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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第一章 気絶、拉致、臨死
3/80

2匹目 余田ハジメ、転移中②

気絶

「田んぼだ!」


 なんとも幸運(ラッキー)なことに、走るうちに森の外へ出られたらしい。

 宵闇の中ではあるが、見渡すかぎり爽やかな田園風景が広がっていた。

 ハジメが異世界に飛ばされた場所は、どうやら、人里近い森の端っこの方であったらしい。と、


 バターン!


 ハジメは、ぶっ倒れた。


 日常の運動といえば、自宅〜図書館の最高往復長一・二キロ。

 骨も筋肉もすっからかんのビニ弁&インスタントボディ。

 誰もが羨まない、便利と現代日本の申し子。


 それが、大量のスライムに追われて、全力疾走。

 命ガラガラ、数分間にわたる逃走劇。である。


「喉が、渇いた……」


 ゼエゼエと血混じりの呼吸をしながら呟く。

 疲労とスライムの攻撃によるダメージで、四肢は痺れて全く使い物にならない。


「身体、が、動か、ない……」


 地面に大の字に横たわったハジメは、ただ視力の映すまま上方の世界を見ることしか許されなかった。

 その眼に映る、帳を下ろした空。

 そこには、ハジメの暮らしていた都会では見られないような、壮絶な、濃紺の星々が万華鏡のようにキラキラと瞬いている。


「……きれいだ」


 ハジメは深く息を吐くと、やがてゆっくりと目を閉じた。




 ■■■




(これは、夢?)


 朦朧と、幻燈が浮かぶ。

 小学校の教室だ。

 ドアの上には、『5年2組』と書かれたプレートが突出している。


「やいハジメ、さっさと組み作りやがれ!」


 クラスのリーダー格の男子がハジメに言う。

 ハジメはその朦朧とした意識の中で思い出す。


(『組み』……何だったっけな……そう)


「三人一組。お前だけだぞ、余田」


「ヨダ、ハジメ……余田(よだ)(はじめ)……アマリダ、イチ!」


 閃いた、という口調で誰かが言った。


「あまり、いち。『余り一』……おもしれえな。それ、あっまりいちっ!」


 別のクラスメイトも、手を叩いて(はや)す。


「あっまりいちっ、あっまりいちっ」


 クラスが合唱に包まれる。先生はいない。


「あっまりいちっ、あっまりいちっ」


(思い出した。たしか、修学旅行の班決めだったと思う。

 三人組を作れみたいな時間に、おれ一人だけ余ったんだ)


「あっまりいちっ、あっまりいちっ」


(おれは何て反応したのだろうな。クラスの好きな子もその場にいた気がする)


 が、思考が暗い海の底に沈んで、はっきりと思い出せない。


(なんでこんなこと、思い出したんだろ……)




 ■■■




「……下の子は、てんで駄目。お兄ちゃん達はできた子なのにねえ」


 場面が変わった。オフクロの声だ。

 これは中学生くらいのとき、親の寝室の前で聞こえた言葉だ。

 母親は、電話でもしているのだろうか。


(そう、兄貴は、二人とも優秀だった。おれが一番ひねくれてて、出来が悪くて……)


 両親ともに、優秀な人だった。

 もちろんそれなりの職にも就いていた。

 だから当然の如く、彼らは子どもにも優秀(ソレ)を求めた。


(おれは、おれだけは『それ』にそぐわなかった)


 家庭。学校。子どもの頃。

 数年後、ハジメは二十五の、立派なヒキニート。

 家の恥、社会の除け者、部屋に閉じこもって、たまにコンビニか図書館に出るだけの、文字通り、()()()()人生。……


 闇のような海の中を、いくつもの記憶の残骸が、クラゲみたいに次々と浮かび上がる。


(ふ、ふ、ふ……)


 いつの間にか、ハジメは笑っていた。

 自嘲だ。


「あっまりいちっ、あっまりいちっ」


(そうかもしれない)


「下の子は、てんで駄目」


(そのとおりだ)


 クラゲは、どんどん殖えていく。

 辺りは哄笑の渦で、ハジメの声か、クラゲたちの声か、もうわからない。


 余り。除く。徐行。

 情けない。やるせない。

 そんな人生。


「……みじめだ」




 ■■■




()()()()()()()()()()?」

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