表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

このダンジョンの定員は一人までらしい

作者: YOUJIN

怖い話感あります。

 

 ダンジョンは金になる。冒険者家業にある程度慣れてくると、効率良く金を稼ぐやり方を覚えるようになる。


 僕はハロルド、中級冒険者だ。




「いいダンジョンがある、この前よりも上等だ」




 僕はいつも通り、そのことを幼馴染のリーエに問うのだ。




「ええ、日の当たるところがいいんだけど。どこ?」




「ニーシの森、もう即席でメンバーは募っておいたから、準備しとけよ」




「冒険者にあこがれたあの日の少年はどこに行っちゃったの…」




 リーエは嘆くも、冒険者家業にある程度慣れてくると、新鮮さや風流はなくなるのだ。




「金があって困ることはないぞ?」




 俺は酒場で頭を抱える男を目くばせする。あんな風になと。




「まあ少し黒い噂があったりはするんだが、エリーナでも攻略できるくらいだからな」




「それ油断じゃない?」




「さあな、だが浮足立ってると痛い目に合うのは、どの依頼でもだ」






 ニーシの森、ここは冒険者の中でも初球の人間が集うところ。




「じゃあ改めまして、僕は基本的に前衛を。役割分担は酒場で話した通り」




 全員が意気揚々と返事する。


 冒険者の習わしで、メンバーを集めた者が音頭を取るというのがある。今回のリーダーは僕、ギルドの依頼報告は面倒だが、その分配当額は多い。


 そして僕がリーダーを務めるときは。




「絶対に油断しないように、確実に依頼をこなそう」




 その言葉にリーエは微笑みながら頷くのだ。


 ダンジョンに入っていく。構造はよくあるダンジョン、トラップもわかりやすい。




「前にコブリンが3匹、僕が盾で攻撃を弾くから、アーチャーは怯んだすきを狙え」




 あいよと、アーチャーは投射した。




「ハロルド!」




 リーエは奏杖でゴブリンの武器を飛ばす。




「OK」




 ゴブリンの首を切断する。


 他には…。




「全員やったぜ」




 ウォーリアーの男が、ゴブリンを大剣で切断した後だ。




「なあ、本当に財宝がそこら中に散らばってんのか?リーダー」




 アーチャーは嫌らしく笑うが、僕も少し自信がなくなっていく。




「話を聞く限りでは、一漁りで全員が数か月生活に困らないくらい見つかるとは言われている。仮に財宝が見つからなくても、結晶や鉱物、それに新ダンジョンだから、情報料なんかも貰える」




