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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第一章 気絶、拉致、臨死
20/80

19匹目 余田ハジメ、押し倒され中④

トラトラトラ

「んなっ……に、やってんですか、ベルさん!」


 今、ハジメの上にはベルが乗っかっている。

 その姿は裸──ではない、半裸だ。

 淡い水色のワンピースに、瑞々しい四肢が生えている。

 露わな、白い彫刻みたいな身体の輪郭が、蝋燭の炎に照らされ、ゆるやかに揺らぐ。

 うなだれ、こちらを覗く青い瞳。


 ハジメは体を起こそうとしたが、


「痛ッ……」


 昨日(一昨日?)ネコ耳美女にやられた傷が痛んだ。そのまま再び寝転ぶ。

 その間、ベルは依然とその瞳に怪しい笑みを湛えながら、


「ちゅるりっ」


 と、また溢れる唾液を手で拭った。

 ふわり、人肌の匂いが鼻をかすめる。


「いい匂い……じゃなくて、なにやってるんですかベルさん!」


 ハジメは繰り返し言った。今度は眠気も完全に吹っ飛び、覚醒し、明らかに狼狽している。


「ハジメさん……あたし」


 ベルは顔を更に赤らめる。息が荒い。

 ネズ耳が、薄闇にピンク色に燃え上がる。

 ハジメは激しく首を振るった。


「いやいやいやいや! ……ってイヤじゃないけども!

 いやボク童貞で──って違くて!

 そんな後生大事にとってるとかじゃなくて、むしろ要らないけども!」


 (何言ってんだ、おれ!)


 男はひどく動転している。

 ベルは、その言葉──特に、『童貞』というフレーズに「?」と小首をかしげつつも、


「いらないなら、もらっちゃいますね」


「…………」


 (何言ってんだ、ベル!?)


 少女はからからと笑った。愉しそうに。

 それはまるで、おままごとをする子どものような、からかって遊んでいるような表情だった。


「お、おお、おれたち会ってからまだ三日で……! 三日デスヨッ」


 ハジメは右手の指で『3』を作る。

 自分で言っといて、その数字に結構びっくりしている。


「それが、なんですか?」


 ベルは滑らかな動作でその手を──ハジメが作った三のピースを、両手で掴む。

 顔が近づく。

 肩ぐらいまである、少しクセのある銀髪の毛先が軽やかに舞い、指先に触れる。

 だめだ。止まらない。


「……そ、そうだ、()()()! ベルさん、屋敷で──最初に会った地下牢で、()()()結構傷ついてたじゃないですか、あれは……」


 が、よく見ると、少女の肌は綺麗で、ほとんど傷は無かった。微かに残った傷跡も、しかし目立たない。──


「獣人ですから。こんなもの、すぐですよ……それより」


 痩せてたのが、だいぶ肉付きが良くなった──その身体で。


()()()()してくれるの? うれしい……」


「……」


 ハジメは絶句した。もう何も言えなかった。


 辺りには花粉のような、甘いのか苦いのかよくわからない、くらくらする、強烈な匂いが漂った。

 それが、二人が身動ぎするたびに蝋燭の炎と混ざって、暗い岩の空間を撹拌する。……


 (──生き物の匂いだ)


 ハジメがそう思ったとき、




 ■■■




「はい」




 ■■■




 ()()()()()()()に、()()()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()、ハ()()()()()()


 ()()()()()()()()


 ()()()


 ()()


 ()


 。



 ……

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