過ち①
――ヘラルド・ダイナル王太子――
「ヘリーっ! 会いたかった……!」
天災と病が発症したころ、エミリアはヘラルドに泣きついた。
「リイナさんを追放してから、こんなことになって……あたし……」
降りしきる雨を見つめながら、エミリアはヘラルドの胸に身を預ける。
「力も使えなくなってしまって、病に倒れた人も癒してあげられないの……。ルイも、ダントも……あたし、本当に申し訳なくて……」
エミリアは、リイナの刑罰が衝撃的だったようで、あれ以来癒しの力が使えなくなってしまった。
最初は心優しい真の聖女と皆案じていたが、天候が荒れ、病が流行りだすと聖女としてのエミリアの責任と義務を問う声が大きくなった。
多くの死者が出る中、力が使えないエミリアに非難の声が集まる。エミリアの耳に入らないよう配慮はしていたが、人の口に戸は立てられない。もう彼女の耳にも届いているのであろう。
「……リイナさんを、王都に戻すことはできませんか?」
ヘラルドはエミリアの訴えに静かに頷いた。
ヘラルド自身、リイナの追放を後悔し、行方を案じていたからだ。
「リイナさんが戻っても天候が戻らなかったら、変なウワサもなくなるでしょ……? でもああ……! もし、リイナさんが戻ってきて天候が落ち着いたら……今度はあたしが偽物と言われてしまうのかしら……」
エミリアは手で顔を覆い、泣きながら震えていた。
「大丈夫だエミリア。リイナは私がなんとかする……」
ヘラルドは追放されたリイナを内密に追わせることにした。
しかし、リイナを追うよう命じられた騎士たちは、誰ひとり無事に戻っては来なかった。
最初に送った騎士は王都を出て、すぐ川の氾濫に巻き込まれた。次に送った騎士は、病を発症し倒れ、三度目の騎士は賊と出会し相討ちとなった。四度目の騎士は、音信不通になった。
リイナの刑罰で任務についていた多くの優秀な騎士たちは病に倒れ、相次ぐリイナの捜索の命でその数をまた減らした。
幾度となく騎士を派遣し、半ば諦めたところに、「リイナ・パルテド元公爵令嬢の追放の命」を受けた兵士たちが、王都に戻ってきたという知らせを受けた。
正確には、兵士たちが利用した馬車が王都で確認されたのだ。乗り手の姿はどこにも見当たらなかった。
調べれば兵士たちは元は冒険者で、国王の命令で追放の任を受けたとある。
そんな男たちが、報酬を受け取る前に逃げたとは思えない。
暫くすると、街外れの療養所で三人の冒険者らしき男の死体があることが報告に上がった。
身分証から、聖女追放の依頼を受けた冒険者たちであることはすぐにわかった。
何より異質だったのは、彼らは最近症状を発症して療養所に来たばかりだという。
療養所に入ってすぐ、症状が瞬く間に悪化し、間をおかず十度の激痛を背に味わい死に至ったと言う。
事情を知るものたちは恐ろしい天罰が下ったと騒いでいたが、ヘラルドからすればそれは温情のように感じた。
苦しむ時間が、誰よりも短かったのだ。
この疫病は、リイナの刑罰を見たものに発症する。疫病により多くの者の命が失われた。刑罰を見ていたものの多くがこの世を去った。死者には女性や小さな子供が多く含まれているが、男はまだ大半が生きている。長く長く、苦しんでいるのだ。
側近の宰相子息ルイと騎士団長息子ダントに至っては、かなり早い段階でその症状が現れている。しかも、彼らの症状は他に見ないほど異質なまでに重い。
ろくに食べ物を食べることもできず、息をすることもままならない状態で、もう既に三ヶ月が経とうとしている。
背中に襲う激痛が余命の宣告になるというが、彼らが感じた痛みは何度だろうか。
回数ではなく、耐えず止むことなく痛みを感じ続けていると聞く。
そうして先日、父ダイナル国王とダイナル国王妃も同じ病状にて伏した。
あの刑罰を見て無事だったのは、ヘラルドと、もう一人……
「エミリア……」
ヘラルドは報告書を握る手に力を入れる。
そこには、一人の技術者の作った魔道具が使えなくなったとの報告があった。
灯りを灯す魔道具を作れる、光の力を持った魔導技師。
報告書には、その魔導技師が長年回復を促す効果のある装備品の開発に携わっていたとある。
そして、数十年前からその魔道技師を支援していたのが、ドーパン男爵家であった。
技師に流れていた金額は、記載されている額だけでも相当な金額である。男爵家がただのお抱え魔道技師に渡す金額としては、あまりにも不自然なほどに。
「回復を、促す……」
幾度となく見たエミリアの癒しの光。
その力を使う彼女の腕には、確かにその技師が作る魔道具とよく似た腕輪がつけられていた。
後味の悪い新作が投稿されています。
小鳥と王様と
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バットエンド٩( 'ω' )و




