第八話 残った謎
終わってみればあっけなかったが、仕掛けが失敗していたらと思うと手放しで喜べない。
耳長族は手強いのだ。
「さっきのは何ぃ?おまじない?」
「サムズアップって言うんだ。かっこいいだろう?」
オミの目はやや切れ長で美しい。
しかしその瞳には困惑の色が浮かんでいる。
「う〜ん」
「オミ、忘れて」
耳長族の骸を眺めつつ、俺は気がかりなことを訊く。
「なぁオミ、あいつらあんまり警戒してなかったよね?」
「だねぇ。理由がわからないよ」
「俺が耳長族だったらオミ達がいるってだけで絶対近づかないよ」
傭兵部族『き』が抱える戦士の中で、ケモノつきと呼ばれる種族は最強である。
遥か遠くの音や匂いを察知し、一瞬で大木へ登り、信じられない距離へ槍を届かせ、
気取られずに背後から首を掻き切る。
周辺諸国には周知の事実なのだ。
目の前で動かなくなった耳長族は、そういった強敵に対応するようには見えなかった。
全員短弓を背負い、腰に短い剣という一般的な装備をしている以外にこれといった特徴はない。
それどころか鎧も無しだ。
首飾りも腕輪もしていないから、妖術を使う部隊でもなかろうし、斥候というわけでもないだろう。こんな間抜けな斥候はいない。
学者の類いかと思ったが、それなら護衛もつけずに来るものだろうか。
どうにも拭えない違和感。
この場ではどうしようもないので帰路に着くことにした。俺はずっと考えながら。