「にしては…」




「敵が弱すぎるよね?」




 リーエは最もな疑問をぶつけた。




「そうだな。まあリーエ、お前のヒールはいらないかもな」




「ねえ、報酬は山分けだよね?」




 リーエの目が泳ぐのを、全員で笑った。


 うん、今回のメンバーは雰囲気がいいな。




 引き続き、ダンジョンの深部へ足を進めた。モンスターとは偶発的な戦闘はあったもの、特に問題なく進めている。




「ねえ、あれダンジョンルームじゃない?」




「そうだな、よしじゃあ、一応足元に注意しろよ」




 ダンジョンルームは財宝が眠っている部屋を指す、他の部屋と違って特異な文様が刻まれているのだ。だがこれはあからさま過ぎるが…。




「本当に財宝だぜ」




 ウォーリアの男は感嘆の声を漏らす。


 結構な宝石類が無秩序に散らばっている。目分量だけでも、すぐ帰ってもいいレベルの品々。


 とりあえず、全員に指示を。




「じゃあ、俺は入口を見とくから、各自金品を詰め込んでくれ」




 もくもくと作業を開始していた。


 俺も参加したいが、報酬は山分けなので焦ることはない。リーダーがあんまり目ざといと良くないからな。




「ねえ、あなた背中に何か乗ってるわよ?」




 リーエは必死にそう叫んだ。あっちで何か問題が起きたのだ。


 走って向かう。




 全員がどうするべきか、手をこまねいている。


 部屋の隅からパラズキャンサー5匹が湧いている。うち一匹はウォーリアの背中に張り付いていた。




 危険な状態だ。




「おい!取ってくれ!」




「お、おうよ」




 ウォーリアの男の取り乱した声。アーチャーは背中に乗ったそれをナイフで引きはがした。




「うっ…」




 ウォーリアの男は痛みに悶えながら、膝をつく。胸のあたりを刺されたらしい。


 すぐにリーエが治療を試みるが、まずは周囲の安全に気を配るべきだ。




「パラズキャンサーは低レベルの麻痺毒しか持っていない。だからリーエ、治療は後だ。全員、速やかにサソリを片付けるぞ」




 ウォーリアの肩を取り、サソリから距離を取る。




「こいつで最後だ」




 サソリの頭蓋をつぶし、剣にこべりついた体液を払う。




「ダンジョンルームだからって、あんま気を抜くなよ」




「わりぃハロルド」




「ごめん、ハロルド」




「とりあえずリーエ、治療してやれ。俺は戻るからな」




「ねえ…この人死んでるわ…」




「は?」




 戻ろうとした足を止めた。ウォーリアーは自重を失い、大きな音を立てて倒れた。




「いやあり得ない、パラズキャンサーだぞ。初級の魔物で、毒なんて持ってないはずだぞ」




「でも現に死んでるじゃねえか」




 全員が黙った。


 あり得ないことだっておこる。


 そうだ、僕も冷静になろう。


 判断は間違ってはなかった。しかし、その判断が仲間を殺したのは事実。今やるべきなのは二人目を出さないこと。今回の音頭は僕だ、リーダーがしっかりしなくてはパーティーが瓦解する。




「ウォーリアは検死のために運び、サソリの毒も採取する。積み込みは前項2つを最優先にして、財宝は2の次だ。準備し次第、すぐ町に引き返すぞ。異論はないな?」




 冒険者家業にある程度慣れてくると、こうした不測の事態に陥った時に、歴然と対処出来るようになる。パーティーメンバーが死ぬなんて、駆け出しの頃以来だ。




 眩暈がする、何か次元を引き裂かれたような、そんな感覚。






「静かに…」






 アーチャーは聞き耳を立てる。


 小さいが、うめき声のような重低音がした。今いる部屋は個室、モンスターが雪崩れ込めば、確実に混戦になる。魔物との消耗戦タブー。冒険者は深手を負ったらそこで終わり、ヒーラーでも完全回復は無理だ。




「僕が様子を見てくる」




「いや俺が行く。アーチャーは足が軽いんだ」




「だったら、二人で行くぞ」




「リーエは?」




 アーチャーはそう促すが…なら、三人で行くしかないだろ。




「幼馴染なんだろ?お前が守ってやれよ」




 私情を持ち込むことは、パーティーの不信感を強める行為だ。しかし、僕はそれについてまともに反論できなかった。




「異変を感じたら、すぐに戻って来るんだぞ?」




「わかってるよ、ハロルド」




 アーチャーは僕を心配させまいと、そう笑いかけるのだ。


 彼は足音を立てずに、走っていった。






「ハロルド…」




「悪いなリーエ」




 結論から言えば、10分経っても戻ってこなかった。現状、ダンジョンルームで待機しているが、もうこれ以上ここに滞在するのは良くない。


 リーエは優しい女の子だ。本当は花を愛でるような性格なのに、何故冒険者という死と隣り合わせの職業を選んだのか。幼馴染の同郷として、嫌われても止めておくんだと、いまさら後悔する




「リーエ、必要最低限の荷物だけもってここを出る」




 仲間の死体と戦利品を放棄しろと言った。




「うん、わかった」




 リーエは、少し顔を曇らせながらも、声色を上げて返事した。




「これだけは持っておいてくれ。転移石だ。もし俺が死んだり、俺とはぐれたらこれを使って外に出てくれ。応援を呼べたらなお良しだ」




「でも…」




「大丈夫だ。俺も持ってる。何かあった時の保険くらいに考えてとけ。ない未来だ」




 もちろん、持ってなどいない。転移石など超高額なアイテム、僕の中ではせめてもの償いだ。






 ダンジョンルームから数えて、5分ほど歩いた。地図を取り出し右往左往する僕たち、まるで駆け出しの頃に戻ったように不安定な足取り。




「リーエ、しっかり地図はつけていたんだろう?」




「いつも通り」




 だとするなら…なんてことだ。




「ダンジョンの構造が変化している、恐らく魔術的な何かで」




 ーーそれに




 リーエの体を引き寄せ、壁の死角に潜伏する。




 爬虫類系の雑種、リザードガードナー、中級上位の魔物だ。最初には見なかったレベルの魔物がダンジョン内を闊歩している。




 リーエは小さな声で聞いてきた。




「私たち転移陣を踏んだ?」




 トラップダンジョンの最悪な事例でよく挙げられるのが、転移陣を踏んでからの高難易度ダンジョンへの転移。今の状況は、それにとても酷似している。しかし僕たちは転移陣を踏んでないだろ?




