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2話

 私の話を聞いたお兄様が口を開いた。


「もしかしたらそれは天命かもしれないな」


「天命って…あの天命ですか?」


「お、天命を知っているのか。偉いぞ、その調子で是非他の勉学も励んでくれ」


「そ、それはまた後日、気が向いた時にでも…」


 あまり勉学が得意ではない私には耳が痛い話である。

 正直体を動かしている方が楽でしょうに合っているのだ


「もし仮に、ソフィアが見た夢が天命の類だとするならばそれに従った方がいいかもしれないな。天命というのは魔法使いでも起こる現象で、それを受けた魔法使い達は、皆何かしら変化を起こすパターンが多い」


「でも私には魔法は使えませんよ?」


「そうだな。ソフィアは魔法を扱う事は出来ない。だけど魔力は持っている」


「確かにそれはそうですが」


 魔力を持ってる者と持ってない者の違い。魔法を扱えるか否かの違いだけと思われるが、実はそれだけじゃない。

 魔力を持ってる人間は、身体そのものが成長とともに頑丈になっていく。これは魔力が作用して、身体が魔力に適応した身体に作り替えるのだろうと言われている。

 どれくらいの頑丈さかと言うと、低い威力の魔法じゃ傷がつかないくらいなのだけど


「まぁ私身体丈夫ですもんね」


「呆れるほどにな。大体魔力があるからといって丈夫になるのは、あくまで外的な攻撃からのはずなんだがな。ソフィアの場合は、中すら丈夫だ。」


「多少食材が傷んでいても平気ですからね」


「お前……いや、深く聞くのはやめておこう」


 お兄様が凄く渋い顔しながらも話を続ける。

 なんか余計なこと言ってしまった気がするけど、気にしないでおこう


「話を戻すが、ソフィアのそれが仮に天命だったとしたら、もしかしたら魔法が使う事が出来るものかもしれないぞ?」


「んー、使えたら便利そうですけど、あまり必要性感じませんね。魔法なんてパンチでどうにかなりますし」


「仮に手が使えなかったらどうするんだ」


「その時は足を使います」


「足も使えなかったら?」


「頭突きです」


「お前なぁ……」


 こめかみに手を当てて更に渋い顔をするお兄様。

 確かにこの反応は仕方ないのかもしれないけど、実際のところ今までそれで何とかなってたから、必要性を感じないのは本当なんだけど


「まぁいい。とりあえず天命かどうかは自ずと分かるだろう。まずは書庫に行って確かめるといいさ」


「そうですね。まずは確かめてからですね」


「そろそろ俺は退出するよ。とりあえず出来るだけ、せめてまた倒れないくらいには安静にしておくんだぞ」


「はーい」


「たぶん安静にしなかったら母さんが怒るぞ。本気で」


「………はーい」


 流石にお母様に本気で怒られるのは嫌だな。よし、なるべく安静には努めよう。

 お兄様が部屋を出たのと入れ違いになる形で、イリアがやってきた。

 どうやら書庫の鍵を持ってきてくれたらしい。


「お嬢様、こちら預かって参りました」


「ありがとうイリア。早くて助かるわ。早速書庫に行くとしますか」


「私も同伴します」


「えぇ、お願い。お父様に言われたのでしょう?」


「はい。お嬢様を監視しろと」


「信用無いわね私」


 そしてイリアとともにお父様の書庫へと訪れたのは良いのだが問題が発生した。

 あまりにも資料が多すぎるのだ。


「これは目的のものを探すのに苦労しそうね」


「お嬢様は具体的には何をお探しなのですか?」


「うーん、なんだったかな。確か……あっ、これかな」


「戦争記録書ですか?」


「うん。特に名のある魔法使いが絡んだ戦争について見たくて」


「それでしたらそちらではなくこちらの方がいいかと」


 そう言ってイリアが手渡してくれたのは戦争記録書の中でも周辺諸国のものについて記載されてるものだった。

 どうやら私が選んだのはこの国の戦争記録書であって、目的のものでは無かったようだ。

 こういう時、優秀な侍女がいると捗るものだと実感する。


「ありがとう。早速読むとしますか」


「結局お嬢様は何をお探しなのですか?」


