第十九話 帝都へ
誤字報告、ありがとうございます。
今後は気をつけます。
何日かして他の都市から迎えが来て、俺たちは帝都へ向かうことになった。
移動手段はあのドラゴンだ。
二頭が一つの籠を足で掴んで飛ぶ。俺たちはその籠に乗っての優雅なフライト。
空から見るとディザ帝国の地形や発展具合がよくわかる。
整備された道路網、点在する集落、広大な穀物畑、やたら大きな建造物、川にはダムも見える。
ラミテスは空の遊覧に大はしゃぎ、ハバは食い入るように眼下の景色を眺めていて、俺は目の前の女騎士を観察。
キャビンアテンダントは女騎士。
髪はブラウンに紫が少し混ざっていて、瞳は紫。ユリーカやドラゴン皇女と同じ特徴だ。
はい皇族確定。トンデモ能力持ってるってことだ。
この女騎士は態度がすこぶる悪く、話しかけても無視される。それどころか視線も合わせない。置物のように立ったままだ。
面白くないので俺はこの女騎士をモデルに妄想して暇つぶしすることにした。
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彼女が持つのは無機物の分子結合を無くす能力。敵の武器や身につけているものは霧散する。
当然自分が着ている服や鎧も霧散するから、敵と戦う度にすっぽんぽんになる。つけられた二つ名は全裸皇女。
彼女は常に単独で戦闘任務に就くことが多い。能力を使うたびに離れたところで観戦している騎士団の同僚や部下は鼻の下伸ばしていつもニヤニヤ。
ある日、密かに思いを寄せる騎士団長と一緒のところを石を素材として生物のように動くゴーレムの集団に襲われる。
その数は百体を超えている。二人で対処できる数ではない。
彼女の能力『無機物分解』を使えば一瞬で倒せるが、彼の手前すっぽんぽんになりたくない! ピンチ!
「くっ。どうしてムダ毛処理をサボってたのだ、私は」
葛藤する女騎士。
「女騎士くん、背中合わせになろう」
紳士な騎士団長の提案に乗る女騎士。
そして女騎士は能力を発動。ゴーレム達は細かい粒子となって崩れていった。
「よくやった女騎士くん!」
「あっ……や」
間極まって振り向いた騎士団長の目に映ったのは、まるでジャングルのようなそれ。
「す、すまない」
その日以来、騎士団長の態度が今までと違うことに気がつく女騎士。
同僚達が酒場で酔った勢いもあって語った与太話。
「騎士団長はパイパン以外ダメだそうだ」
女騎士は明け方まで枕を濡らした。
──────
目の前にいる女騎士さん、髪の量が多いし毛深そうだもんなぁ。
あれ?
相変わらず無表情な女騎士さん、目を瞑っているけど、まぶたや眉毛の端がピクピクしてるぞ。うたた寝でもしてる? レム睡眠だとああなるんだっけ。
まあいいや。別シチュエーションの妄想をしよう。
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彼女は強力なサイコキネシスを使うが、発動条件がえっちな目で見られること。人数に比例して能力は威力を増す。
彼女には常に三十歳童貞従者の一団が付き纏い、彼らの要請でそれはもう恥ずかしい格好をさせられるのが常だった。
際どいデザインの衣装はビキニアーマーすら生ぬるく、下着をつけない指示をされることもあった。
鎧は露出優先のデザインで一部が半透明素材、
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目の前で火花が散る。金属音の残滓。耳が痛い。
俺の顔、その五センチ前で交差する剣と剣。
CA女騎士の剣がラミテスの剣で止められていた。
な、なんだ?
俺は斬られるとこだったの? なんで?
「お前は刺客なのか?」
ラミテスの殺気が凄まじい。
「ち、違う。こ、こいつが頭の中で私を辱めたからだ!」
女騎士は顔を赤らめ、俺を睨んでいる。
辱めた? この女騎士を?
