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5話

「それで話ってのは?」


「カルラに鑑定して欲しいものがあるのよ。品質の良いゴーレムの核が必要でね。さっき買ってきたこれが品質的にどうなのかを教えて欲しいの」


 鞄から取り出したゴーレムの核をカルラに手渡すと、カルラは早速それを鑑定し始めた。


「んー、そこそこまぁまぁって所かな。ソフィアが買った市場では結構品質は高めかもね」


 私が買える所では高品質か…。ということはこれより品質が高い市場があるということ。そうなると思い当たるのは魔物の素材の取引が頻繁に行われてるであろう場所。つまり……


「冒険者ギルドならこれより高い品質のものがある?」


「断定は出来ないけど、これより良いものはある可能性の方が高いかな。あそこは素材の出入りが激しいから在庫切れの可能性もあるけど。私とかの職人が扱う素材も冒険者ギルドから卸してもらってるからね」


 冒険者ギルドとは、様々な国を跨いで活躍する冒険者たちが集う場所。彼らは国というものに縛られることなく自由に活動する傭兵みたいなものだ。

 安定した職業では無いため、定期的な収入も無く、その日暮らしの仕事をするものも多いが、中には強力な魔物と渡り合う冒険者も存在する。

 基本的には街の住民の依頼を、クエストという形で受けて収入を得ている彼らだが、魔物討伐なども積極的に行ってくれているため、魔物の素材も数多く取引されているのだ。

 カルラは、そんな冒険者ギルドなら私の目的のものがあると言っているわけだが


「まぁ、とりあえずこれで駄目なら冒険者ギルドにも寄ってみるよ。ありがとうカルラ」


 鑑定と相談のお礼を言うと、カルラは意味ありげに微笑みながら口を開く。


「さて、話はそれだけじゃないんでしょ?ソフィアが私に個人的にしたい話を聞かせてよ」


「話が早いね。実はそろそろ武器を新調しようと思ってるんだ」


「ソフィアが使ってるのはお父さんが作った片手剣だったよね。確か耐久性を追求したオーダーメイドのやつ」


 カルラの言う通り、私が使っていた武器はオーダーメイドの片手剣だ。とある事情により耐久性に重きを置いた特注品。

 それを使い始めてからは、念入りに手入れをしながら今まで扱い続けることが出来たのだけど、それもそろそろ限界を感じてきていた。

 森の調査でも問題なく使えていたけど……、感覚的に限界が近いのを感じていた。だからこそ、武器を新調しておきたいと思っていた。ちょうどこうしてカルラの元に立ち寄れる用事があったのは重畳だった。


「お父さんの剣はもう駄目になっちゃった?成長とかで使い勝手が変わったなら調整も出来るよ。って流石にソフィアならそれは分かってるか」


「うん、武器を新調するのは今後の事も考えてのことなんだ。ほら私って来年から魔法学園に入学するでしょう?そうなるとここに来る頻度も減っちゃうからさ。今までは、カルラのお父さんに定期的にメンテナンスとかもお願いしていたけど、これからはそうもいかない」


「なるほどね。確かにそれなら新調した方が良さそうだね。でも私でいいの?オーダーメイドならお父さんの方がソフィアに合うもの作れそうだけど」


 カルラは、今まで担当していた武器職人を変えてもいいのかと聞いてくる。実際、カルラのお父さんに任せたら今までと使い勝手の変わらない武器を作ってくれそうなのだが


「欲しいのが片手剣以外にもあるんだよね。それに関しては見てもらった方が早いかな。何か適当に片手剣を売ってくれない?」


「え、剣筋の癖くらいなら適当なの貸すから、わざわざ買わなくてもいいよ。それじゃあ試し斬りスペースに移動しよう。剣も持ってくるよ」


 そうして私たちは部屋から試し斬りスペースへと移動した。カルラは何故私が剣を買おうとしたのか疑問に思っていたけど、あえて説明しなかった。こればっかりは見てもらった方が早い。

 そして、カルラが一般的な片手剣を持ってきてくれて、それを受け取った。この試し斬りが出来るスペースには、専用の藁人形が置いてあるので、それに向けて剣を構える。


「それじゃあ今からこれを斬るから、ちゃんと見ててね」


「あれ……?いや、まぁいいや。いつでもいいよ」


 何か引っかかる点があったらしいが、それは置いといてカルラの合図と共に剣を振り抜く。振り抜いた剣は藁人形を綺麗に真っ二つに切断し、そのまま剣を構え直そうとするが……


