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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第一章 気絶、拉致、臨死
29/80

28匹目 ヤギ、調教中⑧

ネコ vs ネズミ+人間

「ベル、危ない!」


 ハジメはベルをかばった。

 バチバチッと破裂音を出しながら、電気を纏った爪が彼の背中に当たり、その光が消滅する。


「チッ」


 ネコ耳美女は舌打ちした。

 彼女の綿密に魔力を込めて放った雷爪(サンダークロー)が、ハジメにはほとんど無効だったからである。


 夜の半壊した屋敷に、かくして戦いは始まった。


 美女は作戦を変更したようにジャンプして二人から五、六メートル離れると、青白い電流フィールドの向こうから遠距離攻撃にうって出た。

 彼女は連続で光球の弾丸を仕掛けた。

 が、ネズ耳少女をかばうその男にはまるで効いていない様子である。


 再び大きな光球を練り出し、投げ放つ。

 光球は二人を通り過ぎたあと、ぐん、と軌道を曲げ、迂回するとベルのほうへ猛烈に直進した。

 それがものの二秒にも満たないスピードであることから、このネコ耳美女の途方もない、本来の戦闘力が伺い知れる。


「なんなんだよ、クソ!」


 が、これもまた虚しくハジメの振り回した腕に弾かれた。

 ベルはネズ耳を竦めてハジメの腕の中に護られている。


「……これなら、いけるか?」


 ネコ耳美女がポツリと呟くと、やにわに傍らの落石をハジメの後頭部めがけて投げ打った。

 小石が青白い光を纏い、二人のもとへ水平に繰り出される。


 ハジメはそれに気づき、ベルとともに避けようとした。

 が、かばいきれないと判断したか、まともに小石の弾丸を喰らった。


()ってぇッ!」


 攻撃が、通った。

 彼はベルの横をズレながらかすめ、そのまま小石弾丸に三メートルほど吹っ飛ばされた。


「やっぱり、そうなのね……あなた、弱い攻撃には弱い。ふふ、不思議な話ね」


 美女の笑みが確信と勝利に彩られる。


「じゃあ、話は早いわ……喰らいな!」


 と、美女は無色の、なんの魔力も込めていない小石を、あたかも子どもが投げるみたいに放った。


「くッ──」


 すぐ前の攻撃で倒れていたハジメは、それがすぐに避けられないと悟ると目を瞑った。

 ──と。


 パシッ。


 小石をキャッチする音が聞こえた。


「ベルさん!」


 ベルは顔に掲げたその小さな拳に小石を握っていた。

 チュー三郎が彼女のポシェットを食わえて持っている。

 少女はくるりとハジメのほうを振り返ると、果敢な眼差しで告げた。


「ハジメさん! あたしはあなたの力がわからない──けど、このくらいなら防ぎます! だから、どうかお気になさらず、逃げてください!」


 『逃げてください』。──


 この期に及んで、彼女は自分を逃がそうとしているのだと気づくと、ハジメはハッとして叫んだ。


「いいえ、逃げません! 逃げるもんか! あなたを残して、ボクは──」


 と言い掛ける間に、今度は電気ボールが二人を覆うように飛んできた。

 美女の猛攻は止まない。


「ッ、オオ!」


 ハジメは駆け出し、ベルの盾となる。

 再びボールは弾き飛ばされ、消滅した。

 美女はその一連の行動に激昂して毛並みを逆立てると、ハジメへと瞬時に距離を縮め、近接格闘に移った。


「うわ! だから、なんだよ、クッ……!」


 ハジメはモロに喰らってはいるが、持ち堪えている。

 その電気を纏ったパンチ、キック、突進等を受けるたび、徐々にハジメの身体が後退する。

 その距離を見計らって、美女は唐突にくるりと身をひるがえす。

 その電撃の魔手はベルへと向かった。


 (かばいきれない!)


「うおおおおおおおおおッ!」


 雷爪がベルに届く寸前で、ハジメはネコ耳美女を殴りつけた。

 すると、美女の肉体がおおいに吹っ飛び、ヤギ娘のいる二階の下の瓦礫に衝突した!


