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辺境の地②

 イノシシは、ファーロン山から緑豊かになったこの地域に食料を求めてやってきたのであろう。

ファーロン地方のイノシシは巨大で、特に凶暴であると言われていた。


 村の男たちは必死に交戦した。

「ロダン様、ここは我々が引き留めますので、ロダン様もどうかお逃げください!」

 心優しい村人たちは、ロダンに避難を促す。

しかしロダンは槍を構える。この小さな村の戦力は限られている。

このまま逃げ隠れても、村を荒らされる。死人を多く出せば村の存続も危ぶまれるだろう。


 ろくに槍術を使ったこともないが、村の男たちと共に必死に抗う。

しかしあまりにも巨大なイノシシになす術もなく、村人たちは倒れていった。


 そこに颯爽と現れた騎士たちがいた。屈強な騎士たちは巨大なイノシシに怯むことなく挑み、イノシシの動きを止めた。そしてそこのい一人の隻腕の騎士が躍り出る。

彼は所持していた大振りな剣を左手一本で操り、イノシシの首を一刀両断した。

その太刀筋、剣捌きは隻腕と思えぬほど、あまりにも見事であった。

「間に合ったみたいでよかったです」

 イノシシの返り血の赤を浴びた隻腕の男は

、先ほどの太刀筋を繰り出したとは思えないほど柔らかく笑った。


「た……すかった、のか……?」

 一瞬の沈黙のあと、村人から歓喜の声が溢れてくる。

「ありがとう騎士様。心より感謝いたします」

 ロダンも男に礼を告げた。命拾いした村人たちも、騎士たちに大いに感謝した。


「訳あってこの地域に来たんですが、村から騒ぎ声が聞こえまして……。許可を得ずに入ってしまいましたが、ご容赦ください」

 困ったように言う男に、村人たちはそんなことは良いと男を労った。


「騎士様方のおかげで、誰も命を落とさずにすみました。感謝いたします」

「いえ、もう少し早く駆けつけられればよかったですね……治療薬は足りますか?」

 男は更に自分が所持している治療薬をロダンに手渡す。

「そうですね……流石に、全員を癒せるかというとちょっと……」

 ありがたいと思いながら、貰った治療薬の入った瓶を握り、ロダンは村人たちを見た。

 村人たちの中には怪我を負ったものが多くいた。命が助かり、村の被害も少なかったとはいえ、多くの働き手が暫く動けなくなることに、村人たちは気付き、項垂れた。


「ロダン様……」

 傷が浅かった村人たちが、重症のものの手当をしている最中、村の奥に避難をしていた女性や子供たちが戻ってきた。

「ああ……なんて酷い……」

「パパ……!」

 村人の現状に気づいたものたちから悲鳴が上がる。

怪我人の妻や子供たちが泣きながら寄り添う。

「ぐっ……だい、じょう、ぶだ……、よかった……無事で……」

 男の両腕は折れており、利き腕は骨が飛び出し、裂けた衣服から赤黒い血と共に見えていた。

村でも特に力があり、愛妻家だった男だ。幼い子供も二人いる。

妻はせめて命があっただけで良かったと、側で泣き崩れた。

男の腕は動かない。泣き崩れる母と、痛みで呻く父親を見て、子供がまた泣いた。

「ご……めんな……」

 ピクリとも動かない腕。きっと元に戻ることはないだろうと、誰もが思っていた。


 そんな中、その場に、一歩踏み出した少女がいた。

不思議と、心地よい風が吹いたような気がした。

白銀の髪を靡かせたリイナは、真っ直ぐ怪我人を見つめて、そっと近づいた。

「何を……」

 リイナは男の折れた腕に手を添える。

すると、その手から徐々に白い光が広がっていった。


「え……」

 人々が声を失う。淡かった白い光は、男の全身を包みこみ、最後に眩く光った。

「え……あ? 痛くない……?」

 ダラリと垂れていたはずの腕を持ち上げ、男は驚愕の声をあげた。

「治ってる……」

「パパァ!!」

 男の腕は何事もなかったように動き、すぐさま妻子を抱きしめた。

「奇跡だ……」

「奇跡が起きたぞ……!!」

 村人は沸きたった。聖女様だと、口々に叫んだ。それはイノシシを倒した時の歓声を凌駕するほどの騒ぎだった。


 それからリイナは怪我を負った村人全てを癒した。

不思議なことに、イノシシと戦って負った傷以外の古傷や、腰痛などの症状も全て改善された。それを知った村人たちは、こぞって癒しの力をリイナに求め、リイナは請われるまま全ての村人に癒しの力を使った。


「あなたも、どうぞ」

 リイナは最後に、隻腕の騎士にも声をかけた。

「俺の傷……? この腕ですか?」

「はい。貴方様は、この村の人たちの命の恩人でございますから」

「ですが……この腕は幼い頃に失くしたものです。まさか……」

 リイナは静かに手を翳した。 

そして、人々は神の偉業を見る。一段と眩く光る光の中、隻腕の騎士の切断された腕から肉が盛り上がり、腕を形成していく。

「そんな……」

 他のものより少し時間をかけ、騎士の腕は再生した。


「神よ……」

 ロダンは、その光を見ながら泣いていた。

「聖女様……」

 人々が驚愕で言葉を失う中、ロダンの言葉だけが青空に響いた。



 それから、「隠していてごめんなさい」と、控えめに謝罪したリイナは冤罪を着せられ、婚約破棄をされ、偽の聖女として王都を追放されてしまったと告白した。

村人たちは王家に怒り、憤った。

そしてその力があれば聖女として国に戻れると、リイナを説得した。


 この地に留まっていて欲しいと心では願いながらも、この素晴らしい偉大な力を持つ少女が、こんな辺境にいてはいけないと、口々に繰り返す。

「冤罪なら、晴らせばいい。俺も協力させて頂きますよ」

 イノシシの首を切り落とした騎士も膝まずき、リイナの手を取った。


「俺の名はルリウス・モーデナート。モーデナート皇国の第一皇子です。ダイナル国の王都に戻ることがままならないのであれば、どうぞ我がモーデナート国にお越しください」


誤字報告ありがとうございます。

また、ブックマークや評価などもありがとうございます!

とても嬉しいです!

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