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パルテド公爵家

――パルデト公爵――


 リイナが、婚約破棄をされた。リイナは真なる聖女であると噂されている男爵令嬢を虐げ、王太子から公爵令嬢という身分を剥奪された。

 そしてリイナの聖女の地位も、公爵家が金で買ったものだと王家から断定され、教会と手を組み王家簒奪を図ったとして。四大公爵の一角であるパルテド公爵家は断罪されることになった。



「全て、終わりだ。何もかも……」


 パルテド公爵家は、決して聖女の地位を金で買ったりなどしていなかった。

教会の選定の儀にて、確かにリイナが手をかざした水晶が光り、聖なる力があると判定されたのだ。


 リイナは昔からのんびりした娘であった。

人と争うことを好まず、自然を愛した大人しい娘であった。


 パルデト公爵はそんなリイナの心を強くしたいと願った。

リイナは優しすぎる。王妃になるのには、優しいだけでは駄目であった。

だから厳しく育てた。聖女であり、王妃になり、この国を支える女性になるために、厳しく育てたのだ。


 パルデト公爵家を裁く裁判にて、リイナの姿を見た。

卒園式で罪状を言い渡されたリイナはすぐ投獄され、その後会うことは叶わなかった。

そして恐らく、娘の姿を見るのは残り僅かであることを公爵は理解していた。


 王太子によって身分を剥奪されたリイナは、公爵令嬢が着るとは到底思えない、平民の中でも質素な服で立っていた。

完璧な令嬢と言われ、必死に努力を重ねていた愛しい娘の姿はそこにはない。


 目に涙を溜め、絶望したような表情でそこに立っていた。

貴族らしくないその姿に嘲笑の声すらも聞こえる。だが、父親である己にはわかる。


 これは昔の、本来のリイナの姿だ。

王妃教育を強要し、理想の聖女であることを強要する前の、本来のリイナだ。

リイナは沢山の努力を重ねていた。もう何年も、表情を崩すことはなかった。

 そんな娘が、今は絶望した表情かおで佇んでいる。

必死に取り繕っていた仮面が壊れるほど、娘はこの状況に傷ついているのだろう。


 争いを忌避し、人を恨むことをせず、心優しい、純粋な娘。

己の娘であり、紛うことなき聖女。


「……陛下、せめて、リイナに温情を頂きたい。リイナは何も知りませんでした。我が公爵家への裁きは全て王の采配に従います。ですが、何も知らなかった娘の命だけは、奪わないで頂けませんか」

 事実なら罪と、多くの冤罪が並べ立てられる裁判で、地面に頭をこすりつけ、公爵家当主とは思えぬ姿で懇願した。



 リイナは本物の聖女である。

聖女の力の発現こそできなかったが、あの選定の儀で、聖なる光を目にし、それを目の当たりにした公爵はリイナが聖女であると確信していた。

 のんびりと育ててしまった末娘が厳しい教育に耐えていたのも知っていた。

 リイナの努力でどうにもならないものは握り潰したことも確かだ。

最近では厳しくしすぎたかもしれない。

いつまでも聖女の力を発現できないリイナに苛立ち、過剰な罰を与えてしまったこともあった。


 けれど、リイナは優しい娘だった。聖女の名に相応しい、清廉な娘であった。

だからリイナまで処刑されるわけにはいかない。

なんとしてでも、リイナだけは救わなければならない。

聖女を処刑などしたら、この国がどうなるかわからない。

そうしなければ、国が、領民が、関係のない、多くの人々が苦しむことになるのだ。


「どうか、リイナだけは……」






 王家を憚ったことにより、当主とその妻は斬首の刑に処され、その首は公爵家の前に晒された。

 公爵家の爵位は三段回降爵され、子爵となり、大半の領地が没収された。かろうじて残った僅かな領地は、長男のレエトが継ぐことを許された。

 隣国の侯爵家に嫁いでいたラアナは、新婚にも関わらず離宮に追いやられた。侯爵には既に側室の話が出ているという。ラアナは生涯、外に出ることは叶わないだろう。



 リイナ元公爵令嬢は、パルデト公爵の懇願により処刑は免れた。

それでも、身分を剥奪されてからの裁判だったため、その量刑は重く、とても元公爵令嬢に行われるようなものではなかった。


 市中を引き回しの上、広場で裸にされ鞭打たれてから、北の辺境の地へと追放になった。

そしてそこは人がとても住めないような極寒の地で、実質死刑と変わらないものだった。

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