ははーん。
わかったぞ、CA女騎士の能力が。
「あんた、心の中を読む能力だな?」
「何っ? 本当か!」
ラミテスが驚き、女騎士を睨みつける。
「間違いないよ、ラミテス。俺さ、この人があまりにも無愛想なんで暇つぶしに妄想していたんだ。例えば……」
さっきの妄想の内容をラミテスに説明したところ「ハヤ、お前最低だな……」とジト目で睨まれた。
ふ、ふん。
俺はおっさんだからな、ラミテスみたいな小娘に何と思われようともダメージはない。
ないったらないぞ。
「冗談は置いといて」
俺は肩を震わせながら、俺を睨んでいる女騎士に確信を持って告げる。
「この人はユリーカや同行した摂政、オウルグ将軍の話の裏を取るために来たんだと思うよ」
「そうなのか?」
「そうじゃなきゃ皇女さまが出迎えなんて役目をするわけないよ」
ラミテスが驚いたような顔になる。
「あなたは皇女なのか?」
女騎士に詰め寄るラミテス。
「髪と瞳の色を見てみろ。ユリーカと同じだろう?」
「言われてみれば……」
ラミテスは納得したようだ。
「ええい。剣をどけろ! この不埒者を成敗してくれる」
たが互いの剣はピクリとも動かない。むしろラミテスの方が勝っている。
「私を心の中で裸にして弄ぶ男どもはいくらでもいる。しかし。しかしだ! あのような破廉恥極まる妄想は初めてだ!」
「心の中はフリーダム。イエス皇女、ノータッチ! OK? じゃ次は日本の伝統芸で触手の……」
「やめろ! わかった! その妄想をやめてくれ!」
心を読める能力者にエロ妄想がダメージ与えた! もう怖くはない。
「ディザ帝国としてはユリーカや俺たちを疑うのは当然だけど、俺たちが帝国を騙すメリットはないんよ。下手したら殺されて終わりだし」
「帝国はそこまで短慮でも野蛮でもない」
優しく諭すように話す俺を睨みつけながら女騎士は吐き捨てる。
「その辺は信じてるよ。大帝国だから。愚かだったら維持できない」
「お前は違う人生の記憶も持っているな?」
この人、心の奥底まで読むんだな。
「そうだよ。帝国にもいるの?」
「それは言う必要がない」
「いることはいるんだ?」
「……」
沈黙は肯定か。
「ラミテスやハバの心も読んだんだろう? 俺たちはこの国の異変を聞いて調べに来て、たまたま成り行きでそっちの兵士と一緒に戦っただけの話。あの都市だけの出来事ならいいんだけど」
落ち着いた女騎士は、遠くを見るように呟いた。
「あの洞窟、ダンジョンと言ったか、あれは他の都市にも現れている」
「中を調べた?」
「お前らの言う毛針猿、我らは悪魔猿と呼んでいるが、そっちの排除に追われて調査どころではない」
「そこまで?」
「帝国全土がその有様だ。戦闘型能力を持つ皇族も全員が対処あたっている」
「それはまずいな。話してくれてありがとう。だからさ、俺たちにとってもこの騒動は他人事じゃないんだよ。きっとディザ帝国の次はまと国やガイザ国だと思う。あれは人を滅ぼす為の生き物だ、俺の推理だけど」
女騎士は再び黙り込む。
「ハヤ、それは本当なのか?」
「ラミテス、前にユリーカが出てきて、後でハバが解体した遺跡に転送装置があったでしょ?」
「その話は聞いた」
「あれ最初はさ、交通手段だと思ってたんだけど訂正するよ。毛針猿を転移させるためのものだと思う」
「ダンジョンから出てきた毛針猿を他の場所へ送るためのもの、ということか」
「今ならそうとしか思えない。最初にディザ帝国に出現した理由もわかったよ」
「それは?」
ハバと女騎士、二人とも身を乗り出して聞いてくる。
「奴らの死骸は塩になる。そうすると農業が真っ先にダメになる。だから農地が一番広いディザ帝国が狙われたんじゃないかな。ガイザ国の半分は狩猟、まと国は農業が始まったばかり」
ラミテスも黙ってしまった。ハバは俺の目を見つめながら問う。
「何者かの意志でそうさせてるということか?」
「あれを自然現象とするのは無理があるでしょ? 俺の記憶にある男がいた世界でもさ、遠い昔に優れた文明が忽然と消えた遺跡が幾つもある。ここも同じなんじゃないかな」
ハバも黙り込む。
ナショナルジオグラフィックはよく観たぞ。
「ガイザ国を守るラミテス達は強いよ。すごく。ディザ帝国も。だけどあの毛針猿があの大群で襲ってきたら対処なんて出来ない」
その先は言わずとも皆わかるだろう。国民が犠牲になる。
皆が黙ってしまう。
「皇女さん、人は自分の心の中じゃ嘘はつけないから、あんたの能力で見たことは絶対的だろう? 議会の人らにありのままを伝えてほしい」
帝都が見えてきた。
平野を埋め尽くす街並み。
中央に見えるのは城かな?
