王と刑罰
女性への厳しい刑罰の描写があります。
苦手な方は注意してください。
――ダイナル国・国王――
教会と手を組み、王家簒奪を目論んだとして、目障りなパルデト公爵家を断罪した。
これで口煩い教会の勢力も激減し、ダイナル国は国王の完全なる統治国家になるはずだった。
刑罰の当日、元公爵令嬢であるリイナは、長く美しかった髪を肩あたりまで乱雑に切られ、両手を拘束され、市中を半日ほど引き回された。
罪人とはいえ見目麗しい元貴族令嬢を裸にし、鞭打つと伝えれば、自ずと下賤な人間が集まってくる。
両親である公爵夫妻の処刑を凌駕するほどの多くの民衆の前で、刑は執行された。
うら若き子女には、相当堪える罰であっただろう。
特等席に国王、王妃、王太子ヘラルドと、真の聖女エミリアの席が設けられた。
そしてヘラルドの側近である、宰相子息ルイ、騎士団長子息ダントも同席を許された。
鞭打ちは五回を予定されていた。
裸に剥かれた娘への嘲笑。
鞭が一回、振り下ろされる毎、民衆は盛大に歓声をあげた。
娘の絹のような白い肌に、赤い痕が大きくついたのがくっきりと見える。
二回、三回と鞭打つたびその歓声は大きくなり、広場はまるで昔の闘技場のような狂気と熱気に包まれた。
民衆があまりりにも盛り上がるため、国王の権限で鞭打ちを十回まで行った。
量刑を増やすことなど異例であったが、国王の采配であることと、その場の雰囲気とでそれを言い出せるものはいなかった。
五回までは必死に悲鳴を上げることを耐えていただろう娘は、六回目でおおよそ貴族令嬢だったとは思えない悲鳴を上げ、七回目で失神をした。水をかけられ、苦しさで目を覚ました娘は、八回目を打つ前に泣きながら謝罪を口にした。
娘が打たれ、叫び声をあげるたびに、人々が高揚していくのがわかる。
「まるで喝采だな」
刑罰の場にもかかわらず、人々は喜び、手を叩き、声を上げ続けた。
まるで一つの舞台を見ているようだと、王は思った。
娘は鞭打つたびに失神を繰り返し、その都度水をかけて起こされた。娘の悲鳴は枯れて擦れていった。
そうして、最後の鞭打ちを終えた娘が失神をし、その余興は終わりを告げた。
久々によい刑罰を目にできたと、王は満足した。
ヘラルドやその側近たちは途中気まずそうにしていた。
貴族といっても、若い男だ。なかなかに良い刺激になっただろうと王は笑った。
民衆たちにとっても、よいガス抜きになったことだ。
鞭打たれた娘は、ろくに傷の手当をされぬまま、薄手の服一枚を着せられ、そのまま馬車で辺境の地へと送られる。途中命を落としたとしても、辺境へとその身体を運ぶこと、そして道中、同行する兵士には、“何をしても良い”と伝えてあった。
空にはいつの間にか曇天が広がり、ポタリポタリと雨が降り出す。
徐々に増す雨足に、先程の喧騒が嘘のように、民衆は散っていく。
「陛下、どうぞ中へ……」
冷たい雨が火照った身体を冷やしてくれるようで、そのときは心地よくすら思っていた。
――――しかし、ここからこの国の地獄が始まることになる。