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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第二章 獣人奴隷解放
34/80

33匹目 ネコ、異世界講義中③

「ん? これだけ?」


「あ、できたの」


 硬直するハジメの横から、ザクロがそのカードを覗き込んだ。


「何これ? 【みじめ】? 変なスキル名ね」


「こ、これは一体……」


 ハジメはわなわなと戦慄している。


「火属性とか、風魔法とか、そういうんじゃないの!?」


「は? ……ああ、《術》のこと?」


 と、ザクロは一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに納得した。


「【スキル】は先天性。八割くらいの人が『種族スキル』で、基本は一人一つよ。

 たまにあんたみたいな『ユニークスキル』持ちがいるけど、あんまし大したことないわ。

 で、《術》は後天性。適性によるけど、基本努力すれば誰でも手に入るわ。

 戦闘に役立つのは、基本《術》のほうね」


 キホンという単語のオンパレードだった。


「あら、あなたすごいじゃない。このレベルなら、C級冒険者になれそうね。どうりでしぶといと思ったわ」


「ん?」


 と、ザクロの言葉に、再びカードに目を落とす。

 スキル名にびっくりして先ほど見落としていたようで、その下部にレベルが表記されていた。


 『レベル65』


 ……


「でええええええええええええええええ!?」


 なんで? なんで!?


 今まで『レベル12』とかだったよね?


 爆上がりしてる!?


「ハッ! 《悪魔王(ジョーカー)》を倒した経験値か!?」


「うるさいわね……急に耳元で叫ばないでよ」


 ザクロはネコ耳を手で押さえた。

 やっぱその位置でいいのか、耳?


「それに、あんた何言ってんの? 《悪魔王(ジョーカー)》? それって、《ヴィンセント・デーモン》のこと?」


「え?」


 と、このハジメの疑問には答えずに、彼女は飽きたといった風に踵を返した。

 ベルのほうへと向かう。テーブルのところだ。


「ベ〜〜ルちゃんっ。できた?」


 と、ベルの肩を叩きつつザクロは微笑んだ。

 とても猫なで声だ。


「結構早めにテーブル戻ってたから、発行、スムーズにいけた感じね?」


 ハジメもテーブルにたどり着いた。

 ベルはうなだれて、椅子にちょこんと座っている。


「いえ。……レベル制限があって、ギルド入会できないって言われました……」


「「え!?」」


 今度はハジメとザクロのハーモニーだった。


「って、ザクロさんが驚かないでくださいよ! 知ってるんじゃないんですか!?」


「……いや、まさかソコで引っ掛かるとは思わなかったわ。あなたレベルいくつよ?」


「さあ……?」


 ネコとネズミは呆然と互いを見遣る。


「あ、ベルさんのレベルは3ですよ」


「……え? なんでハジメさんが知ってるんですか?」


 ……うん?

 レベル鑑定能力は、一般的なものじゃないのか?


「いえ、ボクの能力で……相手のレベルが視えるっていうか」


「へえ。あんたのスキルってそれね?」


 が、ザクロの反応は薄かった。

 あんまし大した能力じゃないらしい。


「でも、『3』か。不思議ね。普通に生活してれば、そんなレベルにはならないハズだけど。《骨兎(ホーンラビ)》や《蛙蝙蝠(ピッチパンク)》じゃあるまいし」


「《骨兎(ホーンラビ)》? 《蛙蝙蝠(ピッチパンク)》?」


 なんか新しい情報が急激に入荷してきて、ちょっと混乱状態だ。


「……ねえ。さっきから思ってたんだけど、あなたたちって、かなり田舎モン?」


 ザクロが不審な目つきでこちらを見る。

 まあ、元いた世界では割と都会に住んでたんだけど、こちらの世界では田舎よりも情報に疎いだろう。

 と、ハジメより先に、しかしベルが開口した。


「えっと。あたしは生まれてから、何年か前までずっと地下暮らしで。……地上に出てきたのは結構最近なんです」


「「そうなの!?」」


 またもやザクロとの重複だった。

 そして三人は目を見合わせる。

 一瞬の沈黙の末に、ザクロが尻尾をゆらりと動かして、言った。


「……はあ。二人とも、しょうがないわね」


 くねくねとネコ尻尾が揺れる。

 ザクロはむっとした顔をしているが、その喉辺りから雷みたいなゴロゴロといった音が流れた。


「ダンジョンへ行きましょう」




 ■■■




 ダンジョンへ行くために、三人で馬車に乗った。

 四、五時間ほどだろうか、かなりの時間揺られていた。

 もちろん、街の中にもダンジョンはある。

 なぜそんな遠いところまで赴いたのかと言うと、ザクロ曰く、


「ここいらでは一番強いところよ。あんたC級だから結構いけるみたいだし」


 とのことだった。


 荷台の中はガタガタと揺れ、正直気分は良くなかった。

 が、いい情報も手に入った。

 ザクロが酔い覚ましの話として、この世界の地理や歴史について教えてくれたのだ。


 すっげーありがたい!


