第十七話 ラブコメ
ラブコメになるとは思わなかった。
翌朝。ダンジョンから鎧姿の人間が現れ、入り口で見張りをしていたオミの部隊と交戦。
何とか取り押さえられ連れて来られたら、オウルグを見た途端「閣下!ご無事で!」となり、将軍の直属の部下登場となった。
「閣下、すぐにお戻りにならないのですか?」
「まぁ待て、ラミテス。慌てなくとも差し迫った用はないだろう?」
「ですが……」
名はラミテス。女騎士だ。強そう。
ラミテスが将軍に向ける恋心、側から見てると丸わかり。
オミ、ユリーカに敵意剥き出しの視線を送ってる有様で、俺もオミもミサもハバもユリーカも、他の人間も、全員ニヤニヤが止まらない。
あの転移門で常に同じ場所へ行けるなら、多少の交易は出来そうだと思うけど、その辺はお偉いさんの判断に任せよう。
オウルグは俺達の調合した薬の数々に興味深々だからな。ディザ帝国と違って友好関係を結べそうだし。
それから一ヶ月。
『まと』から特使たちがやって来て、ダンジョンの転移門を使ってガイザ国へ行くことになった。
護衛にオミ達、それと俺とハバが記録係として、いざという時の保険でユリーカが同行する。
ミサがぐずってまいったけど、オミがうまいこと慰めてくれた。すぐ戻るよ。
海となってる例のあそこ、女騎士ラミテスがタコみたいなクリーチャーをあっさりと倒した。強えぇ。
何か呟くと剣が青白く光り出し、それを振うとタコ真っ二つ。ほえぇ魔法すごい。もうそれしか言えない。
転移門の位置へ立つと目の前の風景が一瞬で変わる。石造りの部屋だ。
そこからさらに別の転移門で地上へ出た。
ジャングルだ。素直な感想。
陽射しは強く、蒸し暑い。木や草も熱帯っぽい。大きいんだ、何もかも。
整備された道を少しだけ歩くと、でかい城があった。建築技術は進んでるみたい。
ユリーカも「帝国と変わりない」って言ってたね。
オウルグ将軍、ラミテスに続いて歩く俺たち。
城下町に入る。住宅は木造。高床式。
ガイザ国の人々が物珍しそうに俺達を見ている。
小さい子に手を振る。ありゃお母さんの後ろに隠れちゃった。
額に角はみんなだね。背中に小さな翼がある人もいる。尻尾がある人も。あとでスケッチしておこう。
街並みも清潔だし、高度な文明社会だとわかる。
城の入口にはやたら体格のいい騎士達が整列してた。
俺達はそこで武器を預け、そのまま大広間に通される。
国交を結ぶ調印式の始まり。スピード優先。いいね。
無事互いの書簡に調印が行われ、正式に国交が結ばれることになった。後は事務レベルの交渉に入るとのこと。ちなみに俺達の国は仮名称『まと』になってる。
もういいんじゃないかな、それでと思うが『まと』以外の部族がうるさいんだろう。
オミ達は案内され湯浴みに行き、将軍と俺は色々と話し込む。
「どうだ?我が国は」
「人々の顔見ればわかります。名君ですね、将軍は」
「ほぅ」
ちなみにオウルグ将軍には俺の転生のことを伝えてある。長い付き合いになりそうだし。
「街中の何でもない風景見てたら、治世がどんなものかわかりますよ。上に立つ人のやる事一つで、住民の顔つきや色々なものが変わるんです。
外部から来た人間にはすぐに目に付く」
「子どもらしからぬ物腰だと思っていたが、本当に大人なのだな」
こっちの人たちの強さを見るに、ディザ帝国が侵攻してもなんて事ないだろうと予想する。まぁやってみないとわからんけど、航行技術を発達させて無事ここに辿り着ければの話。ことごとく未帰還なのは何故だろう?
やばい海流あるのかな。
「お前達からもたらされる薬は魅力的だ。この国では薬学はあまり発達しておらんのでな」
「魔法を当たり前のように使える弊害でしょう。あれ便利ですもん」
「こちらから出せるものを協議しておるが……」
「この大陸の動植物を色々調べたいですね。薬の材料なら互いに価値が見合うでしょう」
薬はほぼ生物由来、少し鉱物。化学工場なんてずっと未来のこと。
その辺は大巫女さまにも上申してある。『まと』の王様がどうするかは知らんけど。
あの特使が帰ってからの話だ。
その後ラミテスに捕まる。
「オミとユリーカに伝えろ。閣下に色目を使うな、と」
恋する乙女のアホな嫉妬心。
「断言してもいいよ。その心配ないから」
「なぜ言い切れる?」
「あのさ、オミもユリーカもそれどころじゃないの。ディザ帝国への備えで手一杯だから、色恋に呆けてる時間なんてないよ」
「そ、そうか」
やっと納得してくれた。恋愛脳女騎士め!
