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19.アメジストのイヤリング1

 セドリックの社交デビューの予定が早まった関係で、社交界は騒がしくなっていた。


 王宮の舞踏会で社交デビューできるのは、王族のみという慣習があるためだ。セドリックがデビューする舞踏会に子息を参加させるためには、それよりも前に社交デビューさせる必要がある。


 しかし、急いで社交デビューさせるにしても、格式ある夜会を選びたいと思うのが貴族なのだろう。


 舞踏会までの一ヶ月で開かれた夜会で、上位貴族が主催した夜会は多くの人で賑わったらしい。


 本来ならば婚活のため、ミレイナも参加したかった。しかし、連日のダンス練習の疲れから、夜会になど行くことはできなかったのだ。


 しかし、ダンスの練習はセドリックのために必要なこと。一日たりとも休むわけにはいかなかった。


 結果、ミレイナの婚活はまったく進むことなく、王宮の舞踏会の日になってしまったのだ。


「お嬢様、ほんっとうに素敵です!」

「ありがとう。けれど、こんなに派手なドレスで参加していいのかしら?」

「何をおっしゃいます! 第三王子殿下のパートナーとして参加するんですよ!? いつもみたいに『適当で』なんて許されません!」


 アンジーの強い言葉に他のメイドたちも頷き合っている。


「主役は殿下よ。わたくしはオマケでしょう?」

「オマケだからといって、殿下の服の装飾が適当だったらお嬢様は怒るでしょう?」


 たしかに。とミレイナは頷いた。オマケと言えど、セドリックと登場から一緒なのだ。ミレイナはずっと前にデビューした謂わば先輩。エスコートは男性がするものだけれど、実質ミレイナがエスコートするようなものだろう。


「そうね。そうよね。わたくしもオマケとして胸を張って着飾らないとダメね」

「そうです。ですから、もう少しチーク足しましょう。最近はほてり風のメイクがトレンドだそうですよ」

「メイクにも流行があるのね。難しいわ」

「ご安心を。そういうことは私が調べておきますから」

「アンジーは本当に頼もしいわ」


 ミレイナは瞳を潤ませてアンジーの手を取った。アンジーが流れる前に溜まった涙を拭う。


 こういうとき、しっかり者のアンジーがいることでどんなに助かったことか。感謝を伝えてもまだ伝えたりない。


「第三王子殿下がデビューなさったら、これから社交界は賑わいますね」

「ええ、そうなの。恋を知らない殿下も、とうとう恋する時期がくるのよ」

「殿下が……ですか?」


 アンジーは首を傾げる。


 アンジーも不思議なのだろう。あの、人間に興味がないセドリックが恋をするなど想像できないから。


 ミレイナだって、前世の記憶がなければにわかには信じられないことだ。王宮に引きこもり、友達の一人も作ろうとしない彼が恋をするなんて。


 この先の未来で、シェリーと恋仲になったことを知ればアンジーもうんと驚くだろう。その時は彼女に言うつもりだ「言った通りだったでしょう?」と。


「お嬢様、イヤリングはこちらでいかがでしょう?」

「あら、素敵なアメジスト。わたくしの好きな宝石だわ」


 とくにこのアメジストはセドリックの瞳によく似ている気がする。


 推しの色をつけると、いつもよりも気合いが入るのは気のせいだろうか。前世の血が騒ぐからかもしれない。


「奥様がお嬢様にとくださった装飾品の一つですよ。お好きかと思って用意しました」

「まあ! そうなのね。お母様にあとでお礼を言わないと」


 ドレスや宝石の類いに関してはあまり興味がないため、アンジーに一任している。しかし、推しの色が入っているとなると話は別だ。このイヤリングは一軍入りにしようとミレイナは心に決めた。


 ミレイナは鏡の前でくるりと回って見る。


 白地を基調とし、爽やかな青を入れたドレスがふわりと広がった。舞踏会の華やかさに合わせてか、大胆に背中が開いていて少しだけスースーする。けれど、青の繊細なレースが艶やかな白の生地に映えて、どこもかしこも美しい。


 シェリーみたいなとびきりの美人が着れば、もっと映えたことだろう。けれど、今日はセドリックのオマケとしてあまり卑下するわけにはいかない。


「今日は練習の成果を見せてきてくださいね」

「ええ。ダンスに誘ってくれる殿方がいらっしゃるといいのだけれど」

「大丈夫です。必ず一人はいますから」


 アンジーの自信はどこからくるのだろうか。昔からミレイナのことを慕ってくれているせいか、ミレイナに対する評価が甘めなのだ。


 ミレイナは期待と緊張を胸に、王宮へと向かった。


 セドリックとは王子宮で待ち合わせて行くことになっている。セドリックのことだから、準備を既に終えて、暇潰しに本でも読んでいるかもしれない。


 正装でソファーに座り読書に明け暮れる姿を想像して、ミレイナは肩を揺らした。


 しかし、ミレイナが通されたのはいつもの部屋ではなく応接室だ。ここは最初に彼と出会った思い出の場所でもある。


『僕には教師など必要ない』とぴしゃりと言われた八年前が昨日のことのように思い出された。


 セドリックの侍従が応接室にやってくる。


「お待たせいたしました。殿下の準備が整いました」


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