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3話

 突如、目の前の黒猫が光り輝き、思わず目を細める。


「まぶしっ」


 やがて、光が収まったとき、目の前に先程の黒猫はおらず、代わりに綺麗な長めの黒髪の女がいた。歳は私と同じくらいだろうか。黒いドレスを着ているけど、一体何者だろう。

 敵意は感じないながらも、一応の警戒はするが、なんかそれもいらない気がする直感が働いている。


「んーーー、やっと戻れたぁ!私を戻してくれてありがとうねソフィア」


「私の事知ってみたいだけど、私はあなたのこと知らないんだけど」


「そりゃあ分からないでしょうね、これが初対面だもの。でも私のこと何となく分かってるんじゃない?」


 彼女の言う通り、何となくだが正体には勘づいている。

 先程名前を読み上げたエリン・ダート・ガルアイン。彼女がそのエリンなのではないかと。


「エリン・ダート・ガルアインであってるの?」


「正解。あなたのこと誘導出来て良かったわ。条件的に今日じゃないと戻ること難しかったから」


「でもあなた死んだはずじゃないの?」


「ちゃんと私の記憶の断片が見れてるようで何よりだわ。そう私はあの時死んだ。あなたが見た炎の槍で胸を貫かれるという最期を遂げた」


「だったら尚更何故ここに?蘇生魔法なんて聞いた事ないけど」


「なるほどね。そこまでは分かってないのか。1度死んだ私がここにいるのは転生したからよ」


 エリンがドヤ顔で理由を説明する。胸を張った弾みで胸がポヨンと動いているのが腹立たしい。この女私より胸デカイな。


「ちょっと、何か変なこと考えてない?」


「気の所為。それで転生ってあの生まれ変わるっていう転生であってるの?」


「そうよ」


「それなら余計に変じゃない。転生って普通赤ん坊からじゃないの」


 そう、このエリンは私と同じくらいの歳の姿で目の前にいるのだ。仮に転生だとしたら、それはそれでおかしい。


「それが転生に失敗したみたいなのよね」


「じゃあ今目の前にいるあなたは一体なんなの?」


「これは魔力で形を作っただけの仮の姿よ。あなたの魔力を使わせてもらったわ」


「えっ」


「にしてもあなた随分と魔力に恵まれてるのね。普通の魔法使いくらいなら、魔力がギリギリになるんだけど」


 私が魔力に恵まれている?初めて聞いた話だ。私に魔力があるのは知っているけど、恵まれてるなんて聞いたことがない。


「その顔、もしかして知らなかったの?」


「私魔法使えないから、あまりそういうの詳しくなくて」


「あぁ、なるほどね。確かにあなたは魔法が使えないわね」


「理由が分かるの?私含めて誰も分からなかったのに」


「まぁ天才魔法使いですから」


 またもやドヤ顔を披露するエリンの胸を今度は鷲掴みにした。ついでにモニョモニョと揉みしだく、力は強めに。


「ちょっ、いたっ、痛いからやめて!」


「わざとらしく胸を揺らして、私への当てつけか?」


「そんなこと思ってないってば!」


 涙目になりながら、痛みを訴えるエリンの顔を見て、溜飲を下げ、話の続きを視線で促す。

 エリンは胸を腕でガードしながら話を始める。


「ソフィアが魔法が使えない理由は単純よ。本来成長とともに発達していくはずの魔力器官が未発達なのよ。」


「魔力……器官?」


「そう。魔力を魔法に変換して放出するための器官なんだけどね。本来魔力を持った人は、身体の成長とともに魔力を魔法として身体の外部に放出するための器官も共に発達していくはずなの。だけどソフィアには、それが見られない。だから魔法が使えないの」


 魔力器官の話は初めて聞く話だった。私の、というか魔法使い全般としての常識でも、知り得ない情報で、私は困惑する。


「それなのにソフィアは、魔力を溜める容量がとても大きい。魔法が使えないのに、魔力容量は大きいなんてことは、流石に私も初めて見たけどね」


「もしその話が本当なら、その魔力器官を発達させることが出来れば魔法が使えるってこと?」


「うーん、多分無理かな。後から発達させようとしても結構歪な形で発達しそうだから、望んだ結果にはならないと思う。それをやるなら外付けで魔力器官みたいなのを付けた方良いかも」


