第三話 少年の中の人
気がついたら子どもになっていた。
最初はわけがわからなかったな。
時代劇で見たのよりもっと粗末で貧しい暮らしをする農家。
俺は三人目の子どもだが、両親は俺に愛情らしきものを示したことはない。食うや食わずの生活していたら、そんな余裕は無いものだと俺はわかってしまう。それでも時折母親はそれらしい表情を浮かべることもあったが、
俺は……日本でサラリーマンをしていた普通のいや、ちょいとオタク趣味がある、それでも平凡だと言える人生を送っていたおっさんだった。妻と娘二人。だがその顔も名前も思い出せない。他にも暮らしていた土地の名前など思い出せないことが多々ある。
どういうことだ?
異世界転生ってやつか?SFが趣味だったが、それぐらいは知っている。
なぜ異世界だと思ったかって?
まず夜空を見たらお馴染みの星座が見えなかった。地球の遥か未来か過去なのか、または他の天体って可能性もあるだろう。
確信したのは『匂い』だ。
全国あちこち出張や旅行に行ったり、外国にも行った経験上、その土地独特の雰囲気というか『匂い』があるんだ。その匂いに違いはあれど根底にあるものは同じだった。安心感というか、『当たり前』という感覚。『ここは地球』だと告げているものが。
だがここの『匂い』は全然違う。ずっと感じてる。地球じゃないって魂で感じる。俺はここでは異物だと。
五歳ぐらいになる前に俺は人買いに売られた。口減しだ。
日本にも昔は普通にあったこと。人買いのおじさんは優しかったなぁ。
それで『き』に連れてこられた。
厳つい身体つきの男達、女達も筋肉質だ。今までいた農村とはえらい違い。
俺と同じような子どもが毎日増えていく。
子どもは立派な労働力。
俺は薬草を見つけるのが他の子どもより上手いらしい。
中身はおっさんだからな。山菜や山野草を見つけるのは得意だったし。
そのうち女の子とペアを組まされ、オザマってマッチョおじのところへ連れて行かれた。
俺らの親代わりになるって話。
女の子はミサ。笑うと垂れ目が糸になるのが可愛らしい。
将来はこの娘との子どもをもうけるらしいが、俺は年上好きなんだよな……。