「ところで俺達って魔法使える?」
「無理だな。我々は体に纏う波動を操作して魔法を使うが、お前達ツノ無しからは波動を感じない」
バッサリだ。不可視のものが見えるんだな、ラミテス。
「ユリーカも?」
「そうだ。あの能力の由来は全く別のものだ」
「うーん、残念」
「お前、不思議な鎧を纏えるそうだな?」
「あー聞いたのね。使えるよ」
「他の騎士達も見たがっててな、どうだろう、修練場で見せてはくれないだろうか?」
「見せるだけ!見せるだけね!俺、剣なんて習ってないし、そもそも本職の戦士でもないし」
で、全員が見学する中、パワードスーツ装着。
「ほんと不思議な鎧だな」
「転移技術か」
「ラミテス、剣持ってこっち来んな!近寄るな!」
「ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」
「言い方ぁ!」
ラミテスが踏み込んでくる。速い、速すぎる。
こんなん逃げられないわ。
腕で受ける。うん。剣が当たった触覚はある、しかし痛みは無い。
「金属ではない手応えだな」
「俺もわからない。蟹の甲羅みたいな素材かも?」
するとラミテスの剣が妖しく光り始める。
「おーい!それ魔法!本気やん」
「威力は抑える。だからちょっとだけ!」
「やめろー!」
剣が振られるとその軌道から何かが飛んできた感触はあった。しかしダメージ無し。
「雷撃も効かない……」
「あのさ!これが何にどれだけ耐えられるか知らんのよ!まじで。だからやめて!」
と戯けつつ、八九式をイメージする。狙いはラミテスの剣先よりちょい下、ゼロ距離で。威力はまぁ拳銃弾ぐらい?折れないよな?
「あぁっ」
衝撃音とともにラミテスの剣は弾かれる。不可視の攻撃だからな。
「これで満足してくれ!」
「すまんな。ラミテスは馬鹿がつくほどの武芸の求道者なのだ」
オウルグに謝られた。
「かっ、閣下!そんな!」
「お前も自重しろ。ハヤが客人だと忘れたか」
「将軍さま、やっぱ騎士って怖いです。俺死にそう」
それからオミ達と騎士達の模擬練習となった。スタイルが全く違う者同士の戦いは得るものがあったはず。
「この国の剣術はディザ帝国と似ているが、全く違う動きもある」
解説のユリーカさん、ありがとうございます。
そして閃いた。
八九式アサルトライフルと同じように、このパワードスーツって剣や槍も取り込めるのでは?と。
帰ったら試そう。
あ、それなら剣を……習わなきゃ……無理だ……その暇がない……よしっ……諦めた。
その後、侍女さん達に連れられ俺も湯浴みすることに。
風呂はいいなぁ。
帰還した俺達の周囲は一気に騒がしくなった。
まず俺たちの天幕近くにガイザ国の大使館が建設された。ダンジョンから二百を超す職人、数百の荷馬車が行列をなして出てくるのは壮観だった。
二ヶ月ほどのスピード建築で大使館は出来上がったが、ディザ帝国に見つからないよう擬装を依頼。
ちょっとした小山ができた。
国交窓口としてガイザ国第八王女が赴任。
護衛兼ダンジョンスイーパーとして騎士が二十名が常駐、あのラミテスが隊長だと。嫌な予感しかない。
使用人として『まと』から女子衆が十名、文官が五名、ユリーカも付くことになった。
『まと』から来たのは間諜だろう。
『ぬ』から研究者が一人追加。こっちは魔法の記録だそうだ。何でも研究だ。
さらに行商が直接ここへ来ることになった。
もう集落というかちょっとした街になった。
オウルグ将軍曰く、ダンジョンは変化することもあり、今のところあの海がある階層が突き当たりだが、さらに階層が増えることは十分あるだろうとのこと。
そうなると『き』で抑えるのには戦士が足りないとのことで、あの常駐騎士が派遣されたのだ。
またこちらの戦士との合同訓練も行われ、互いに切磋琢磨することになる。『まと』からも兵士が時々訪れる。
もう擬装は無駄かも。目立つよなぁ、ここ。
俺とミサは薬の調合に追われ続け、模擬戦を求めるラミテスから逃げ回り、日が暮れて夕食とったらすぐに寝落ちという日が続くことになる。
秋も深まりもうすぐ冬が来る。




