春を観ること
映画館のある街が良いのです
私はついぞ、希望を本気で通すことはなかった
おかげでよくも、電車で三十分も揺られている
知らない映画を、気まぐれで観るのが好きだった
車窓よりも好きだった
眠気はいつもこの時に来る
雪解け水の、さらに凍った道の、気持ち悪い
あからさまに濁った氷
春になって見えないけれど、
あの澱みは消えていない、たぶん
眠気はいつも、この時だ
スクリーンの中に世界をのぞいて、
これはたぶん冬眠、もう春だけれど、
きっと澄んでいる何かに逢いにいける、
と、信じている
うたた寝の時間
車窓は澱んでいますがね