「具体的には分からないんだ。たぶん知名度があって、戦争に参加していたであろう魔法使いを探してるんだけど。あ、そうそうエリンって名前」


「他になにか特徴はありますか?」


「性別は女ってくらいかな。あっ、あと歳が若かったかな。ごめん、それくらいしか分からないの」


「分かりました。私の方でもいくつか探してみます」


 どうやらイリアも手伝ってくれるらしい。私の侍女は優秀だなぁ。

 さて、とりあえず読み進めてみますか。



 ーーー


「ぜんっぜん分からない」


「意外と見つからないものですね」


 記録書を読み始めてから、はや3時間。集中力の限界が来てしまい、一旦休憩を挟みながらイリアと進捗確認をするが、私もイリアも何も見つけられていない。


「お嬢様、本当に名前はエリンで合ってるのですか?」


「多分間違いないと思うけど、確証もないのよね」


「とりあえず今日は一旦切り上げましょう。外を見てください。そろそろ夕食の準備が始まる頃ですよ」


「えっ、もうそんな時間?」


「それにお嬢様は病み上がりの身なんですから、あまり起き抜け初日から無理はなさらないでください」


「それもそうだよね。分かった、今日は切り上げよう」


「そうしてください。本日の夕食に関しては後でお嬢様の部屋に運びますので、お嬢様はお部屋にお戻りください」


 イリアにそう言われ、私は素直に部屋に戻ることにした。部屋に戻るまでイリアも付いてきていたので、未だ私は脱走すると思われてるらしい。

 その後は、部屋の中で固まった筋肉を伸ばすストレッチをしながら夕食までの時間を潰した。

 夕食の後は湯浴みをし、そのまま就寝という流れになったのだが


「なんか目が冴えて眠れない」


 時間としては、月が真上に差し掛かる前くらいの真夜中。私は綺麗に輝く満月を眺めていた。



 屋敷の屋根上で


「んー、風が気持ちいい」


 まだ夜にしては寒くはない風を感じながら月を眺める。こうして満月をゆっくり眺めるのは久しぶりかもしれない。

 これだけの明るさだと、眠るのにもう少し掛かりそうだな、そう思った時、屋根の縁に黒い影が動いたのが視界の端に映った。


「なんだろ、敵意感じないから侵入者ではなさそうだけど。気配が無いから人か動物かも分からないや」


 確認してみようと、屋根の縁の方、黒い影が動いた先の方を見ると


「猫?」


 そこには黒猫がいた。顔を出した私を蒼色の綺麗な瞳で見つめている。


「猫ちゃん、こんなとこに居たら危ないよ」


 たぶんここに他の誰かが居たら、お前が言うなと突っ込まれただろうと思いながら、黒猫を捕まえようとする。

 しかし黒猫は、捕まることはなく、屋根から飛び降りて逃げられてしまった。

 慌てて地上を確認するが、黒猫の姿はどこにもなかった。


「怪我はしたように見えないけど、どこに逃げたんだろ?逃げるにしては姿消すの早すぎな気がするけど」


 周囲を見渡して、黒猫の気配を探るがどこにもいない。しかし、ひとつ違和感を感じる場所があった。


「あれ、あの部屋少し窓空いてる」


 そこはちょうど書庫のある部屋だった。イリアと退室する時にきちんと窓は閉めていたはずだけど

 気になって、屋根上から窓の隙間に入り込むように書庫へと足を踏み入れた。


「あ、猫ちゃん」


 書庫の机の上には、先程逃げた黒猫がいた。よくもまぁ屋根上からこの部屋に入り込めたものだと感心してしまった。

 これも誰かに突っ込まれそうな事だけど

 そこで、黒猫が本の上に座っている事に気づく。しかも本が開かれている。

 そして何故か黒猫が私を見つめてくる。なんか照れるな……、いやそうじゃない。

 何故片付けたはずの本が机の上に?それにこの黒猫の視線。まるで本を読めと言ってるような


「あれ、これって」


 とりあえず黒猫ちゃんが座っているページを見てみると、そこには私が探していたエリンという魔法使いの名前があった。

 エリンの名前をなぞりながら読み上げる。


「エリン・ダート・ガルアイン……」


 その名前を口にした瞬間、目の前にいた黒猫が光り輝いた。


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