兵士②
しばらくすると、娘を纏う光は徐々に弱まっていった。
光が消えるに連れ、動揺していた男たちは徐々に冷静さを取り戻していく。
「服を……」
裸のまま横たわる娘をそのままにしておけず、慌てて服を着させようと手を伸ばす。
しかし、神聖な存在で、尚且つ年若い娘に不用意に触れることはどうしても憚られた。
男たちは目を合わせ、それぞれの上着を娘に羽織らせてその身体を隠した。
それからまたしばらくすると、娘は意識を取り戻した。
安堵した男たちは娘を怖らがせないよう、遠慮がちに声をかけたが、娘は口を閉ざしたまま何も話さなかった。
目のやり場に困り服を着るよう促すと、娘はそのまま悲しそうに俯き涙をこぼし始めた。
両親が処刑をされ、民衆の前で酷い辱めを受けたのだ。まともでいられるはずがない。
静かに涙を流す娘に、二人は平伏して謝罪をした。
「すまねぇ娘さん。手荒なことしちまって……」
「信じて貰えねぇかもしれんが、あのあと俺たちはお嬢ちゃんには指一本触れてねぇ。どうか泣き止んでくれ」
粗野な言葉しか使えずとも、二人は必死に謝った。
「俺も、すまなかった。二人を止めなかった」
男も同じように頭を下げた。
その後辺境への護送を王に命じられたことを伝え、そしてそれを違えてでもいいから娘の身柄を保護したいと告げた。
偽の聖女として処罰されたこの娘こそが、本物の聖女なのだ。
そうでなければ、あのような力があるはずがないのだ。
男たち三人は娘が目覚めるまでの間、命をかけ亡命をも試みようと話し合った。
聖女を守る、そんな使命に燃えていた。
「あなたが望むのなら、我々は何処へでもお共します。辺境ではなく、隣国や大国モーデナートへの亡命でも手伝いします」
しばらくぼんやりとしていた娘は、ゆっくり三人の兵士を見て、そして口を開いた。
「構いません。どうぞ、命令通り、私を辺境へと送ってくださいませ……」
それは、あまりにも悲しい言葉であった。
「 ヘラルド様も、異論を唱えてはくださいませんでした。ヘラルド様がそうお決めになられたのです。私はご命令に従うのみです……」。
それは貴族令嬢としての矜持なのか、元婚約者である王太子への恋心なのか、わからなかった。それでも、男たちは娘の言葉に衝撃を受けていた。
聖女は清廉潔白な人間がなると言われている。
娘が聖女の力を使えるのならば、娘は罪など犯しておらず、冤罪で裁かれたのであろう。
冤罪で刑罰を受け、そして辺境への追放も受け入れるつもりであるということがわかった。
男たちは聖女リイナが望む通り、辺境へと馬車を走らせた。
王都を出て以来、ずっと降り続けている雨は、相変わらず馬車や馬に当たることはなかった。
ただ男たちが馬車から離れれば男たちは普通に濡れる。明らかに濡れない馬車は違和感があるため、近隣の村に馬車で近づくことは憚られた。
やむを得ず野宿で過ごすことになったが、娘は不満を口にすることもなく、大人しく従っていた。
従順な娘に戸惑いつつも、男たちも出来るだけ娘に気を使い、持ちうる限りの礼儀を尽くそうとした。できるだけ彼女を楽しませようと、故郷の話を聞かせ、北に行くにつれ肌寒くなってくれば、自分たちの服を貸して彼女が凍えないようにと気を使った。
「ありがとう」
礼をされるたび、男たちは娘に平伏をした。娘に感謝をされるのは、天にも昇るように嬉しかった。
「聖女様、この先が辺境の村になります」
娘を北の辺境の村へと連れていった。「極寒の辺境の地へ」と告げられていただが、この国境の最北の村は特に寒さが厳しい。
何より、何もない地へ彼女を置いていくことはできなかった。
男たちは事前に、この辺境の地ファーロンに娘を連れてくるよう口裏を合わせていた。
「兵士さんたちが服を貸してくださいましたの。……雨に濡れて、身体が冷えてしまっております。私は良いのです。どうか兵士さんたちに暖をとらせていただけませんか」
ファーロン村の神官と名乗った男に、娘はそう言った。
俺たちは恐縮しながら、一晩暖炉のある部屋で過させて貰った。
これで娘ともお別れだと思うと、男たちの胸は激しく痛んだ。
こんなに誰かに心酔したのは初めてだった。
「どうかお元気で」
「本当に、ありがとう」
「こんなことしか出来なくて……本当に、すまなかった」
翌日、男たちは辺境の地へと罪人を追放したと報告をするため、王都へと戻ることになった。
深々と頭を下げる男たちを見て、娘は「道中、お気をつけくださいませ」と僅かな微笑を浮かべながら、とても綺麗なカーテシーをして見せた。
雨はいつの間にか止んでいたが、男たちの涙は止まらなかった。
聖女を無事辺境まで連れて行った。極寒の地に置き去りにするのではなく、聖女を守り、人が住む村に送り届けた。あの娘なら、村で十分に生きていくことは可能だろう。
でも本当に、これで良かったのだろうか。
王都へ戻る馬車を聖女は、その姿が見えなくなるまで見つめ続けていた。
男たちはそのことに気づき、そして声を出して泣いた。
自分たちは、何の罪もない、 一人の少女を辺境へと追いやった。
男たちは己の無力さを、酷く嘆いた。




