16匹目 余田ハジメ、押し倒され中
コン○ームとエリクサー(瓶)
「……はあ」
コン○ームを指で翫びつつ、そう嘆息したこの男の名前は、『余田ハジメ』。
つい三日ほど前なぜかいきなり異世界に転移させられた、日本の一般ヒキニートであり、現役童貞である。
ここは宿屋だ。昨日と同じ──『昨日』。
昨夜、ネコ耳美女の猛攻の後、満身創痍の二人は再び街の宿屋に来て、休んだ。
ハジメは異世界からこっちのことを思い出し、もう一度嘆息した。
「疲れた……」
この三日間のみで、どれ程のことを体験し、体感しただろう。
異世界最弱。スライム。
ネズ耳美少女。
臨死。イノシシ。
ネコ耳美女──魔法。攻撃。
その驚愕を数え上げると、枚挙にいとまがない。
それはまるで、今まで錆びついたように停滞していたハジメの人生の歯車が、突如、ネズミ滑車のようにクルクルと、怒涛の勢いで回り始めたようであった。
「…………」
ハジメはベッドに寝転がったまま、元の世界産のその避妊具をいじくる。
その手には、いつの間にかエリクサーの空瓶も追加されていた。
昨日、ネズミのチュー三郎に貰った小瓶だ。
その表面には、手描きの文字で『ベル』とも書かれている。
「ベル……自分の持ち物に名前書くタイプなんだ。真面目だなあ」
ポツリ、呟いた。
その目は、依然ぼーっとしている。が、傍から見ると、真剣な表情だ。
仰向けで、避妊具と小瓶とを指でもて余している。
「…………」
彼は昨夜の、ネコ耳美女の頭上に浮かんだ、 『レベル107』という文字を思い出した。
「レベル107。おれは……レベル12」
この世界の標準値はわからない。が、相当なレベル差であることは推測できる。
「スライムに、負ける。イノシシと、レベル100超えの魔法使いに、勝つ……」
避妊具をつまむ手は、しかし慎重だ。
この袋が破られる時は、すなわち、ハジメが童貞を引退する時だ。
「フ。いつになるんだろうな……あ!」
その時。いじくっているうちに、その避妊具がエリクサーの瓶の中へ、すっぽりと入ってしまった。
「やっちまったああああああああああ!」
ハジメは大音量で悲鳴を上げた。
小瓶の口から、爪で必死の救出を試みる。
しかし、瓶は一握りの細長い三角のフラスコ状であるため、ピンセットすらまともに入らなそうだった。
時すでに遅し、という言葉がハジメの脳内を駆け巡る。彼は真っ青になった。
「これじゃ、ベルに返せねーな……」
コンコン。
バッと、ハジメはワンセットになったその物体を後ろ手に隠した。
ひゃいっ、と返事をする。声が裏返ってしまった。
「おはようございます」
にっこり、柔らかい笑顔が現れた。ベルだ。
昨日の服はネコ耳美女に破られたから、また新しく買ったらしい服に身を包んでいる。
昨日のも可愛かったが、今日の服もまた一段と愛くるしい。
朝の穏やかな光が舞い、部屋は一瞬にして花のような香りに包まれた。
「おはようございます……ベルさん」
と、ハジメはベッドから降りる。
「あの、ハジメさん。なんかさっき廊下で、『やっちまったー』って声が聴こえたんですけど……」
「へ、へえーフシギだね! おれの声じゃないけど!?」
「ああ、よかった。……ハジメさんの身に何か起こったんだと思って、心配しちゃって」
やべえ。聴こえてたのか。
やっぱ瓶、ベルには見せらんねーよな。……
ハジメは後ろ手に隠した小瓶(コン○ームinエリクサー)をチラと見遣った。
と、ふと思考を切り替えるように、レベル表示の件がよぎった。
あの能力は、誰に対しても使用出来るのだろうか?
ハジメはベルの顔を見て、目を凝らした。
「?」
見つめられ、ベルは小首を傾げる。
その頭上に、文字がフッと現れた。
『レベル3』
「3、かぁ────────!」
ハジメはガックシと崩れ落ち、orzの体勢になった。
「──? ?」
ネズ耳少女はそのいきなりの露呈に、戸惑うばかりであった。




