうだ。

 ハジメは話題転換する。


「あ、そういえば、どうしてこの星が球体とか惑星とかってわかったんですか? 天文学はどこまで進んでるんです? 水金地火木ドッテンカイって知ってます?」


「ああもう、いちいちうるさいわね。ハイハイそうです、わたしは馬鹿よ。あんたよかマシでしょうけど! 魔力よ魔力。もう全部それでいいじゃない!」


「うわあ……言っちゃった」


「はい、この話題終わり! 終了! 閉廷!」


「異世界にも裁判所があるんですか? ……じゃあせめて最後に、この星の名前だけでも教えて下さい」


 それでもやっぱりあまり学に疎いらしいネコ耳美女は、逆ギレするように噛みついた。

 わからないことはオール魔力で通すらしい。なんとも無責任な話だ。

 ま、異世界モノに色々とツッコミ入れちゃあ無粋ってことだな。

 それにしても強引だけど。


「あんた本当無知なのね。……『アーシェイ』。

 聞いてわかる通り、語源はアッシェリアよ。魔素はこの世界の繁栄とか豊富とかを意味することもあるからね。それにあやかってんだわ」


「アーシェイ……」


 なんとなく、地球(アース)と韻を踏んでいるのは気の所為だろうか。

 が、ザクロにこの話題は終わりと宣言されてしまったので、これ以上問うのはやめとく。

 怒られそうなのもあるが、自分もなんだかいっぱい語り合って疲れた。

 こんなに人と長時間(四、五時間くらい?)喋ったのは人生初めてかもしれない。

 そのくらい、ザクロは気が置けないというか、とても会話しやすかった。


 ザクロの長い尻尾がゆらゆらと揺れる。

 同時に、ゴロゴロといった雷みたいな低い落ち着く音が彼女の喉元から流れる。


 なだらかな風。

 その窓から村が見えた。緑色の平和な景色だ。

 ハジメは目を瞑り、思い出す。


 訪れた平和。それは同時に、各地で起こる小さな紛争を見えなくするようでもあった。

 ネコ族とネズミ族がその例だ。大戦で、人間に吹聴されたネコ族がその味方につき、ネズミ族を駆逐した。

 それで戦後に、ネズミ族が復讐に出る。

 

「……あれ、でもベルは大戦がどうたらとか言ってなかったな。人間の技術が発展したから、それでネズミ族がお払い箱になって、みたいな……」


 と、ハジメはふと独りごちた。

 するとそれが聴こえたのか、ザクロの耳がピクリと動く。

 質問であったつもりはないのだが、結局、また回答する形になる。


「まあ、歴史は正しく継承されるもんじゃないからね。

 どっかで縒れて曲がって捻くれて、色んな説が生まれたんだわ。きっと、それぞれがそれぞれに都合のいいように。

 ……それに、この子長い間地下暮らしだったって言ってたじゃない?

 たぶんわたしより世の中について知識が疎いんでしょうね」


 ベルを撫でながらザクロは言う。

 そういえば、ザクロも最初に闘ったとき、両親がネズミ族に殺された、とか言っていたな。

 やはり、こういう闇が依然としてはびこっているのか。

 お互いに殺し合ったから、相当な恨みが種族間に残っているのだろう。


 が、今目の前の光景──ベルがザクロの膝上で安らかに眠っているのを観ていると、やはり種族とか過去の争いとかじゃなくて、今の個人個人の問題なのであろうと、ハジメは思う。


 ネコとネズミ。

 けど、この二人は結構仲良くやれそうだ。

 すごく微笑ましい。


(むしろ、どっちかポジション変わってほしい)


 ネコ耳美女の柔らかそうなはち切れんばかりのムチムチ太腿お膝枕で寝るベル。

 その宇宙一キュートで庇護欲掻き立てまくりのネズ耳少女のお顔を特等席で拝みながらナデナデできるザクロ。

 

 と、馬車が一際大きく揺れる。

 ガタッと車体が傾き、またもやベルに直撃する巨乳。


「ああ! ごめんねベルちゃん。……というかこの子ほんっとに起きないわね。なんだかわたしが寝てる子に無意味に話しかける変な人みたいになってるわ」


「きっと小石でも撥ねたんでしょうね……まあ、大丈夫ですよ。ベルさん結構タフっぽいし」


「そうみたいね……うん? この子なにか言ってるわ」


 と、豊満な太腿と御乳(それこそ豊富を意味するアッシェリアだ)に二度も挟まれた(羨ましい!)ベルは、何やらモニョモニョとその小さな口を開く。


「むにゃ。ハジメさん……」


「ハイ!」


 ハジメの背筋がシャキーンと伸びる。

 ……ベルに呼ばれた?


「あんた寝言に反応したわね。傑作だわ」


「いや、あなたも寝てる人に話しかけたでしょう……てか、今ベルおれのこと……」


「……ハジメさん……」


「「うわっ」」


 二度も喋ったことにザクロもびっくりしたらしく、ハジメとともに静かに叫んだ。


「やっぱおれの名前呼びましたよ。夢でも視てんのかな。つーか、おれがベルの夢に出演してる!? 主演男優賞取っちゃってる? チョー嬉しい!」


「むっかー! なんであんただけなのよ。ベルちゃ〜ん、わたしは〜?」


 と、半ばハイテンション(小声)でやり取りする二人。

 彼らを搭乗する馬車はゆるゆると進む。

 その穏やかな昼下がりの室内に、眠れるベルの唇が再び動いたのを、しかし誰も気がつくことはない。


「……you're a bit crazy…………」

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