第十七話
「ん~‼美味しい‼」
スフレパンケーキの美味しさに頬が緩み、言葉が自然と口から出てしまう。
私だけでなく、クララ、マルグリット様、ナタリーさんも同じで、三人共美味しさに頬を緩ませている。
「やっぱり、オバちゃんたち良い腕しているわ」
「ここまで美味しいパンケーキは、私も初めてです」
「ほんとに美味しい。…………これ、私でも作れるかな」
ナタリーさんがスフレパンケーキを見ながら考え込んでいるので、一体どうしたのかと聞いてみる。
「ナタリーさん?」
「あ、え~と。……弟や妹にも、これを食べさせてあげたいなと思って」
ナタリーさんの弟妹に対する思いに、私たち三人の心がジーンとする。
私たちは、ナタリーさんからコーベット男爵家や男爵領について、色々と話を聞いている。
ナタリーさんのご実家があるコーベット男爵領は、非常に自然が豊かな領地。畜産をメインにしていて、中でも酪農に力を入れている。
そんなコーベット男爵領で作られている牛乳やチーズなどの畜産物は、非常に美味なものばかり。だけど、その事を知っているのは、男爵領を訪れた者か旅の商人くらい。
何故私がそれを知っているのかというと、実際に口にした事が何度もあるから。
私が食の発展に取り掛かろうとした時、こだわったのはやっぱり品質。公爵家のお金と権力を上手く使って、アイオリス王国内の様々な領地から、色々な食材を取り寄せてもらった。
その時にコーベット男爵領のものを気に入って、最終選考まで残したのだけれど、結局諦めたという経緯がある。
諦めざるを得なかった最大の理由は、輸送に掛かる時間。
コーベット男爵領は、王都から結構な距離がある。だから、王都に輸送するのに時間がかかるし、その間に鮮度が落ちていく。その事がどうしてもネックとなってしまい、選考から外さざるを得なかった。
この事をナタリーさんに話した時、驚いた後に泣かれてしまった。あの時は焦ったし、ナタリーさんから嬉しさから泣いてしまったと教えてもらえるまで、どうしたものかとオロオロとしていた。
「作り方なら私もクララも知ってるから、今度の休みにナタリーさんの部屋に遊びにいった時に教えてあげる」
私がそう言うと、クララも「それいいわね」と笑みを浮かべる。
「その時は、私もご一緒してもよろしいですか?」
「「勿論‼」」
楽しみな様子で言うマルグリット様に、私とクララは当然だと答える。
「イザベラ様もマルグリット様も、ご予定があるのでは……」
ナタリーさんが本当にいいのですか?と聞いてきたので、私たちは友達なのだから遠慮しなくていいと伝える。
「友達の部屋に遊びに行くのも、私にとっては立派な予定よ」
「その通り!!」
私とクララの言葉に、マルグリット様も微笑みながら続く。
「私もお二人と同じよ。……それにしても、お友達の部屋に遊びに行くなんていつぶりかしら。とても楽しみだわ」
「……分かりました。精一杯のおもてなしをさせていただきます‼」
鼻息を荒くしながら、両拳を握って意気込むナタリーさん。
そんなナタリーさんが可愛らしくて、私たち三人はニコニコと微笑んでしまう。
だけど、そんな和やかで微笑ましい空間が、一人の人物によってぶち壊されてしまった。
「あら、そこにいらっしゃるのはお姉さまではなくて?」
スフレパンケーキを楽しむ私たちに話しかけてきたのは、今魔法学院を騒がせている中心人物の一人であり、マルグリット様の一つ下の妹さんであるローラ・ベルナールだった。
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