番外編02-1.舞踏会の記録1
「それで、殿下からはどのようにプロポーズを!?」
「あの『エデンの丘』でプロポーズを受けたと聞きましたわ」
「「素敵~」」
令嬢たちからずいずいと顔を寄せられて、ミレイナは身体を固めた。
ここは、エモンスキー公爵家。珍しく義姉がお茶会を開催したらしい。数日前、晩餐の席でそんな話を聞いてはいたが、自分には関係ないからと気にしていなかった。
まさか、来客とばったり会って「少しだけでも」と連行されてしまうとは。
ミレイナは同年代の令嬢たちから好奇心の目を向けられ、当惑していた。
「みなさん、落ち着いて。ミレイナが驚いているわ」
義姉がみんなを宥めたけれど、あまり効果はない。好奇心を一切隠さない目がミレイナに集中している。
ミレイナの周りに集まったのは同じ年ごろの令嬢ばかりだったが、他の貴婦人たちもミレイナの様子を興味深げに見ていた。
こんな風に注目が集まることはなかなかないから緊張してしまう。
みんなの興味はミレイナではなく、セドリックに向けられたものだとわかっている。とは言え、この視線を一身に受けているのはミレイナなのだ。緊張しないほうがおかしい。
「舞踏会で初めて殿下を拝見しましたが、本当に麗しく、ミレイナ様と並ぶと絵画のようで素晴らしかったですわ」
「そうでしょう? 殿下ってどこから見ても麗しいの」
ミレイナは思わず頬を緩めた。
セドリックが絵画のように麗しいのは間違いない。彼のよさをみんなが知ると嬉しいし、誇らしい。誰にも知られない場所でこっそり彼を堪能するのもいいものではあるのだが。
推しを褒めて褒めてもらえたら、どんな理由であれ誇らしく思うものだ。
(セドリックの素晴らしいところを、みなさんにもっと知っていただきたいわ……!)
セドリックは麗しいだけではないと、声を大にして言いたい。ミレイナにそんな勇気はないけれど。
ツンケンしている性格の中には気遣いが優しさもある。それに、ああ見えて寂しがり屋なところもあるのだ。
語って聞かせたい気持ちを押さえて、ミレイナは満面の笑みを浮かべた。
「殿下と並んだミレイナ様もいつも以上に麗しくて、みんな魅入っておりましたのよ!」
「ありがとう。わたくしは殿下の麗しさの足元にも及ばないと思うけど、お世辞でもそう言っていただけると気持ちが救われるわ」
おまけとは言え、セドリックの格を下げていないか心配だった。
世辞でも言われると安心する。
「ミレイナ様は謙遜しすぎですわ」
「そうですよ。本当に美しかったのですから! みんなお二人がお似合いだと噂しておりましたのよ!」
「まあ……! なんだか恥ずかしいわ」
お世辞だとわかっていても、そこまで褒められると気恥ずかしい。お世辞には耐性ができたと思っていたが、セドリックとお似合いという言葉は、容姿を褒める類の世辞とはまた別の力があるように思える。
ミレイナは熱くなった両頬を抑えた。
「お二人の様子を宮廷画家が真剣に描いておりましたから、確認してくだされば私たちの言っていることがわかると思います!」
令嬢たちは強く頷いた。
ミレイナはそんな彼女たちの言葉に目を丸める。
「宮廷画家……?」
「ええ、王宮の行事には必ずいらっしゃいますから」
「まあ! そうなの? みなさま、とっても詳しいのね」
ミレイナは社交場に出ることが少ない。セドリックのいない夜会など甘くないプティングのようなものだ。だから、可能な限り回避し、参加しても適当な理由をつけてさっさと帰ることが多かった。
エモンスキー公爵家に生まれたからこそできた技だ。
だから、ミレイナはあまり世間のことに詳しくない。王宮の行事に宮廷画家がいることも今の今まで知らなかった。
普通の令嬢なら知っていて当たり前の情報なのだろうか? みんな当たり前とでもいうような顔で頷いているではないか。
ミレイナが驚いていると、気をよくした令嬢たちは色々なことを教えてくれた。流行りのものや、セドリックのプロポーズの噂が広まったことで第二王子に人気が集中していることなど。
お茶会ではいつも、こういう情報を交換しているようだ。
ミレイナは彼女たちの言葉に相槌を打つ。しかし、頭の中は宮廷画家の描いたセドリックで頭がいっぱいだった。
(お願いしたら見せてもらえるかしら?)
さすがに買い取ることはできないだろうが、見る権利くらいはもらいたい。
宮廷画家の作品は披露されることもあれば、数年貯蔵されてしまうものもある。貯蔵されてしまうと、お披露目されるのはよくて数年先になってしまうだろう。
すべては国王の匙加減で変わってきてしまうのだ。
ミレイナは時計を見ながら立ち上がった。
「それでは、わたくしはこのあたりで失礼いたしますね」
「本日も殿下の元へ?」
「ええ。殿下を待たせるわけにはいきませんから」
ミレイナの言葉にみんなが頷く。
(少しだけセドリックの気持ちがわかったわ)
セドリックを口実にすれば、みんながなんとなく察してくれる。面倒な駆け引きなどせずにお茶会から抜け出せるは、人見知りのミレイナにとっては幸いだった。
こうしてミレイナはそそくさとお茶会を後にしたのだ。
◇◆◇
「と、言うわけなの」
本日の夕方~夜くらいに二話目を投稿予定です。
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