「やっぱり駄目か。見ての通り私が耐久性を重視していたのはこれが理由」


 そう言って私は、振り抜いた後に刀身と柄の部分が粉々に砕けてしまった剣をカルラに見せた。


「比較的耐久性がある片手剣が見事に壊れているね。柄が壊れたのは握力で、刀身に関しては腕力が強すぎるのが問題だね。なるほど、ソフィアって馬鹿力だったんだ」


「馬鹿力はやめて」


「ごめんごめん、でもなるほどねぇ。確かにこれは耐久性が結構高くないとまともに使えやしないね。ちょっと確認したいことがあるから待ってて」


 カルラが砕けた剣を片付けて、またも店の奥へと行ってしまった。そして待つこと数分、カルラが新しい片手剣を持ってきた。それは店の商品棚にも無かった見たことの無い剣だった。

 この剣は、とカルラに聞くと


「これは私が昔作った失敗作。中々壊れない耐久性を持つ剣を作ろうとして失敗したやつなんだ。硬くしすぎたせいで片手剣の割に重量が凄くて、切れ味も悪いんだ。だけど、これならソフィアでも振れるんじゃないかなって思って、はい」


 カルラから渡されたその剣を受け取ると、とても心地の良い重量感を感じつつ、それを構える。

 確かに片手剣としては重量がありすぎる。大剣ほどでは無いけど、それくらいの重量がある。

 先程まで藁人形があった空間目掛けて再度剣を振り抜くと、今度は剣が壊れることが無かった。カルラが言う通り耐久性だけはピカイチのようだ。

 今の動作を見てカルラは不思議そうに、でも何かを確信した表情をしながら口を開く。


「やっぱり最初に感じた違和感は気の所為じゃなかったね。ねぇソフィアって、片手剣使うのそんなに得意じゃないでしょ?」


「さすがカルラ。私の期待以上よ」


 カルラには、私が耐久性の高い剣を使ってた理由以外にも気づいて欲しかった事があったのだが、きちんと気づいてくれて安心した。やっぱり私が期待した通りカルラは武器職人として腕利きだ。


「たぶん他の武器も得意じゃなさそう。というかソフィアって素手の方が強いんじゃない?あの握力とか腕力を見ると、わざと加減するために剣を使ってたりするのかな」


「そこまで分かるのね。そうよ、私って少し腕力が強すぎてね。昔、戦う術を教えてくれた師匠に、お前は剣を使って加減するくらいがちょうどいいって言われちゃってさ」


「いやいや、これは少し強いなんてレベルじゃないよ。これじゃあ魔物なんて木っ端微塵で素材とか取れないじゃん」


 実際カルラの言う通り、素手だと加減出来なくて木っ端微塵にしちゃうんだよね。それのせいで素材が採取出来なくて何度泣きを見た事か。


「なるほどね。それで、ソフィアは何を作って欲しいの?耐久性だけの武器が欲しいって訳でもないでしょ」


「カルラに頼みたいのは、私がどの武器を使っても壊れない篭手を作って欲しいの。構想は考えているんだけど実現出来るかを確認したいの」


「なるほどね、馬鹿力が発揮される手に細工することで、握力で武器が壊れる問題を解決する魂胆ってわけか。それで構想っていうのは、早く聞かせてよ」


 新しい武器を作れることに気分が高まっているのか、カルラはかなり食い気味に話を聞いてくれている。


「構想っていうのは、握力や腕力に制限を掛けられるような能力を持つデバフ効果を付与して欲しいんだ」


「うわぁ、それってもはや武器っていうより魔法武器ってレベルのものだね。確かに武器に様々なバフを付与するエンチャントは出来るけど、デバフ効果なんて聞いたことも想像したこともないよ」


「でも想像したこともない未知な武器、作ってみたくない?」


「勿論。作ってみたいに決まってる」


 食い気味に肯定するカルラは早速何か思い付いたのか、紙にメモを書き写している。


「ちなみに期限は?来年までなんて訳じゃないでしょ?」


「期限はそうね。3ヶ月でどうかしら。やれそう?」


「ソフィアのお眼鏡にかなうような物が出来るかは分からないけど試作品は問題無く作れると思う。完成したらどうすればいい?」


「それなら屋敷に私宛で送ってもらおうかな。使用感とかは手紙で書いて送ることにするわ。もし時間が合えば直接こっちに出向くようにする。それでいい?」


「おっけー。ソフィアお嬢様の専用武器の作成、この私カルラが謹んでお受けいたします。なんてね」


 急にそれっぽく了承の意を示したカルラのらしく無さに、お互い笑いながら話は纏まった。




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