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気がついたら古墳時代レベルの異世界に  作者: はるゆめ


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最終話 語られる真実

 ディザ帝国の中心、皇帝の居城。 

 その地下に万物の母とされる聖龍がいる。


 古くからの伝承を記録した帝国紀。大陸に人が現れた当初より聖龍についての記述がある。


 神、或いは神の遣わした存在と見なす学説もあったが、聖龍自身が否定している。


 ディザ帝国が興り、皇帝に連なる血族つまり皇族。彼ら彼女らは常人が決して持ち得ぬ能力をひとつ授かって生まれ落ちる。

 それらは聖龍が持つ能力であり、中には性質と呼べるような力が発現する者もいたのだ。


 一人の皇子がいた。彼は成長するにつれて、周囲との差異を自覚する。

 不老だ。彼はそう確信した。老化を止める能力と言い換えてもいい。

 彼は頃合いを見ては姿を消し、名前を変え永き時を生きた。


 常人なら発狂してしてもなんら不思議ではない悠久の時を過ごすにあたり、彼が正常な精神を保つことができたのは“知的好奇心”のおかげ。


 秘匿されているため、ユリーカは知らなかったが帝国にも遺跡がある。そこで発掘される遺物群、それらの解明は彼のライフワークとなる。

 遅々として進まないが、人が生まれ老いて死ぬまでの年数をかけることにより、機能や使用法が判明した遺物も増えてきた。


 その長い長い人生の中で初めて恋をする。相手は遠縁に当たる皇女。

 皇族の義務として一人でも多くの子をもうけるというものがある。聖龍の能力を持つ者が増えるほど、帝国の繁栄を約束すると。

 しかし皇族同士の婚姻は禁忌とされている。過去に複数の事例があった。皇族の両親から生まれる子は人とは呼べぬモノだったことに由来する。


 だが彼は諦めきれなかった。心の奥底より身を焦がさんばかりの激情がとめどなく溢れ、それは彼を突き動かしていく。秘密裏に想い人である皇女との逢瀬を重ねるうちに、とうとう一線を越える夜があった。


 彼女は自分が身籠ったと悟った時、自らの命を絶った。皇族最大の禁忌がそうさせた。


 不老皇子の体に渦巻いていた激情は反転し、哀しみの底へ彼を突き落とす。何年も悲嘆に暮れる日が続いたが、感情を消す能力を持つ皇族が彼を救った。


 だがその日から彼の心に歪みが生じる。少しずつ、少しずつ、緩やかに彼はおかしくなっていった。

 彼の変化は寿命で死んでいく者にはわからない、わかったとしても彼は己の不老を気取られぬように姿を消した後だったりする。


 彼は遺物のうち、転移門(マンホールの蓋)と転移装置(ハヤがストーンヘンジと呼んだ石群)に執着し始めた。


 配下の一人、遠見の能力を持つ皇族が大森林の中に存在する遺跡に転移装置があるのを見つけた。

 別の配下の一人が精神支配能力を使って耳長族を派遣、遺跡を調べようとしたが、これはオミ達『き』の戦士に阻止される。


 彼がこれらに執着する理由。それは自ら命を絶った愛しき皇女に会えるのではないかという仮説である。

 この世とは違う場所にあるという死者の国。そこに愛しき皇女がいるのだ。神話と呼ばれる古い記録にはそう語られている。

 転移門が異界と接続することは既に解明済み。

 ディザ帝国屈指の星読みによれば、想い人は大森林の南に出現する転移門が繋ぐ世界にいると。


 転移装置は転移能力を持つ者にしか使えない。今代の皇族ではユリーカ。

 彼女の能力無しで転移装置を使えるようにする為の実験、その一環として転移装置へある働きかけをすることにした。


 遠く離れた位置にあるものに力を注ぎ操る能力者。通常は大して使い道のない能力を持つ皇族を苦労して見つけ出した。

 ディザ帝国は機械文明には程遠い。だから遠隔操作とでも言うべき能力は見向きもされていなかったのだ。


 そしてそれは、ユリーカの転移失敗を引き起こす。転移の実験体としてのユリーカを取り戻そうと、ドラゴンに変化する能力を持つ皇女を送り込むも失敗する。


 それならば。

 ディザ帝国にダンジョンを出現させ、その奥にある転移門を手に入れれば良い。そう結論に達した不老皇子はそれを可能とする能力を持つ皇族たちを探し始めた。


 その過程で一人の皇女が彼に提案する。聖龍がいる限り、皇族を縛る禁忌はなくならない。愛しき人に再会出来たとしても、子を授かることは出来ない。男はそれで割り切れても、女は愛しき人の子を望むものだと。


