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22.舞踏会2

 ミレイナは目を丸めた。そして、会場がざわめく。


 予定になかったはずだ。


 指先への口づけることは挨拶としては問題ない。ただ、目上の女性への挨拶として使われることが多いのだ。王子が一介の令嬢にするような挨拶ではない。


 セドリックの意図はわからない。ミレイナがセドリックの師であると、周囲に意識させるものなのか、それとも他に何かあるのか。


 ミレイナが何か言う前に、セドリックは背を向けた。家族の元へと階段を登っていく。


 兄がミレイナにそっと耳打ちした。


「おまえら、とうとう婚約したのか?」

「お兄様ったら、そんなわけないでしょう? 冗談でも言ってはだめよ。殿下の恋はこれから始まるのですもの」

「その言葉を殿下が聞いたら怒ると思うけどな」


 兄は肩を揺らして笑った。


 たしかに人嫌いであるセドリックに、恋をすると言えば怒るだろう。けれど、生涯人嫌いであるわけがない。


 原作では社交デビューの舞踏会で出会い、セドリックとシェリーの物語が始まる。人生何があるかわからない。


「お兄様は殿下のことを全然わかっていないのよ」

「一番わかっていないのはミレイナだと、俺は思うが」

「わたくしが一番、殿下の近くにいるのに?」

「近すぎて見えないことってあるよな」


 兄妹で睨み合っていると、義姉がそっと二人を制す。ちょうど国王の挨拶が始まるところだった。


 つい、彼に口づけされた指先を見てしまう。


 最近のセドリックは少しおかしい。お年頃だからと簡単に片づけていいのかわからず、困惑しているところだ。


 ミレイナは国王の言葉も、ずっと楽しみにしてたセドリックの挨拶も耳には入って来なかった。


 階段の上から伸びる視線。彼はずっとミレイナから目を離さない。セドリックから目を離しても、彼の視線を痛いほど感じる。


(もうっ……! 他に見る場所がないからってあからさまだわ)


 引きこもりに知り合いなどいないのだろう。ミレイナを見てしまうのは必然なのかもしれない。


 しかし、ずっと見つめると他の人から勘違いされてしまいそうだ。





 セドリックのファーストダンスで舞踏会はスタートする。


 原作では国王に促され、誰か一人を選ぶシーンだ。そこで一番地味なドレスを着ていたヒロインのシェリーを選ぶ。


 ミレイナは会場を見回した。


(シェリーはどこかしら?)


 原作では病気の娘の代わりとして子爵家に引き取られる。しかし、資産のほとんどを本当の娘の治療に充てているため、シェリーのドレスは義母お下がりの古びたドレスだったはず。


(いたわ!)


 後ろのほうに古びたドレスの少女が立っていた。ピンクブロンドの髪、同じ色の愛らしい瞳。まさしくザ・ヒロインという出で立ちの少女だ。


(遠目から見ても美少女ね)


 古びたドレスなんてどうでもよくなるほど、光り輝いているように見えた。原作で、セドリックは後々「一番無害そうだったからという理由で選んだ」と語る。しかし、実際は彼の照れ隠しなのではないかと思うほどシェリーは愛らしかった。


 ミレイナが男だったら、シェリーに恋していたに違いない。それくらいの破壊力のある美少女なのだ。


 あの二人が見つめ合ってダンスをする姿はさぞかし美しいだろう。想像するだけで期待に胸が膨らむほどだ。


(二人の姿を間近で見られるなんて、最高の推し活だわ)


 オーケストラが準備を始めている側で、ミレイナは妄想に忙しかった。セドリックが国王の指示で階段を降りる。


 高い場所からなら、後ろのほうまでしっかりと見えているはずだ。あれだけ輝いているシェリーを見つけられないわけがない。


 しかし、セドリックはまっすぐミレイナに向かって階段を降りてくる。ミレイナは、シェリーの居場所を示すように視線で奥を指した。しかし、セドリックにミレイナの意図は伝わっていないようだ。


 まっすぐミレイナを見つめ、ミレイナの前で止まる。


「ミレイナ嬢、よろしければ一曲お相手を」


 セドリックがミレイナに手を差し出した。


「で、でも……」

「普通パートナーがするものだろ?」


 シェリーがいる場所に視線を巡らせる。しかし、シェリーは場所を変えたのか、既にいなかった。


 横に立っていた兄がミレイナを小突く。


「ミレイナ、殿下をあまり困らせるなよ」


 シェリーがだめなら、王妃や王女は……と思い、階段の上に視線を巡らせる。しかし、王女は興味なさげに他の場所を見ている。王妃に至っては、「問題ない」とでも言いたげに満面の笑みをミレイナに向けた。


「ミレイナ……だめ?」


 セドリックが不安そうな、そして甘えるような顔でミレイナを見る。ふだんは見せない表情に、ミレイナの胸がきゅっと締まった。


 そんな表情を、今まで見たことがあっただろうか。


 つい、彼の手を取ってしまったのだ。


「よろこんで」


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