1話
初投稿で拙い身ですが、温かい目で見てください。
私ことソフィア・レイル・アルバートは公爵令嬢である。
私は周囲から脳筋令嬢なんて呼ばれている。何故そのように呼ばれているかは、我が家の特徴にある。
アルバート家は代々優秀な魔法使いを輩出する特徴を持っており、ここにいる両親と兄も例に漏れず優秀な魔法使いとして名を響かせている。
そんな家族の中で、唯一私だけが魔法使いになれなかった。
生まれた時に魔法使いとしての才である魔力量を測定する魔道具で鑑定を行った時は、確かにアルバート家に恥じない魔力量が確認されたのだが。
私にはそれを扱う才能が皆無だった。
両親や兄に手解きを受けながら何度も何度も魔法を繰り出す練習をしていた。だけどダメだった。今の今まで魔法を扱えた事は1度もないのだ。
結果として私は、魔法を使う事を諦めて身体を鍛える事にしたのだ。これが脳筋令嬢と呼ばれる原因だったと思う。
別段公爵令嬢としては、魔法を扱えなくても知力等があれば貴族として生きていく事に問題はない。問題あるのは私のプライドである。
優秀な家族を見ながら育ってきた私は、幼少期から家族の優秀さに憧れ、自分もそうなりたいと願っていた。
その気持ちは今でも陰ること無く健在であり、それ故に普通の令嬢としての人生は選択出来なかった。
せめて魔法を使えないなら使えないなりに強くなりたい、そう思ったのだ。
それからの行動は我ながら早かった。父に頼み込んで、父の知り合いである後に師匠と呼ぶようになる人物から戦う術を教わった。師匠から筋が良いと評価されるほどには様々な事を吸収していった。時には師匠と一緒に近隣に生息している魔物を討伐したりもしていた。師匠と一緒に居た時は人生で1番楽しかった。時に苦しい事も悲しい事もあったけど、それら全ては私の経験という名の財産となった。
まぁ、結果として脳筋令嬢なんて不名誉な呼び名が付いた訳だけど。しかし、この呼び名だけはどうにも受け入れられなかった。
お前には魔法を使うのが不可能だと言われているようで。とても悔しかった。
エリンと出会うまでは、そう思っていたのだ。
ーーー
目が覚めた時、私は酷い汗を書いていた。
何か酷く嫌な夢を見た気がする。しかし最後に見たであろう死の感触が鮮明に残り、思わず自分の胸に手を当てる。
「うん、大丈夫。私は生きてる」
寄りにもよって自分が死ぬ夢を見るなんて最悪だ。あれ、でも死んだのは私だったっけ。
あまりにも最後の瞬間が鮮明に記憶に残り過ぎて、他の要素が思い出せない。この感覚は間違いなく夢であるということを表してる。
ふと目線を横に向けると、そこには心配そうな顔をした私の侍女イリアがいた。
「ソフィアお嬢様お目覚めになったのですね!今お医者様をお呼びしますね!」
そう、私はアルバート家の令嬢ソフィア・レイル・アルバート。何故だか自分の名前を呼ばれた際に違和感を覚えたのを不思議に思うが、徐々に自分が置かれている状況を思い出す。
「確かお兄様と盗賊退治をしていたような。あれ、盗賊全員を捕まえたのは覚えてるけど、それからの記憶が無いなぁ」
「それはソフィアが突然高熱で倒れたからだよ」
「あれお父様、いつの間に。それより私が高熱を出したのですか?」
知らぬ間に私の傍に居たのは父ロイド・レイル・アルバート。このアルバート家を纏めあげる当主であり公爵である。
イリアがお医者様と一緒に声を掛けていたようで、先にテレポートを使ってここに来たらしい。そう時間も掛からないうちに私の部屋には一家全員が揃うことになった。みんなが酷く心配そうな顔で私を見ている。その理由にも察しがつく。というか私が一番驚いている。
「本当に驚いたわ。ソフィアが高熱なんて初めての事だったから。とても心配したのよ」
