表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第一章 気絶、拉致、臨死
28/80

27匹目 ヤギ、調教中⑦

儀式

「ちがう……コイツも、ちがう!」


 暗室。

 薄暗い闇の中に、叫びが一つ響いた。

 声の主は、あのヤギ獣人のドリーだ。


 彼女は成長し、『幼女』から『娘』になっていた。

 その表情は、困難と苦痛にわなないている。


「どこだ? おれの()()はどこにいる?」


 地下らしき暗がりに包まれた石の狭い部屋に、娘は一人、鏡台をぶっ叩く。

 室内はつんざくような鉄の香に満ちており、石壁はところどころに赤黒い染みが飛び散って見える。


 部屋の中心の床には、禍々しい魔法陣みたいな模様が描かれている。

 そこの中に今、一匹の黄緑色の尻尾が角でできたウサギが鼻をすんすんとひくつかせていた。


「くそッ!」


 突然、ヤギ娘がウサギのモンスターを蹴っ飛ばした!

 ウサギは物凄い勢いで吹っ飛ぶと、石の壁にぶち当たり、はね返った。

 壁に、錆のような赤茶色の液体が弾けるように飛び散る。

 すると、ウサギはピクピクと二、三度痙攣し動かなくなった。


「弱い、弱い……どいつもこいつも。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」


 苦渋に満ちた顔で、指を噛む。手の指はすべて、いくつもの噛み跡に覆われている。

 しかし娘はそれを気にも留めない面持ちで歩み寄ると、滴るその血を再び魔法陣に垂らした。


「【生贄(スケープ・ゴート)】──」


 娘は呟いた。

 途端、魔法陣が赤黒く光りだし、そこには角の生えた巨大なサルみたいなモンスターが出現した。

 天井に届くほど大きいそのサルは、グルルル……と唸る。

 その眼は虚ろに娘のほうを見ている。


「《巨灰老猿(アッシュド・モンキー)》……B級か。──ッ!?」


 グラ、と娘の身体が揺らめく。

 片眼を抑え、急激な痛覚に襲われる。

 その一つの眼球が真っ赤に充血して、赤いどろどろした液体がツツ、と流れ落ちた。


「くそッ!」


 ヤギ娘は吐き棄てると、懐から小瓶を出し──表面に『聖水』と書かれている──それを、魔法陣に撒いた。


 魔法陣はジュワアア……と音を立てて消え、巨大なサルは慟哭しながら地に干からびるように倒れ伏した。


「……足りん。まだ、足りん」


 娘は肩で呼吸をし、鏡台に崩れるようにもたれ掛かる。


 鏡には、片方が虚ろになった金色(こんじき)の眼が映った。




 ■■■




 眼帯をかけたフードの娘が夜の街中を歩いている。


 あれから、何年経っただろうか。

 ()()()()()()()()()()

 その繰り返しの果てに、娘の身体は確実に消耗していた。


 死んだような顔で、ふらふらと、今にも倒れそうなおぞましい足取りで夜へと歩を進める。

 ──と。


 ドゴォオオオン!


 静かな往来に、えも言われぬ轟音が響き渡った。


 娘は顔を上げる。遠く離れた前方で、男が十メートルほど吹っ飛ばされていた。

 男は白目をむき、その体は微かに電流をまとい、ビク、ビクと痙攣している。


 その先に、ネコ耳の女がいた。

 男を吹っ飛ばしたらしき女の手から、ビリビリと電流がうねった。


「あ……」


 娘は、(こぼ)した。

 ガリ、と指──右手の人差し指と中指の背を、噛む。

 その表情が、明らかに生の輝きに満ちてゆく。

 (ツノ)が街灯にきらりと閃き、()()は、笑った。


「見つけた」




 ■■■




「ハジメさん!」


 バンッと扉の開く音がし、夕暮れの光芒が差し込んだ。


「べ、ベル!?」


 ハジメが叫んだ。

 その顔は満面アザだらけで、こめかみからは血が流れている。


「ハジメさん!」


「ベル、来るな!」


 駆け寄ろうとした少女の足が、ビク、と止まる。

 男の尋常じゃない気迫が、彼女をそうさせた。


「連れがいたか……おもしろい」


 謎の角娘は立ち上がると、身をひるがえし、すたすたと瓦礫の上を裸足で登った。


 それを見て、ネズ耳少女はにわかに男に駆け寄った。

 後ろから来たチュー三郎がハジメの縄を食いちぎり、脱力した彼を少女が介抱した。


「大丈夫ですか、ハジメさん!」


「ベルさん……なんで」


 生きて、重傷がないことを確認すると、少女はホッと息をつく。

 ハジメは起き上がった。


「ちゅう」


 と、チュー三郎がハジメの上着をめくると、その下腹部の肌着に付着した赤い染みにたどり着き、フンフンと匂いを嗅いだ。


()ツツ……ん? なんだこれ、おれの血か? でも、頭にしか攻撃喰らわなかった気も……」


「あ……」


 途端、ベルが顔をカァァァ、と赤らめた。

 ハジメは不思議そうな顔をする。


「あ、これクスリ! 持ってきてよかった、飲んでください!」


 ベルは急にそう切り上げると、ポシェットから小瓶を取り出しハジメに飲ませた。


「…………」


 それらの様子を、ネコ耳美女は仁王立ちしながら傍観する。


 ヤギ娘が上階に着いた。

 そのまま椅子に座り、舞台を見渡すようにネコ耳美女に告げる。


「ふん。邪魔が増えたが、お前にはどうということでもないだろう。()()()()()()()、さっさと始末しろ」


「……はい」


 美女の右手が、ビリビリ……と青い電流を帯びた。


 いつの間にか、辺りは暗くなっている。

 半壊した建物に夜の気配が立ち込め、美女の身体から飛び出した青白い光球が周囲に拡がった。

 瞬間、破裂音が上がり、美女を中心とした電流の波動のようなフィールドが出来上がる。

 ネコ耳美女は、にやりと笑った。



「覚悟しなさい、二人……楽しい夜よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