 というかこの半日で、この人のお陰で、めちゃくちゃ異世界生存ルートが確立してきた。

 滞っていたイベントがバンバン進んでいく感じである。

 身分証ギルドカードもゲットしたし、住所(半壊したザクロハウス)もとりあえず定まったし。

 今までの地に足つかない右往左往状態に比べれば、ジェットコースター並みの順調すぎる進捗と言えよう。

 揺れる馬車内で、膝に寝ているベルを撫でながらザクロは開口した。


「あんたがどこまで無知なのか知らないけど、まず、さっきまでいた街はエンダムよ。ヴィーダミアの南東のほうね。この世界には六つの大陸があるの。で、その中に大まかに分けて十三の種族領土があって……」




 ■■■




 ダンジョンに着いた。

 まあ、馬車での話はまた追々語ろうと思う。

 とにかく今は、ダンジョンだ。


「ピキーーーーッ」


 は虫類とコウモリが混ざったみたいなモンスターが襲ってきた。

 それを小虫でも叩くかのように、ザクロが人差し指を立てて、電流でビリッと落とす。


「一階層は雑魚ばっかだから、ちゃちゃっと飛ばすわね。巻きで行くわよ」


 ダンジョンは下へ進むほどモンスターが強くなっていくらしい。

 まあ、これもテンプレだ。


「ところで、ベルさんも連れてきちゃって良かったんですか?

 なんか、レベル制限でギルドに入会できなかったんでしょ。

 ダンジョンはギルド管轄だから。……あ、入るの自体は誰でもできるんでしたっけ?」


 と、ハジメはベルを見遣る。ベルは馬車で寝てたから、ちょっと目を擦っている。

 今ハジメに呼ばれたのにも『ふぇ?』って感じだ。


「うーん。まあ違法よ」


「「え!?」」


 ベルとハジメが再びシンクロした。今日三回目くらいか。

 そして、二人(今は三人?)が犯罪を犯すのは二回目だ。


「違法!? またですか!?」


「うん。あんたの言う通り、ギルドカード持ってない人は入場できないわ。だから違法行為ね」


「ご、ごめんなさい。ごめんなさい……」


 またもや完全覚醒したらしきベルが頭を下げる。


「ま、バレなきゃ問題ないっしょ。それにA級のわたしも付いてることだし。コイツだってC級なんだから」


「ハジメです……」


 ザクロがハジメを親指で指す。

 そういえば、彼女に自己紹介をしていなかった。

 ベルはヤギ娘事件の後、名前を訊かれてたけれど。


 (おれの扱い、雑じゃね?)


「あのう。それって、バレたら問題があるという意味じゃ……」


「はいはいはい! 進むわよー」


 と、ベルの的を得たツッコミを華麗にスルーして笑顔でザクロが歩く。

 引率される二人。学校の遠足みたいだ。


「あれが《骨兎(ホーンラビ)》。

 で、あそこに巣作ってて、さっきもわたしが倒したのが《蛙蝙蝠(ピッチパンク)》ね。

 まあ、一階層だからF〜E級までの雑魚しかいないわ。

 ああ、あのスライム襲ってるのは《緑骨兎(グリーンホーンラビ)》って言って、《骨兎(ホーンラビ)》の亜種よ。きっと水分を得たいんだわ」


 先生みたいに指しながら丁寧に教えるザクロ。

 ハジメはかなり感動していた。

 あんなに自分を目の敵にして、拉致&拘束という、それこそ結構な違法行為を繰り返したネコ耳美女が、こんなにも頼もしく見えるなんて。

 それともう一つ、ハジメにとって学校(及び勉強)というものがあまりいい所ではなかったというのもあった。

 だから、ザクロに教わるうちに、学ぶ楽しさという人間の根本的な欲求を、十何年ぶりに思い出したのである。


「じゃ、あなたたちもやってみて」


 と、ザクロがネコ尻尾を翻しながら二人に言った。


「へ? 何を?」


「聞いてなかったの? とりあえずどのくらいの実力か把握したいから、あそこにいる《骨兎(ホーンラビ)》を倒してみて。ほら、こんなふうに」


 バチッと電撃が走る。それが五メートルほど離れた可愛らしいウサギの塊へ流れると、哀れ、一匹のウサ公が動かなくなる。


「…………」


「なによ。そんな顔しないでよ。別に殺しちゃいないわ、ちょっと気絶させただけよ。あんまし無闇に狩りすぎるのも良くないもの」


「はあ……わかりました」


 ハジメは尻尾に角が生えたウサギと対峙する。

 異世界に最初に転移したときの森にもいたウサギだ。

 傍にあった岩を持ってソロリソロリと忍び寄る。


(ごめんよウサちゃん。おれはこの通り便利なスタンガン魔法も持ってないから、物理攻撃で失礼するぜ)


「ちょ、ちょっとあんた!?」


「ふぇ? ──あぶしッ」


 ザクロの叫び声に首を傾げつつ振り返ったら、その拍子に勘づいたウサギに猛烈なアタックを仕掛けられていた。


「痛い痛い! ちょ、噛まんといてーどうどう、ぎゃああああああ!」


「な……」


 ハジメがウサギたちにボコボコにされているのを、ザクロが絶句して見ている。

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