「そうなんだ。まぁ……でも私にはいいかな。まだ魔法で困ったこと無いし」


「魔法使えないのに、魔法に対する憧れは無いんだ?ソフィアって案外変わってるのね」


「だって、大体の事は拳で何とかなるから」


「前言撤回。あなた相当変わってるわ」


 呆れた顔で変人認定するエリンにデコピンの構えを取ると、すぐさま額を抑えながら退いていく。

 一々反応が面白いな、エリンは。


「それで、エリンはなんで転生に失敗したのよ」


「ソフィアの自我と魂が強過ぎたから、と思う」


「どういうこと?」


「本来ならあなたの自我の芽生えの際に、私が目覚めるはずなのだけど、それがどうしてか目覚めなかった。私自身は既にあなたの中にいて眠り続けていたんだけど、ようやく目覚められそうだったから、出てきた訳。目覚めなかった理由はソフィアの自我が強過ぎて負けちゃったのかもと推測してるわ」


 推測ってことは、実際のところ原因は分かってないようなものでは、と突っ込むのはやめておこう。

 しかしそうなると、エリンは私が生まれた時には既に私の中に居たということか。それはそれで変な感覚がする。


「それで、エリンは何故今になって姿を現したの?私の中に居たなら体を乗っ取ることとか考えそうなものだけど」


「言ったでしょ自我が強過ぎるって。あなたのその身体に定着した魂の繋がりがあまりにも強固過ぎるのよ。今になって現れたのは、最近ようやく動けるようになって、今日が1番条件が良かったからってだけ。この満月の夜っていうのと、あなたが私の名前を口にする必要があったのよ」


「だから書庫に誘導したのね。というか最近動けるようになったってどういうことよ」


「んー、ソフィアの中から魔力を操る事が出来たってのが正しいかな。魔力の流れを暴走させて寝込んでもらったのよ」


「お前のせいか」


 まさか自分が倒れた原因がエリンだと思わず、更には自白までされたので、頬をつねる。これくらいしてもいいだろう、私は被害者だ。


「いひぁい」


「痛くしてるもの。それでエリンは何が目的なの。姿を現すなら何か目的があるんでしょ」


「さすが話が分かるね。私はソフィアにお願いしたいことがあるの。魔物から取れる高純度のマナ結晶が欲しい」


 この世界には魔物という、魔力から誕生するモンスター達がいる。その種類は様々で、新種の魔物を見ることすらザラにある。そしてその魔物は、体内にマナ結晶というものを持っており、研究ではこのマナ結晶が魔物を構成する核だと言われている。

 ただのマナ結晶ならそこらへんの弱い魔物からも取れるけど、エリンが口にした高純度のマナ結晶となると話は変わる。

 高純度のマナ結晶とは、危険度が高い魔物が取れるものだからだ。危険度にはばらつきはあれど、その1つ1つが国を脅かす災害レベルの強さを持っていると言われている。

 エリンはそんなものを要求してきているのだ。


「随分と無茶な要求ね。高純度のマナ結晶なんて市場にすら出回らないようなものよ。そもそもそんな魔物自体が見つかる事すら珍しいなのに」


「やっぱり難しいかぁ。なら多少純度低くてもいいからマナ結晶を用意できない?」


「なんでそんなマナ結晶に固執するの」


「私がまた実体化するために必要なのよ。高純度のマナ結晶ならずっと実体化出来るけど、それ以下だと一時的な実体化しか出来ないのよね」


 原理は分からないけど、エリンは実体化するためにマナ結晶を求めているようだ。

 これだけ聞くなら、多少用意してもいいと思うけど、問題は……

 エリンが実体化に固執する理由だ。実体化には条件がいると言ってたから、マナ結晶を使う事で条件を緩和して確実性を増やそうという考えかな…

 いや、そこじゃない。実体化してまで何をしようとしてるかが問題なんだ。


「エリン、君はそこまでして何をしようとしてるの?」


「それはまだ秘密。けど、ソフィアにばっかり損はさせないよ。そしてソフィアに害を及ばさないと約束する。そうだな、取引として私から提供するのは、魔法を使用出来る道具でどうだろう?」


 少なくともエリンは私に嘘は付いていない。エリンの目を見ればそれは分かるけど。

 さりげなく話題を逸らしてはいるけど、魔法が使える道具は多少気になりはする。

 たとえ、この拳で魔法を何とか出来るとはいえ、それでも自分の力の上限が上がるなら惹かれもするのもまた事実。


 さて、どう答えたものか……。






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