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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第一章 気絶、拉致、臨死
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21匹目 ヤギ、調教中

痴話喧嘩

「おはようございます、ハジメさん」


 ベルが言った。


「オ、オハヨウゴザイマス……ベルサン」


 ハジメは何故か片言だ。

 キョロキョロと目を泳がせ、見るからに挙動不審の体である。


 朝だ。

 洞窟内にも若干日の光が入り込み、昨夜よりは明るい。


「あの、今日の朝ご飯は──」


「ひゃいッ」


 ハジメはビクッと痙攣した。声が裏返る。

 明らかに様相が普通じゃない。


 ベルが不審そうに見る。


「あの……どうかしましたか?」


「な、な、な、何も? 何も?」


 視線を逸らす。上体を反らす。

 ハジメは、昨夜のことを思い出す。ベルが襲ってきたことだ。


 (ベルは覚えていねーのか?)


「ハジメさん……なんで()()()()なんですか? わたしに何か、隠しているんですか」


「いや! これは……」


 ベルがぐい、と迫る。

 どの口が言うんだ、とハジメは思った。

 正直、これはベルの所為(せい)でもあると思う。

 ハジメは、なんとか会話を逸らそうと試みた。


「そ、そうだ! ベルさん、その耳の『()』って──」


 一瞬、ベルが固まった。

 その表情には、微かな驚きが混じっている。

 まだ、耳の穴、とまでしか情報を出していないのに。──


 ハジメはドキッとした。

 彼自身が、ではなく、ベルが驚いたのに彼も呼応して驚いたのだ。


「あ……これですか」


 彼女は落ち着いて言う。


「大した事、ないですよ。……昔の傷ですね、えへへ」


「…………」


 笑った。少し困ったように。

 二人の間に、数秒の静寂な空気が流れる。


 (聞いちゃいけないことだったか?)


 ハジメは疑問に抱かれつつも、さらに次の話題を探す。何か無いか?


「あーと……そういえば、この前の女の人。ホラ、ネコ耳の。あの後、どうしたんでしょうかねえ」


 つくづく、自分には会話の才能がないと思った。

 こんな時、チュー三郎が居てくれれば!


「あ、はい、そういえば。……あたし、あの方をどっかで見たことあるような気がするんです」


「そ、そうなんですか? なんか、両親がネズミにどーたらこーたら言ってましたけど」


「ああ、それはまた別の話でしょうね。ネズミ族とネコ族の問題でしょうから……」


「ネズミ族とネコ族の問題?」


「……? ご存知ありませんか?」


 ベルは目を丸くした。まるで、青信号は渡れ、を知らない人間を見るような目つきで。

 ベルは語り出す。


「あまりいい話でもありませんけど。……昔、わたしたちネズミ族は、人間のひとと一緒に暮らしてたんです」




 ■■■




 暮らしてた、といっても、コミュニケーション上の関わりはあまり無かった。


 ネズミ族は人間の食糧をこっそり盗み──代わりに、砂金や宝石などを少しずつ置いていく。

 食糧は、必要な分だけをもらう。


 そういう関係性だった。

 人間の方も、毎日欠かさず置かれるその財宝をありがたがったし、その関係に満足していた。


 しかし、やがて人間の技術が発展し、金や宝石などを効率よく採れる手段が見つかると、ネズミ族はその分の財宝を採れなくなった。


 人間は、大いに発展した。

 ネズミ族は、お払い箱となった。


 毎日ほんの少ししか、それもあまり価値のない荷物を置いていくネズミ族は、むしろ人間にとって、食糧を盗むだけの存在になった。


 そこで活躍したのが──ネコ族。


 『ネズミ族を食べれば、レベルが上がる』。


 人間たちは、そう彼らに吹聴した。


 ネコはネズミを殲滅し、ネズミはその数を減らしていった。──




 ■■■




「それで最近、生き残ったネズミ族が、ネコ族に復讐するって話が、どこかにあるらしいんですけど──」


 ベルは俯く。困ったように。

 でも雰囲気を和らげるために、笑顔で。


「ホント、誰でも思いつくような話ですよね。でも、史実は史実で……あ!」


 空気を断ち切るように、ベルは叫ぶ。


「ハジメさん、話を逸らしてる!」


 ギクッ。


()()に何か、隠してますね? 教えてください、何をそんなに()()()()しているんですか? ……さては、後ろ暗いところがあるんですね?」


 (だから、あなたの所為でもあるんですってば!)


 ハジメは口の中で叫んだ。

 ベルはさらに、ぐぐい、と近づく。ジト目で、少し怒っている表情だ。


 (怒った顔もかわいい!)

 (……じゃない、鎮まれー、鎮まれー)


「悪いことはしちゃダメです……」


 あなたがね!


「人をおちょくるのはいけません……」


 いやだから、あなたがね!


 ハジメは昨晩の、ベルの猛攻を思い返す。

 彼女の方が、よっぽどイケナイことをしていたと思うのだが。……


「──()()を隠しているんですか!」


()()()()()()! ……じゃねぇ、ボク外の空気吸ってきまーす!」


 スタタタッ、とハジメはベルの横を駆け抜けると、岩の部屋を脱出した──前かがみになりながら。


 残されたベルは、わけがわからなかった。

 その頬は、ぷっくりと膨らまされている。


「なんなんですか……もう!」

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