お父様の隣にいるのは私の母アリア。この家族の中で唯一私と同じ桃色の髪色をした母は、私を大層可愛がってくれていたので、一番心配していそうなのだが、なんだか上機嫌な笑みを浮かべている。心做しか肌ツヤが良い気がする
「お母様。なんだか顔がツヤツヤしてませんか?」
「あら分かる?今までソフィアに母親らしい事した事少なかったから、看病出来て嬉しかったのよ。とりあえず体調はどう?」
「まだ倦怠感がありますが、体は問題無く動きます」
手を開いたり閉じたり腕を動かしたりして問題無いことを伝えると、母の後ろにいた少し背の高い私の兄レナードがくつくつと笑い声を漏らしている。
「相変わらずお前は令嬢らしくない事を言うなぁ」
「お生憎ですが、私は脳筋令嬢なんて呼ばれていますので。私に普通の令嬢のような事を期待しても無駄ですよ」
「分かっているよ。この家で唯一身体が丈夫すぎるお前が寝込んでいる姿は中々に新鮮だったよ。とにかく無事で何よりだ」
私もそこに驚いていた。普段から体を鍛えていて体調管理も徹底して行っていたため、今まで風邪なんて引いたことすらなかったのに。
お医者様からいくつかの問診を受けながら体調に問題無いことを確認され、1週間は安静にと言われる。
「1週間ですか、長いですね」
「あのねソフィア、普通なら2週間は安静にするものなのよ?」
「分かっておりますお母様。しかし体が鈍ってしまいそうで」
心配なのは1週間も寝てたら体が鈍ってしまう事だ。なんなら今すぐにでも動きたいのだけど、魔法使い3人の目の前でそんな暴挙はしない。直ぐに拘束されそうだ。
「リハビリとして軽く動いた方がいいかとは思います。ただしお嬢様の場合ですと動き過ぎるのには細心の注意が必要かと」
お医者様の言葉にこの場に居る皆が納得したような表情を浮かべる。どうやら私は家族からの信用が無いらしい。
「分かりましたよ。休みますからそんな顔しないでください。とりあえず1週間は大人しくしてますから」
「本当にソフィアが大人しく出来るのかしら」
「大丈夫ですよ奥様。私がしっかり監視しておきますので」
イリアが自信満々に宣言するが、実の所イリアの監視を潜り抜ける事は簡単なのだけど……。
ふと、さっき見ていた夢を断片的にだけど思い出す。確かあの夢の主はなんという名前だったか。
確かエリンと呼ばれていたような気がする。少し調べてみようかな。なんだか酷く心がざわついてくる。
「お父様、お願いがあるのですが」
「改まってどうしたんだい?ちなみに安静から外れるような事は聞けないよ」
「お父様の書庫、それも周辺諸国の歴史について詳しく記載された蔵書を見させてもらうことは出来ませんか?」
私の言葉にお父様が目を細める。おそらく私の意図を考えているのだろう。
何せこのようなお願いをしたのは初めてだから。私が今まで読んだ本なんて戦闘に関する指南書とかそういったのしかない。
「何故、と聞いてもいいかい?急に勉学に励む気になった訳でもないのだろう」
「少し調べたいことがありまして」
「ふむ。分かった、許可しよう」
特に詮索されることは無かったけど、少し怪しまれたかな。特にレナード兄様は相当訝しげな顔をしている。これは後で個別に追求されるパターンかな。
「そういえば盗賊退治の件はどうなったのですか?確か盗賊全員の身柄は確保したけど、肝心の目標自体は見付けられなかったですよね」
「それについては未だに見つかっていない。調査隊を増員して対応はしているが、場所が悪くて時間が掛かっている」
レナード兄様の気を逸らす為に、盗賊退治の状況を確認する。この盗賊退治には、盗賊を捕縛以外にもう1つの目的があったのだが、それはまだ達成出来てないらしい。