二階建て、質実剛健な作りだ。
その手前にある立派な建物、議事堂の中庭に俺たちは降ろされた。
議事堂は巨大で威圧感増し増しな石造建築だった。
ずらっと並ぶ議員に圧倒される。二百人はいるだろうか。
ユリーカ達も座ってる。ウルグ将軍、流石に貫禄ある佇まい。
中央に感情の起伏が無さそうな初老の紳士。
左には柔和な笑顔を浮かべてる初老の紳士。
右には険しい目つきで睨んでる初老の紳士。
あーわかったわ。
笑顔のおっちゃんが懐柔役、不機嫌おじが詰問役、真ん中のおじさんがまとめ役と。
腹芸やってる時間が惜しいが、あのCA女騎士改めテレパス皇女さんがいるなら、あくまでも俺たちの喚問は確認作業だろうな。
幾つかの質疑応答が交わされ、次にまと国からディザ帝国へ宛てた親書の内容を教えられた。
要約すると『まと国はディザ帝国に恭順するよ。献上品の代わりとして毛針猿排除で貢献するから、ユリーカをまと国王の妃として迎えたいのでよろしくね。これを持って両国の関係性を深めたいんだ』とのこと。
まと国王は現状を受け入れ、変なプライドに囚われず謙ってみせた。器が大きいな王様。
で、俺たちに毛針猿の駆除をやってみせろと。
俺は発言許可をもらって、さっきラミテス達に話した仮説を述べた。
あれは人の滅びをもたらす存在だと。
ざわつく議会。
にわかには受け入れられないだろうな。
あの仮説に辿り着いたのは何も俺が終末思想の持ち主ってわけではない。
基本的に野生の獣は人を積極的に襲わない。熊や猪が人を襲う場合、出会い頭で驚いたから、慌てて攻撃してくる場合や子を守ろうとしての行動だ。
野生に生きる以上、怪我は死に直結する。彼らも人間が怖い。しかし毛針猿は数が多いとは言えまず人間を襲ってる。
ディザ帝国では牧畜も盛んだ。途中で無人となった集落に家畜小屋や牧場があったのに、襲われた痕跡はなかった。人だけを襲う獣。そんなものが自然発生するわけない。何者かの意図を感じる。何が目的なのかは不明だが。
神?
いやいやこんな些事に関わるわけないやん。宇宙のスケールを知ったら、惑星ひとつの上に蠢く生き物なんてそれこそミクロレベルのもの。
人間だって自分の体内にいる、例えば腸内細菌のひとつのことなんて意識したこともないだろう? それと同じだよ。多分。
で、まずは目の前のことに対処となり、俺は幾つか質問する。
「あの都市の人工湖でやった作戦をまたやりたいのですが、どなたか皇族の方の能力で大量の海水を奴らの上に降らせるのは可能でしょうか?」
「可能だ」
すごいぜ!皇族!
「塩水は、オウルグ将軍やここにいるラミテスが使う雷撃魔法を通しやすくするんです。奴らをなるべく集めてそこに放てば、ある程度まとめて処分出来るかと思います。ただ奴らの死骸は塩に変わりますので、農地は避けたいです」
議会は騒がしくなる。
「もしも皇族の方で雷撃魔法と同じ能力の方がおられたら、お願いしたいです」
「それも可能だ」
やはりいるのか。チートだよ皇族。
二日後、プランが念入りに検討され実行される。
オミの部隊と俺は毛針猿を一箇所に集める囮役だ。帝都の西にある都市に向かう。ドラゴンタクシーは快適。飛んでる数を見たら、数百頭は飼ってるんじゃないか?