 その甘い囁きは既に狂いかけていた不老皇子の心に浸透し、それならば聖龍を屠るという考えに至る。

 狂気に支配された者は自分が狂っているとは決して思わない。

 聖龍を人は滅ぼせない。それならば聖龍を滅ぼすものを転移門を通じて呼び出せばよいではないか。


 その皇女は古書を差し出す。遥か昔、黒い悪魔と戦い辛うじて退けたものの、聖龍もまた疲弊したことが記されていた。


「聖龍がいなくなれば、私達の能力も力を失います。禁忌も消え失せます」


 何故それを知るのかとは考えなかった。彼女の言う通りだと盲信する不老皇子。その皇女がかつて愛した皇女にどこか面影が似ていることも後押しした。


 そして彼はディザ帝国内に幾つかのダンジョンを出現させ、帝国では悪魔猿、ハヤ達が毛針猿と呼んだ存在を大量に召喚することに成功した。

 もはや何の由来による技術を使ったか、何の能力を使ったかはわからない。事変後の調査でもその方法は解明されていない。


 愛しき人に会える、その一心で不老皇子はこの惑星に災厄を呼び込んだ。

 ディザ帝国を蹂躙していく毛針猿の群れ。

 その光景を見た不老皇子は正気に返る。


「わっ、私はなんということを」


 愉悦に満ちた顔で皇女は笑う。


「あぁ、あぁ、あなた様が長年に渡って集めて深めた叡智、長年に渡って育んだ愛情、長年に渡って築いた権力、それら全てが今を導きました。祝福の時は来たれり」

「お前は、お前は何者だ!?」


 その皇女もまた歓喜の表情を浮かべたまま自ら喉を掻き切り、己の成したことを冷静に理解した不老皇子も後を追った。皇族として責任をとったのだ。彼は不老ではあるが不死ではない。


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「その不老皇子を唆した皇女ってヤバくない?」

「ええ。彼女は皇族ではあるけれど、魂は違う世界の輪廻からやって来てたわね。あなたみたいに」

「え?転生者ってこと?」

「“ヒト”ではないけれどね。どこか違う宇宙に存在するモノ達よ」

「悪魔とか邪神的な?」

「あなたの知る概念でいうとそれが近いかも。人が生きようとする方向の生き物だとすれば、その逆。滅びを望む生き物ね、自分達も含めて」

「……何となくはわかるけど、知り合いたくない存在だな……」

「そのモノはね、ずっと昔にあの猿を大量に送り込んできた。この星を埋め尽くす規模の」

「人類存亡の危機じゃないすか!」

「あの時だけ私は人に干渉することにした。手を貸したのよね」


 聖龍さんは人間の営みに手は出さない。それは自然の摂理を歪めること。その先にまともな未来は来ない、だそうだ。


 超越的な存在はそうだろうね。何かあるたびにデウス・エクス・マキナよろしく登場してたら、人類は自力で何も解決出来なくなるよ。


「もうあいつ一人いたらいいんじゃね?」


 そんな世界はまぁ、歪だよね。


「私があれらを排除した後、この大陸の生き物はほぼいなくなったわ」

「…………」


 ドラゴンさんの顔には何の表情も見えない。その胸中を推し量るなんて俺には出来ない。どれだけ辛かっただろうか。


「そして私も深く傷ついたのでしばらく眠ることにしたの。でね、起きたら帝国が誕生する年だったのよ」 

「まさに神話ですね……。地球にもいたのかな」

「それはわからないけど、ずっとずっと昔のことは誰にもわからないでしょう?」

「あー確かにそうですね。で、訊いてもいいですか?」

「私はね、星の命の一部。私達のような存在がいなくなれば、星は死が支配するの」


 なんか凄い話を聞いてしまった。なんとなくだが火星探査機が撮影した画像を思い出す。火星の地表。

 まさに生命が感じられない“死の星“って感じだのを覚えている。


 まとへ帰還だ。

 ドラゴン皇女さんの引き取りに、ドラゴン騎兵も一緒に着いてきた。懸案の『き』が彼女に妖術を施した件については、彼女が襲撃を先に仕掛けたことと相殺となった。


 真っ先にまと国中央政府へ出頭。まと王への報告会を済ませ、懐かしの『き』へユリーカに送ってもらう。彼女は王妃となるから、もうこんなことは頼めなくなるな。


「ミサ、ただいま!」


 抱きつかれた。泣かれた。ずっと泣いてるミサ。

 心配かけたな。こっちから行った面々は誰一人死ななかった。それが大きい。


 大巫女さまに元へハバと一緒に報告。今後もあの森の拠点で薬師として仕事することを命じられ、承諾する。


 ちなみに帝国のダンジョンは一つを除いて封鎖され、残ったダンジョンの転移装置を調整、まと国とガイザ国との行き来に使用すると通達あり。そのうち大山脈と大森林を抜ける道が作られるかもしれない。そうなれば三世代ぐらいに渡る一大事業だ。


