第二話 奇妙な少年
「みゃぎゃぁ」
猫みたいに柔らかく地面に落ちるミサ。
「すぅすぅ」
「寝たふりやめろって。ほい起きた起きた」
「あたしはまだ起きたくない」
(あ〜あ、こいつ連日の残業にキレてるな)
そっとミサの髪を撫でながら
「今日は休みにするから」
「ほんと!?」
「うん。ミサも疲れてるだろ?」
「やった!嬉しい〜」
俺に抱きつくミサ。第二次性徴期を迎えた柔らかな感触。
しかし俺は中身がおっさんなので動揺はない。ロリコンじゃないし。
すると入り口から初老の男が顔を出す。
「出来てるか?」
俺とミサの育ての親でもあり上司でもあるオザマ。薬師の長。髪に白いものが混ざってるが筋骨隆々。『き』は国民皆兵のスイスと同じ、全員が戦士なのだ。
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さてここでオザマの記憶を垣間見てみる。
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この少年、今年に入った頃からオザマに色々と質問をしてくるようになった。
目を輝かせて。
「オザマ、地図ってある?」
「……見せてもらえないんだ」
「ねぇあの山の向こうはどうなってるの?」
「この服ってどこから?ふ〜ん部族『い』が作って商人が持ち込んでるんだね」
「他の部族について教えて?」
「へ〜『き』って王様直属なんだ。親衛隊みたいな立ち位置かー」
「この国が出来たのっていつ頃?王は初代?若い国だなぁ」
「国名も決められないなんて立場弱いんじゃないの?王ってさ」
「やっぱ弓と槍、近接は剣なのか」
「古代ローマ風でもないんだねぇ」
「日本在来馬みたいな馬……」
「金属鎧は思い切り身分の高い人専用かぁ」
「青銅器時代ぐらいかな」
「あ、そうか森林戦がメインかぁ。平原で大軍同士の激突は無し、と」
この年頃の子どもとは思えないことに興味を持つ上に、時々わけのわからない独り言を話すようになった少年。
まるで人が変わったようにも感じられ、オザマは森に住まうという悪霊でも取り憑いたかと慌てた。
姉でもある大巫女に相談したところ、
「あれの魂は二つ分かれておる。そのうちひとつになるから気にするな。あれが何かを進言した場合、真摯に検討し、出来るものは採用せよ」
と言われてますます困惑したが、そのうちオザマも慣れてしまった。
確かに変だが、仕事には熱心に取り組むし、薬草や調合を順調に覚えていってる。新しい薬も考え付く。
薬以外にも何やら珍妙な仕掛けを職人に頼んで作ってもらってたりもする。それならまぁいいかと。