表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/42

21.舞踏会1

 セドリックが暮らす宮殿から一緒に外に出るのはとても新鮮で、つい見上げて確認してしまう。そのたびに彼と目が合って、微笑んだ。


 前回のデートでは、髪の色が違っていたせいかあまり印象深くなかった。もちろん、金髪に変わった程度でセドリックの魅力が半減することはない。けれど、この黒髪が彼の持ち味であり、セドリックの魅力を最大限に引き出していると言ってもいいと思う。


 金髪なら鏡で毎日見ているし、母も兄も金髪だ。珍しさはそうなかった。


「さっきから顔、緩んでる」


 セドリックがミレイナの頬を指先でつつく。そんな風に触られたら、あとでアンジーに怒られるのはミレイナだというのに。


「今日はずっと僕の隣に立っていること」

「もちろん、パートナーですもの。置いていかないわ」


 セドリックが疑いの眼差しを向ける。


 そんなに一人にされないか不安なのだろうか。


(そうよね。いつも余裕そうに見えても今日が初めての社交場ですもの)


 不安になるのも仕方ないことだ。ミレイナは満面の笑みでセドリックを見上げた。





 王宮の舞踏会は年に数回開催される。決まっているのは建国記念の一回で、それ以外は祝い事などがあると適宜開催される。最近では国王の誕生を祝う舞踏会が毎年行われている程度だろうか。


 歴史を紐解くと、王太子の結婚相手を探す舞踏会が開催されたこともあるのだとか。どこかで読んだ物語のように。


 王族の社交デビューの場は、国内の貴族はみんな招待される。そのため、婚活の場として人気だ。だから、今日までにみんな社交デビューを早めたのだろう。


(わたくしもお相手を探す余裕はあるかしら?)


 セドリックを置いてはいけない。それに、今日は彼とシェリーの出会いがあるはずだ。それを堪能するほうが優先される。


 婚活はもう少し先になりそうだと思った。


「セドリック第三王子殿下、ならびにミレイナ・エモンスキー公爵令嬢」


 セドリックのエスコートで会場に入る。


 中央の入り口から入場して、貴族たちの真ん中にできた花道をセドリックと共に通る。そこまでがミレイナの最初の役割だ。両親が待つ、先頭でわかれる。その先にある階段を登るのは王族のみが許されているからだ。


 彼はいつも以上に何を考えているのかわからない表情でまっすぐ前を向いていた。ミレイナが心配する必要などないのかもしれない。


 しかし、セドリックとは反対にミレイナは緊張で身体を強ばらせた。


 元々社交場にもあまり顔を出さないのに、こんなに注目を浴びているのだ。緊張しないわけがない。左右から突き刺さる視線。みんなセドリックを見ているのだということはわかる。けれど、おこぼれでもらう視線すら息苦しさを感じた。


「見ろ。あの男、腹のボタンが取れてる」


 セドリックが耳元で小さく言った。彼の視線を追って、男を見ると、大きなお腹の真ん中にあるボタンが取れ、中の白いシャツが顔を出していた。


 ミレイナは思わず笑った。男のセドリックを見る真剣な面持ちとのギャップが面白い。


「笑わせないで」

「ミレイナがむすっとしてるから」

「もうっ……。真面目な席で思い出して笑ったら、どうしよう」

「別に、少しくらいなら大丈夫だろ。それよりも、人が多くて疲れた」


 セドリックがため息を吐く。


「まだ始まってもいないわ」


 しかし、疲れているのはミレイナも同じだった。ミレイナの場合は気疲れのほうが大きいが。


 二人とも引きこもり体質なので、思うところは同じだ。


「はあ……。帰りたい」

「わたくしも……」


 二人は顔を見合わせて小さく笑った。


 セドリックのおかげで少しずつ周りを見る余裕が出て来た。


「ミレイナ。疲れたから、やっぱりファーストダンスだけで……」

「だめよ。二曲は約束だわ。二曲だって少ないくらいよ」


 彼の疲れた気持ちは理解できるが、賭けは賭けだ。ミレイナも毎日彼の脛を蹴らないかと不安でいっぱいだったのに、今更なしにはできない。


 それに、みんながセドリックと話したいと思っている。セドリックと同じ年のころの令嬢たちは期待の眼差しで彼を見つめていた。みんなに彼のよさをもっと知ってもらうためにも、この会場に彼を長く留めておかなくては。


(セドリックはかっこいいから当たり前よね)


 ミレイナが誇らしい気持ちになる。自慢の推しが好かれる姿が嬉しくないわけがない。


 ミレイナの両親が待つ場所に辿り着いたが、セドリックはなかなかミレイナの手を離さなかった。


 ミレイナは首を傾げる。


「殿下、どうしたの? 階段を登らないと」


 階段を登り、王族が待っている席までいかなければ宴は始まらない。セドリックは不服そうに顔を歪めた。


「頑張って」

「ああ。またあとで」


 セドリックはミレイナの手を引くと、指先に唇を落とした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