 今後は色々な技術が輸入されるだろう。


 農業、牧畜、土木、製鉄などがこの国にもたらされたら、色々と変わっていくと思う。ゆっくりとな。後は造船あたりか。帝国は運河を作ってる途中だそうで、その国力にビビるが川を使った輸送というのもこの国で始めるかもね。大きな川がいくつかあるもんな。


 国内が落ち着いてはきてるので、国内消費向けの薬の生産に追われることはなくなったが、ガイザ国への輸出分、備蓄分が必要なので忙しいのには変わりない。

 さあ俺はここで薬師としての生活に戻るぞ。

 トラブルがないのが一番だ。



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 その後彼らはどうなったのか綴ってみよう。

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【ハヤ】

 ディザ帝国次編の数年後に起きたガイザ国と西大陸からの侵略戦争。それの終結後、ミサとともにガイザ国へ移住。薬の普及に尽力し、魔法に頼らない医療と薬学の基礎を確立した。

 ガイザ国内における『ツノなし』という呼称のニュアンスを変える原因となる。

 またガイザ国の法制度に従いミサと婚姻を結んだ。

 何度か紫髪の女性といっしょにいるのを目撃されているが、その女性は神出鬼没であり素性は不明。



【ミサ】

 ガイザ国に移住後、ハヤとともに薬師として貢献する。彼との間に二人の子を授かる。

 常にハヤを支え続け、彼の仕事の記録を詳細に残した。これは後にガイザ国定教科書の原本となる。


【オミ】

 ディザ帝国事変の数年後、まと国王近衛隊が新設され、初代隊長となる。傭兵部族『き』の戦闘スタイルにガイザ国、ディザ帝国の技術を導入し、新しい流れを作った。

 王妃ユリーカと親交があり、彼女の護衛として常に一緒だった。


【オザマ】

 まと国の各部族の薬師を集め、『き』の薬に関する技術を伝えその後の発展に大きく貢献した。

 ハヤのアドバイスによるもの。


【ハバ】

 ディザ帝国と協力し、転移門と転移装置の研究を進め、これが元で各国との移動手段を確保するとともに、異界研究の礎となった。

 後世の為に様々な記録をまとめた石板作りに奔走した。図や絵が豊富なそれらの石板は保存性に優れており、後々まで貴重な学術資料となる。

 またガイザ国、ディザ帝国との交流を深め、後に学校の雛型となる学舎を設立。教育の普及に尽力した。


【ユリーカ】

 まと国王の妃となり、ディザ帝国との橋渡しとなり、外交の要となった。彼女の子である王子、王女も能力者であるのは確認されたものの、能力の詳細は不明。


【オウルグ】

 西大陸の異民族国家による侵略戦争においての貢献度から大将軍の地位を授かり、国土防衛の象徴として、国王の片腕と呼ばれるようになる。

 ラミテスを娶り、五人の子に恵まれた。

 後に『魔法に頼らない軍』を提唱し、国軍の実力を大いに上げることに奔走した。


【ラミテス】

 オウルグの妻となってからは軍を辞職。子育てに専念した。度々子どもを連れてまと国へ出かけて、ユリーカ王妃やオミとの交流を深めた。

 ミサの良き相談相手としても知られる。



【ディザ帝国皇帝メラクレス】

 帝国事変後、国内の復興に尽力し、同時にまと国との交通網の整備に着手。両国の間に陸路と海路が出来上がるのは次代の皇帝になってからであった。

 また古代より伝わる様々な文献をそれまで秘匿していたものを閲覧権限を拡大することによって、

 様々な技術発展を促した。後世では賢帝と評される。

 事変の元凶となった皇族に対する粛清は極秘裏に行われ、再発防止に努めた。


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 ハヤは老年になった冬に静かに息を引き取る。


「なんだかんだとあったけど、俺は随分恵まれていたよ。みんなありがとうな」


 彼が残した最後の言葉である。

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