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全てを許した聖女様  作者: めるめる琉


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皇子①〜予言〜

――ルリウス・モーデナート第一皇子――



 『雪の山脈に豊穣の吉報が訪れる』という予言を受けて、選りすぐりの騎士を引き連れて旅に出た。


 利き腕を失ったルリウスはモーデナート皇国第一皇子という立場でありながら、非常に自由の身であった。

何故なら王位継承権を放棄したからだ。側妃腹と揶揄された幼い頃、第二皇子を推す派閥に矢で射られ腕を失った。

ルリウスの母の側妃は自分たちの身の安全と自由のために継承権の放棄を宣言した。


 そのおかげで、今このように素晴らしい出会いを得た。

「俺の名はルリウス・モーデナート。モーデナート皇国の第一皇子です。ダイナル国の王都に戻ることがままならないのであれば、どうぞ我がモーデナート皇国にお越しください」

 最初は予言など信用していなかったが、モーデナート皇国は数年不作が続いており、打開策を検討していたところだった。

そんな中で囁かれた豊穣の予言。

予言に従い雪の山脈を訪れてみれば、雪と氷で閉ざされているはずの地はある村を中心に様変わりしていた。


 ダイナル国最北の村、ファーロン。


 ダイナル国の公爵家が王家簒奪を企て、聖女として認定された娘も刑罰を受けて辺境に追放されたという話は、モーデナート皇国にも届いていた。

なので予言者の言う吉報が聖女関連かもしれないと予想し、真っ先にダイナル国の方角を目指したが、まさかその聖女にこんなにすぐ出会えるとは思っていなかった。


 しかも、リイナはルリウスの失われた腕を再生してみせた。

ルリウスが身分を明かす前、その他の村人たちのついでというような扱いで力を使った。


「まさに神の御技。我が腕を再生させて頂いた御恩はそう簡単にお返しできるものではない。どうか我がモーデナート皇国で貴女の身柄を保護させて頂きたい」

「……保護、ですか……」

 ルリウスが身分を明かし、皇国でその身を保護すると伝えても、リイナは困惑するような微笑を浮かべ、首を横に振った。


 これだけの偉業を成したのに、リイナは奢ることも偉ぶることもしなかった。

「隠していて、ごめんなさい」

 リイナは、己の力を誇示することもなく、悲しげに村人に己の境遇を話し始めた。


 男爵令嬢が癒しの力を発現させ、王太子に婚約破棄をされたこと。

公爵家と教会は王家簒奪の咎を受け、断罪されたこと。

そして、リイナ自身が刑罰を受けたことを。

淡々とした声色で、まるで歴史書を語るかのようにリイナは話していた。


 うら若き貴族令嬢、ましてや本物の聖女であるリイナがされた仕打ちを聞き、村人たちは激しく憤り、涙を流して憐れんだ。


 ルリウスもまた、ダイナル国に対して激しい憤りを感じていた。

モーデナート皇国も近年不作が続き、人々が苦労しているのだ。それなのに聖女という、他国にはいない神聖な存在がいるにも拘らず、それを自ら捨てたのだ。


 ルリウスはリイナをモーデナート皇国へ連れて行くため、ファーロンに滞在し説得することを試みた。

リイナは教会の一室を借りているとのことだった。ルリウスは村の唯一の宿屋に宿泊し、日に何度もリイナに会いに来た。


 リイナが毎朝教会で祈りを捧げ終わると、ルリウスはリイナに声をかける。

「おはようリイナ。今日も良い朝だね」

 教会のステンドグラスの光が朝日を受けて眩く光る。

小さな教会なのに、リイナが祈りを捧げているせいか、どこよりも神聖な場所だと思えてくる。

 ルリウスはこの出会いに運命を感じていた。リイナを皇国に連れて帰ることこそが己の使命であると思った。

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