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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第一章 気絶、拉致、臨死
19/80

18匹目 余田ハジメ、押し倒され中③

Cカップ

「本当にすみませんでした!」


 ハジメは深々と、本日二回目の土下座をした。

 またもや、地下だ。

 しかし、ベルが囚われていたあの屋敷のような禍々しさはなく、周りは岩でできた普通の地下ルームである。

 夕方、二人は街を少し離れたところにあった謎の地面の穴を入り、ここへ来た。


「いえいえ、大した事はないです、本当に! 顔を上げてください、ハジメさん!」


 ベルはブンブンと手を振る。

 本当にどうってことはない、という塩梅で、少し困ったようにはにかんで。

 彼女はハジメと同じく、丁重に正座している。

 座布団に座り向かい合う二人の姿。


「それに、お金が無くなってしまったボクを、こんな泊まるところまで。えっと……ここは?」


 ハジメはぐるっと見回す。

 先ほどの溢した高級薬の弁償で、今、ハジメの懐はほぼスッカラカンなのであった。

 ベルは正座のまま答える。


「あ、はい。チュー三郎が探しててくれたみたいです。()()()()()ですね」


「だんじょん」


 ハジメは繰り返す。


「はい。……と言っても、いちばんレベルの低い、狭いとこですけど。ちょっと住むには、ちょうどいいですね」


 …………


 すげぇ! やっぱそういう世界観なんだ!


「そーぅ来なくっちゃ!」


 ハジメは猛然と立ち上がり、パチンッと指を鳴らした。

 ベルがビクっと小さく驚く。


「あ、すみません……!」


 ハジメは顔を赤くしながら、再びそそくさと座った。


 (イカン。一つの暗い空間に美少女とふたりっきりで、完全にテンションが上がっている……!)


 後頭部を掻き──俯く。


「…………」


「…………」


 二人の間に、微かな静寂が流れる。

 ハジメは赤くなりつつ縮こまる。

 ベルも、こころなしか赤く見える。

 その白桃のような脚が、もじもじと動かされる。──正座をして、痺れたのだろうか?


「「あのっ」」


 同時だった。二人は同時に口を開いた。


「あっ、ベルさんどうぞ!」


「いえ、ハジメさんから!」


「あ……では」


 ハジメは再び後頭部を掻く。やや早口に言う。


「ベルさんも、その、ここに泊まるんですかね」


「はい……そうしようかな、と」


 ドカーンッ!

 ハジメの脳ミソが噴火した。


「あ、でも、部屋は何部屋かありますし。それに、水と食料も心配ありませんからっ」


 なぜかベルも早口だ。


「生存できます……大丈夫です……」


 つい、と視線を逸らす。やはり彼女も、顔が赤らんで見える。


「えっと……ベルさんは何て言おうとしたんですか?」


 ハジメは先ほどの質問を促す。


「あ、はい……そろそろ」


 言って、ベルは立ち上がった。口元で可愛らしく指先を組みながらはにかむ。


「晩ごはんにしましょう」




 ■■■




「美味かった……!」


 夜。

 ハジメはご厚意に甘えて、ベルの作った晩ごはんを食べた。

 野菜たっぷり、彩り豊か、味良しコスパ良しな家庭料理であった。


 ハジメは、元いた世界ではコンビニ飯ばかり食っていた。

 だから、人が目の前で作ってくれた手料理など、何年ぶりかわからない。


「なんだか色々してもらって、申し訳ねーな……」


 シャワー(スライムをベルが絞った水)も浴びたし、布団(毛布を重ねたやつ)もベルが用意してくれた。

 ハジメは今、その即席毛布布団に寝っ転がっている。


 岩で出来た部屋(洞窟の広めの穴と言ってもいい)の壁には、蝋燭が数本掛けられている。

 その火はハジメが身動きするたびに、空気の流れで微かに揺らめく。


「……寝れん」


 ハジメは蝋燭だけの暗闇に、しかし目がスッキリ冴えていた。

 隣の穴部屋には、ベルがいる。──


「ハジメさん」


「うおっ」


 ハジメはびっくりして跳び上がった。ベルだ。

 ベルが、ハジメの部屋に来ていた。


「あの、お薬できました。よかったら」


 言って、器を差し出す。昼間の回復薬のことか。

 器には、青汁みたいな半固形状の流体が入っている。


「あ、ありがとうございます」


 起き上がり、ハジメは受け取る。


「………………」


 まだベルがハジメを見つめている。部屋からは出ない。

 その瞳孔に、ちら、と青白い炎が揺れたように見えた。


「あの、何か?」


「い、いえっ!」


 ベルはハッとして手を振る。

 そのままスタタタ、と小ネズミのように立ち去った。


「……なんなんだ?」


 ハジメは後頭部を掻いた。

 もらった青汁を飲み、何ともなしに寝っ転がる。

 そのうちに、ハジメは、深い眠りに就いた。……




 ■■■




「ハジメさん……」


「うん……?」


 ベルの声? ──眠い。夢か?


「ハジメさん……」


「ん……あ?」


 目を開けた。ぼんやりと、輪郭が浮かび上がる。


「ハジメさん……」


「──────!?!?」


 ハジメは声にならない叫びを上げた。


 (ベルが……ベルが、おれの上に乗っている!?)


 闇の洞窟に、ほとんど丸裸と言ってもいい肢体が、溶けた白蝋のように揺らめく。

 その青い炎は男を見下ろし、紅潮した笑みを浮かべながら、口もとを手で拭った。


「──ちゅるりっ」

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