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【みじめ】スキルで異世界生存中  作者: 岩流佐令
第一章 気絶、拉致、臨死
13/80

12匹目 ネコ、捕食中②

ネコ耳美女

「異世界に来て、よかった!」


 ハジメは初めてそう感じた。

 かわうぃー、おんにゃのコと、ブレックファスト。

 二十五歳現役童貞ヒキニートの己の人生からは、考えられない所業だ。


 生きててよかった! 死んでもいい!


()()()()?」


 ベルはコップの水をクピクピと飲む。


「いえ、なんでも」


 ハジメは澄まし顔で、メニューを見る。

 読める、読めるぞ!

 じゃなくて、普通に読める。言葉が通じるからこちらもと推測したが、どうやらビンゴだったらしい。


 食堂である。

 内装は西部劇に出てきそうな、カウボーイが拳銃振り回してミルクを頼んでいそうな、風情があった。もちろん、そんな奴はいないが。

 十くらいある丸テーブルの空いているところに、二人は座った。

 朝ご飯には少し遅めの時間だからだろうか、そんなに混んでいなくて、よかった。


 しかしメニューが全部、和食とは……じじいの時もそうだったが、こりゃまた、どんな世界観なんだ?

 建築物は西洋風なのに、飯は和風。

 思い出すと、自分がスライムから逃げてぶっ倒れたときも田んぼを見た。

 異世界(この世界)では稲作が盛んなのだろうか。

 気候も(四季があるかはまだわからないが)、現代日本の春時期とそう変わらないし。……


「こういう食事は、本当久しぶりですね……あたし、楽しみです」


 と、ハジメが思考していると、ベルが喋った。


 ()()()()()()。──


 朝も思い返したことだが、ベルと屋敷から脱出したとき、彼女は『買われた』とか言っていた。

 やはり、よくある異世界モノよろしく、獣人は人間より劣等、みたいな価値観が膾炙(かいしゃ)しているのだろうか。──


「お隣、よろしい?」


 声が掛かった。ベルではない、知らない女性だ。

 ──ネコ耳だ!


「あ、はい、どぞ」


 ハジメはドギマギしながら応える。

 お姉さん系の、綺麗な女の人である。

 背は高く、ハジメと同じくらいはあるだろうか。

 黒を基調とした魔法使いみたいなケープに身を包み、その背後からスラッと美しい長めのネコ尻尾が覗く。

 カーキ色の、緩やかにおさげでまとめられた長髪は、絹のようにサラサラだ。

 種類で言うと、錆猫だろうか?

 その頭頂部には特徴的な、もふもふのネコ耳が生えている。

 それに、胸も──でかい!


「ありがとう」


 ネコ耳美女は会釈し、同席した。

 一瞬、ベルのネズ耳がビクッと丸まった。

 美女はメニューも見ずに店員を呼び料理を頼むと、ベルの方を見てニコっと笑った。


「あなた、()()()なのね……珍しいわ」


 美女はまじまじと覗き込む。

 ベルは困ったような、少し怖がるような笑みを浮かべる。


「ふうん……」


 美女は見つめている。そのマスカット色の瞳に、野性的な好奇心の炎が燃えている。


「えっと……」


 長い間観察されて、ベルはついに困惑気味な声を上げた。


「あら、ごめんなさい」


 美女は立ち上がった。そしておもむろに懐から革袋を取り出し、机に置いた。


「頼んじゃった料理、食べていいわ。お金はそこに、置いといたから」


「えっ?」


 ハジメは急に言われて、当惑した。


「いや、そんな、何もしていませんのに……」


「いいのいいの。わたしも、()()()()()()()()みたいだし」


 と、美女は猫のように柔らかい笑みを浮かべた。

 そのまま彼女は、出口へ歩く。

 かと思いきや、ふと何か考えたように立ち止まった。

 くるりと旋回し、ベルに向けてなにやらコソコソと耳打ちをする。


 そしてネコ耳美女は、店を去った。

 そのあと、机の上に大量の料理が運ばれて来た。

 が、支払いは袋のコインを払っても結構なお釣りが来るぐらいで、ベルとハジメは目が飛び出した。




 ■■■




 街中。

 歩いているのは、あのネコ耳美女だ。とても軽やかな足どりである。


「──ふふっ」


 美女は華麗に笑った。先ほど耳打ちした言葉を思い出す。


 ()()()()()()()()()()。……


 往来をしとしとと歩む美女の、そのぽってりとした美しい唇が、ちろり、と舌なめずりした。




 ■■■




 夕方、ベルがいなくなった。

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