「それはあり得ない」




 僕はそこらへんに落ちてそうな石を拾い上げる。もちろんただの石じゃない、少し黒っぽいが赤色が付着している。




「僕が念のために、定期的に落としておいたマーカーの1個だ。役にたって良かったと思うべきなのかな。まあいいね、つまり今のダンジョンは最初に入ったダンジョンで間違いないわけだ」




「じゃあ、魔物のレベルが上がったのは?」




「さあ?僕たちのことが嫌いなんじゃないのか?」




 こんなときでも、いつもの皮肉癖が抜けない。でもそうじゃないか、最初は甘い顔をして、引き返せなくなったとたん牙を剥く。まるで意思さえ感じる。




「集中すべきは脱出だけ、地図をしまえ。もはや紙屑だ」




 その後、魔物との遭遇を極力回避し、リーエには上へのマナを辿ってもらう。現状出来ることはそれしかない。




 約一時間は歩いたか。来た道を何度も繰り返している。僕は方向感覚はいい方だ、幻術系の術中に嵌ったところか。


 リーエは既に体力的にも精神的にもガタがきている。




「そこの溝で休もう」




「…うん」




 元気がない、当たり前か。僕も緩めれば気が狂いそうだ。




「リーエ、本当に悪い。いや、申し訳ない」




「大丈夫だよ。大丈夫」




 リーエはこんなに強かったのか。




 あと俺は何でいきなり、弱音を吐いたんだ。音頭は誰の手だ?ふざけるな。




「リーエ、転移石を見せてくれ」




 リーエから転移石を手渡される瞬間に、彼女の手ごとそれを握った。


 魔法陣はしっかり繋がっている。恐らく不良はない。僕が先に使って逃げろと言っても、彼女は頑なに出ようとしないだろう。


 リーエが呆けているうちに、詠唱を…。




 後ろから、声がした。




「お二人さん、こんな時でも熱いねぇ?」




 顔色が悪いが、調子のいい声色の彼だ。




「アーチャー!大丈夫だったの!?」




「おう、何とかな」




 正直、こいつとの合流は諦めていたが。




「とりあえず、お前はどうやってここまで来たんだ?何回も同じ場所を行き来しただろ?」




「それで言っておきたいことがあるんだ」




 アーチャーはこう言った。この迷宮は角を曲がるごとにまた別の空間に繋がるという。これは薄々わかっていたことだが、アーチャーはこうも言った。


 このループには規則性があり、それを元に地図を書いたと。




「試していない道が1つあるんだ、多分そこがホールに繋がっている」




 アーチャーが増えたとて戦闘はしない。




「おい、アーチャー?背中どうした」




 背中一面血に染まっている。




「ああ、ちょっと無茶やらかして。バサッとな。すげえ上等なポーション使っちまったよ」




「いやそのレベルじゃ…リーエ、ヒールをかけてやれ。体組織はポーションじゃ癒えない」




 リーエは心配しながら、ヒールをかける。




「ああ、だいぶ楽になった。リーエ様様だね」




「ならいいんだが」




 歩いて数分、たどり着いた場所は螺旋階段。もちろん、僕たちがここまで深く潜ったとは考えにくいが、上は陽気が漏れているように思えた。




「登るしかないだろ」




 何があるかはわからないが、最近見た中で一番目新しい光景だ。


 ーー瞬間下から、唸るような慟哭がした。何かがいる、マナも大きく揺らいだ。


 アーチャーは黙って走って下っていく。




「おい、何してんだ?待て!」




 気が狂ったのか、それとも囮になったのか。




「リーエ、とりあえずあいつを置いてけない。…転移石を使って一足先に

 脱出してくれ…」




「いや!」




「リーダーの命令だ、何かあってからじゃ遅いんだ。詠唱は分かるな…

 ダンジョン前でまた会おう!」




「いやよ!ハロルド!」




 エゴなのはわかっている。だが選択を間違えるわけにはいかない…わかってくれ。


 リーエを置いて僕はアーチャーを走って追いかけたが、全く見つからない。一度俺は見捨てている、だから今回は…。


 下りに下って、ついに底にたどり着いてしまう。




 底にあったのは宝の山だ。正に龍の財宝と呼ぶに相応しい品々。




「何でここに来たんだ?」




 その前にアーチャーは呆然と突っ立っている。


 何でここに?いや勝手に行動したからだろ。