「全く、厄介なものを持ち込んでくれたものだ。よりによって魔淀の森になどに」
「あそこは魔力が淀み過ぎているせいか魔法の構築が上手くいかないもの。私達全員が探知魔法を使用しても魔の森にあるとしか……。いえ居場所が判明しているだけまだマシかもしれないわね」
「今はソフィアが無事だっただけで良かっただろう。少なくとも領地に被害を出していた盗賊の問題は無くなったのだから」
お父様が私の頭を撫でながら、無事であった事を喜んでくれている。お母様も、そうね、と言いながら同じく頭を撫で始める。なんだか照れくさい…。
「さて、ソフィアの無事も確認出来たし、私は執務に戻るとしよう。書庫の鍵については後ほどイリアに渡しておこう。起き抜けに押し掛けて悪かったねソフィア。ちゃんと安静にするんだぞ」
「なら私も手伝うわ。ソフィア、ちゃんと静養してるのよ?」
「善処しま……痛っ!」
少し誤魔化した返事をしようとしたらお母様からデコピンをされてしまった。たぶん指に魔力込めてたから地味に痛い。額を擦りながら、冗談ですとだけ言うとお母様も納得したようで、お父様と一緒に部屋を後にした。それと同時にお医者様も退室していき、部屋には私とイリアとレナード兄様が残る形となった。
「さて、父さん達も居なくなった事だし、話の続きでもしようか。まずソフィア、お前どこまで覚えている?」
「盗賊全員を捕縛した所までハッキリと。その後からがぼやけてます」
「ふむ、おおよその事は覚えているようだな。ならその続きから説明しよう。まず俺たちは当初の目的の一つである盗賊達の捕縛は成功。その後盗賊達の身柄を兵士に引き渡し、最優先目標だった魔物を引き寄せる魔道具の捜索のために、俺たちは魔淀の森へと調査隊を引き連れて行ったのは覚えているか?」
「はい、話を聞きながら徐々にハッキリと思い出してきました」
「よろしい。それで魔淀の森へ入る直前でソフィアが倒れたんだ。何の兆候も無く突然倒れたから相当驚いたぞ。ソフィアには心当たりはあったか?」
「いいえ全然全く」
思い出した記憶の中では、私はピンピンしていたはずだ。それこそ意気揚々と森へと行こうとしていた程なのだけど。
お兄様が後から聞いた話では、原因不明の風邪と診断されていたみたいで、その診断結果にはお兄様も納得はしていないらしい。何でもうちの愚妹が風邪をひくわけが無いと
「そうか。まぁこの件については追々調べるとしよう」
「何もそこまで必死に考えなくても良いのでは?」
「それもそうなんだがな。急に妹に倒れられた兄の気持ちにもなってくれ」
「お兄様が珍しくお優しい…」
「中々余裕そうだな」
「そうですね。少なくとも今は早く動きたい気分です」
「ソフィアはそういう奴だったな。ところでさっきの書庫については何だったんだ?ソフィアが今更そういった学問だとかに興味があるようには見えないが」
やっぱり追求されたか。と言っても、夢の中の記憶を確かめたいなんて言って、信じてもらえるだろうか。
しかし、後々詮索されるのもそれはそれで面倒臭いことになりそうだ。うん、馬鹿正直に言っておこう。
「夢を見たんです」
「夢?ソフィアを動かす程のそれはなんだったんだい?」
「私じゃない誰かが死ぬ夢です。炎の槍で胸を貫かれて死んでいく、そんな夢でした。けど、何故か現実味があったというか。まるで、自分が本当にそんな経験したんじゃないかという感覚がしたんです」
「ふむ。しかしそれなら周辺諸国の情報は必要無いんじゃないのか?」
「夢の中の人物の名前を覚えているような気がするんです。まるで導かれるように調べろと言われてるような」
私の話を聞いたお兄様が顎に手を当てて考え事をしている。何か思い当たることでもあるのだろうか?