「…………」


 その様子を見下しているヤギ娘の表情は、見えない。


「ぐ、う……ガアッ!」


 ネコ耳美女はいよいよ取り憑かれたように瓦礫を払って、全身に電撃を纏った。

 その手に、大量の小石を握りしめて。


 獣のなびくような毛が、地面から糸のように揺蕩(たゆた)い昇る電流に、総逆立ちしている。

 尾がブラシみたいに膨れ上がった。


「──フ、」


 一瞬、美女の姿が消えた。

 と、いつの間にかハジメの後ろに立って、雷爪(サンダークロー)を浴びせていた。

 ハジメは少しよろめき、ベルのほうへと寄る。

 すぐに今度は弾丸のような小石がハジメを襲った。

 が、それを再び(そば)のベルがキャッチする。


「あ、ありがとうございます、ベルさん!」


「ハジメさん、離れないでください!」


 二人は攻撃を躱すうちに、そう語り合った。……




 ■■■




「なんだ、これは……」


 ヤギ娘はフィールドを観て、呆然としていた。


 レベル100超のネコ獣人が、たった二人の人間と獣人に、ここまでしてやられる。

 男の方は、ネコ耳美女から話には聞いていたが、にわかには信じがたいことだった。

 しかし、眼前の光景は異様としか言いようがなく、戦況は芳しいとは言えなくなっている。


 まず、ネコ耳美女がベルを攻撃すると、ハジメがそれを防御する。

 そのハジメには美女の攻撃は通用しない。

 だから、破片──弱い投擲を仕掛ければ、しかし、ベルに受け止められる。


 二人は決して離れず、美女の繰り返す猛攻をなんとかしのぎ切っている。

 見事な連携プレーだった。


「おらああッ!」


 ハッとヤギ娘が目を見張ると、再び男がネコ耳美女を殴っていた。

 美女は地に叩きつけられ、二メートルもバウンドしたかと思うと、そのまま重力に逆らうことなく落ちて、荷物のように動かなくなった。


「おい! そこのヤギ娘!」


 勝利の男が叫んだ。

 こちらを向いている。


「お前の目的は俺にはわからない。だが、これ以上こちらに関わらないでほしい! それと、もう、こういったことはやらないでくれ!」


 堂々とした眼差しだった。

 男はネズ耳少女の手を取ると、踵を返し、その場を去ろうとする。


「……ふざけるな」


 今まで傍観していたヤギ娘の口が開かれた。


「お前ごとき虫ケラが、おれに指図するな……えらそうに……」


 娘はブツブツと、なにやら独り言を呟いている様子である。


「ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう」


「? なにを……」


 ハジメが娘のほうを振り返り、一歩踏み出した。──途端、



「──ハハハハハハハハハハハハハハ!」


 ヤギ娘は笑った。


()()()()()! ()()()()()()()()()! アハハハハッ!」


 ハジメがなにかを言おうとした。

 が、その瞬間。


 グサッ!


 娘は自身の左腕に、岩の刃を突き立てた!


「────!?」


 ハジメは驚愕した。

 隣のベルも、その衝撃的な光景に目を見開いている。

 鋭利な岩は娘の腕を貫通し、そこから噴水のように血が溢れ出している。

 娘は依然として顔に邪悪な笑みを浮かべつつ、滴るその左手を自身の角にあてがった。


「【生贄(スケープ・ゴート)】──」




 ■■■




 拡散する、複数の赤黒い光芒。

 それらは娘の腕から発せられ、次第に彼女の全身を覆った。


 やがてハジメたちの地面に、巨大な魔法陣が光って浮かび上がる。

 そこから炎が地獄のようにうねって、世にも禍々しいモンスターが出現した。

 その姿は至極色の──まさに、悪魔。


「《悪魔王(ジョーカー)》……」


 ベルがうめく。

 その表情は、絶望に包まれていた。

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