現地の上空に着いて下を見下ろした俺は愕然とした。そこには都市を埋め尽くす毛針猿ども。ゾンビ映画で見た光景。都市が黒く染まってる。
「数が……」
「やるしかないねぇ」
「だね。オミも皆んなも気をつけて!命大事に!」
「わかってるよぅ。ハヤもね」
パワードスーツ装着。
真っ黒な毛針猿の群れの中へ飛び降りる!
夏祭りや花火大会で万単位の人混みに入っておしくらまんじゅう!そんな感じ。
八九式を乱射しながら、この都市の外れにある巨大なコロシアム(闘技場)へ向かって走る。奴らの処刑場所だ。
が、俺は前後左右から押し寄せる毛針猿にのしかかられ、動けなくなる。視界は塞がれ、どんどん重くなる。くそったれ!
パワードスーツの装甲は何ともなさそうだけど、単純に動けない。ミツバチの熱殺蜂球に捕まったスズメバチの気分だ。
不意に開ける視界。
オミだ!
オミが助けに来てくれた!
愛してるよオミ!
パニクった時って変なテンションになるよな?
な?
狼人間態になったオミの力は凄まじく、毛針猿に触れた瞬間、バラバラに弾け飛ぶ。その身体を覆う銀の毛並みは奴らの毛針を弾く。
美しい。
呑気なこと考えてるなと自分に呆れるものの、美しいものは美しい。
戦うオミは美しいんだ。
当初の打ち合わせ通り、ドラゴンが降下してきたので、俺たちはその脚目がけて跳躍、その脚を掴んで脱出。そのままコロシアムへ。奴らを誘導する。
ドラゴンさん、有能だわ。
コロシアムは日本で見たどの球場よりも大きかった。帝国すごい。
その中央にはドラゴンからロープで宙吊りになったオウルグ将軍とラミテスが大暴れしてる。
着地しては奴らを剣でバラバラに。そして上へと引っ張りあげられる。ヒット&アウェイ戦法。
オミの部隊は全員ドラゴンにピックアップされたようで、ここに合流。全員で毛針猿どもを誘い込む。コロシアムは何万もの毛針猿で埋め尽くされた。
それを見て思い出す。
あの密度。
東京へ出張した時、名物の満員電車に一度だけ乗った時のことを。あれだ。あれと同じだ。
その瞬間、空より海水がトン単位の塊りとなって落ちてくる。ドラゴンは高度を稼いで退避。
目を瞑る!
瞼を閉じても感じられる閃光。
大音響。
雷撃魔法すごいな。
コロシアムは毛針猿の墓地となった。
俺の反省会。
近接戦闘、しかも相手が複数だと余程の達人でない限り、銃器は不利なんだよなぁと改めて思い出す。
この後、一ヶ月間、帝国の主だった都市へ行って作戦行動を続けることになった。ほぼ毎日。きつい。
けど休んでなんかいられない。現在進行形で犠牲者が出てるんだ。日が暮れたら夕飯も食べずに泥のように眠る、そんな日が続いたわけだ。
「オミの作るご飯が恋しいよぉ」
「あらぁ嬉しいねぇ。でも帝国のご飯も美味しいでしょ?」
「うん、まぁ。でもね、豪華なのが続くと飽きちゃうんだよ。あの薄味が懐かしくて」
「わかるぞ」
ラミテスが加わってくる。
「私もガイザの香辛料を効かせた料理が恋しくてな」
「食べ慣れたものが一番なんだよな」
「ふふっ。故郷が恋しくなったのか?」
「あ、ユリーカ、そりゃあそうだよ。あんたはどうなの?やはり帝国の食事が口に合う?」
「私は特に好みはない。民より供出された食物に不平不満はない。皇族とはそういうものだ」
「そ、そうなんだ」
「俺は帝国の料理が気に入ったな。全て記録して帰国したら再現するつもりだ。食材の調達が難しいが」
「ハバ、さすが研究者だね」
俺たちがこんな悠長な会話をしてるのも、毛針猿の排除がほぼ終わり、まと国としての貢献活動は一段落したからだ。
さすがは帝国。各地でマンパワーを活かした掃討が行われている。
平行して帝国、ガイザ国、まと国にある全てのダンジョン封鎖が行われた。
そして帝国皇帝との謁見が決まった。




