第十六話
クララと楽しく喋りながら歩き続けて四、五分ほど、私たちは食堂に到着した。
周囲を軽く見渡して見るが、マルグリット様とナタリーさんの二人は、まだ食堂に到着していないみたい。
「二人はまだ来てないみたい」
「それなら、この辺で待っててあげますか」
「そうね」
私たちは、食堂の入り口横で邪魔にならないように並んで立ち、マルグリット様とナタリーさんが到着するのを待つ事にした。
そんな私たちをチラチラと見ながら、平民の生徒たちが食堂の中に入っていく。
これでも、平民の生徒たちも慣れてきてくれた方だ。入学当初の頃は、今よりももっと酷かった。
だが、それも仕方のない事。貴族が、しかも公爵家の娘が一階の食堂を使うなんて、平民の生徒は誰も想像できなかっただろうから。
魔法学院に入学して直ぐの頃には、私にも取り巻きと言われるご令嬢たちが群がってきた。
侯爵家のご令嬢や伯爵家のご令嬢などが、公爵家の権力を利用して甘い蜜を啜ろうと、私に積極的に関わろうとしてきた。
でも、そんな令嬢たちは私の魂に刻まれている庶民暮らしについてくる事が出来ず、一人、また一人と離れていった。そして、私の取り巻きになる事を諦めた最後の一人がいなくなった数日後に、前世の親友だったクララと運命の再会をした。
入学してからの色々な事を思い出していると、マルグリット様とナタリーさんが仲良く談笑しながら、食堂に近づいてくるのが見える。二人は食堂の入り口横で待つ私たちを見つけると、少し申し訳なさそうな顔をしながら、早足でこちらに近づいてくる。
「ごめんなさい、お待たせしてしまいましたか?」
「お待たせして申し訳ありません」
マルグリット様とナタリーさんが、申し訳なそうに謝罪してくる。
そんな二人に、私もクララも笑みを浮かべて、全然問題ないと伝える。
「大丈夫よ。こうして友達を待つのも、楽しい時間の一つだもの」
「そうよ。こんな事でグチグチ言うほど、私たちは心が狭くないもの」
「「ありがとう」」
私とクララの言葉に、マルグリット嬢とナタリーさんが安堵し、笑みを浮かべてくれる。
「じゃあ、四人揃った事だし行きましょうか。――魅惑のスイーツの世界に」
「「「魅惑のスイーツの世界に」」」
私たち四人は心を一つにして、食堂内へと足を進めていく。
私とクララで手分けして二人に接触し、仲を深めていって分かったのが、二人とも女性らしくスイーツが好きだという事。
初めて四人で顔を合わせをした時も、まずは雰囲気を和ませようとスイーツの話題を振った所、思いのほか会話が盛り上がり、一気に私たち四人の仲が深まった。今ではマルグリット様ともナタリーさんとも、親友と言っていいほど仲良しになった。
そんな私に、食堂のオバちゃんが教えてくれた今日のおすすめスイーツは、イチゴソースがたっぷりかかったパンケーキ‼しかも、スフレのパンケーキ‼
朝一番に食堂に寄った時、オバちゃんからこの事を教えてもらった私は当然大歓喜。すぐさまこの情報を三人に伝えると、当然三人も大歓喜。お互いに昼まで乗り切りましょうと固く握手を交わし、この時を待ちわびながら勉学に勤しんだ。
「ついに、この時が」
私がそう言うと、マルグリット様、ナタリーさん、クララが続いていく。
「ふわふわです」
「もちもちですね」
「いい匂い」
現在、私たち四人の目の前で、ふわふわもちもちのスフレパンケーキが輝いている。
そんなスフレパンケーキ君たちは、ふるふるとその身体を揺らして、私たちを食べてと誘惑してくる。
私たち四人は、一瞬でその誘惑に負けた。スフレパンケーキ君の身体を小さく切り分け、ゆっくりと丁寧に口へと運び、パクリと口を閉じた。
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