「いや、お前が勝手ーー」




「何で来たんだ?何で1人にしてしまったんだ」




 アーチャーは叫んだ、いや絶叫した。普通じゃないと思った。


 1人にしてしまった。それはアーチャーに対して言ったのか、それとも…。




 嫌な予感がする。心の底から心臓が警告を下す。


 財宝をよそに、先ほどの螺旋階段前へと向かう。


 床には砕け散った転移石の破片があった…


 螺旋階段を駆け上がる。


 そして最上階へ。




「リーエ!」




 このダンジョンに入ってすぐにあるホールだ。出口もあった。


 リーエの姿が…。


 瞼が熱い、なんだろう、まだだ、まだ決まったわけじゃ。




「ハロルド」




 リーエの白衣は胸のあたりは赤く染まっている。




「傷…」




 心臓がある場所だぞ。




「うん、かすった程度だから」




「そう、なのか」




 現に生きてるわけで、本人が大丈夫というなら大丈夫だろ…


 今も傷口からあふれ出る鮮血、治癒魔法を使わないこと、出口前にたたずんでいる事、壊れた転移石、浮かび上がる思考に解を結びつけぬよう、僕は考えることを放棄した。




「リーエ、大丈夫だったか」




 先ほどの豹変はどこへ、アーチャーは気さくだ。




「アーチャーさん、ご無事でしたか」




「うん、ちょっとお宝の気配がしてね。あの財宝は山分けだぞ?」




 さっきの宝の山の話だろうか?その割にはアーチャーは、何も袋を持ってないようにも見えるが。




「…すぐに遺体の回収を依頼した後に、このダンジョンについての記録を提出する」




「遺体?何で?」




「…ウォーリアが僕たちの目の前で死んだはずだ。その遺体を回収する」




「呼んだか?」




 大柄の男、ウォーリアその人が目の前に立っている。

 生きているはずがない




「…どういうことだ、ダンジョンルームで死んでたよな?いや息は止まっていた確認している」




「…まあ、財宝を手に入れたことを祝おうや」




 ウォーリアは俺に、チャリチャリといわせた布袋を渡した。恐らく、あの部屋で着服した物だ。


 言われるがまま押し当てられ袋を受け取る。




 全員が横一列になり、ダンジョンから外に出る。


 瞬間肩にかかった重さが消える。そして隣の気配も消える。

 生気はそもそもなかったのかもしれない。袋から財宝がこぼれ出る。


 虚しさ、空虚だけが心を埋めた。


 もう一度あのダンジョンに入るという考えは当に無くなっていた。




【報告書】




 ニーシ村の新しいダンジョンについて




 最初の段階では弱い魔物しか現れない。あるダンジョンルームに入った際に、不幸にもウォーリアの男が、パラズキャンサーに刺されてしまう。麻痺毒と思われたが、致死毒のような効果が表れ死亡。そこから眩暈を感じ、魔物の質が上級・中級になる仕掛け、そして幻惑系のループダンジョン特有の現象に遭遇する。この際、アーチャーと別行動を取った。行動はヒーラーと1時間くらいしたところでアーチャーと合流。そこから上層に上がるための螺旋階段を発見し、底には大量の金品財宝が眠っていた。螺旋階段の上には最初のホールがあり、ウォーリアの男と合流。死んだはずの人間だが、しっかりと会話が出来た。外に出ようしたときに、全員が隣にいたはずだが、影も残さず消えてしまった。とても奇怪な出来事だが、はぐれた時には死んでいたものと見られる。アンデットの類ではない、知能があり会話ができた。五感を麻痺させる魔術の線もある。




 ダンジョンの難易度は上級上位。高位の冒険者の協力を得られたい。間違って駆け出しの冒険者に無料開放しないように。今回持ち帰った財宝は全て寄付をする。




 ギルド酒場にて。




「あいつだよ。1人、財宝だけ持って逃げてきた男」




「だけど、報酬は全部寄付したらしいぞ」




「ああ、罪悪感が芽生えたとか?気持ち悪」




 何故生き残ったのか、わからない。何でこうなった、わからない。別に欲をかいたわけじゃない。

 わからない。わからない。わからない。わからない…………




「ああはなりたくないな」




 酒場のカウンターで一人。

 絶望の淵、頭を抱えていた



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