重なり
「首尾よく倒せたみたいだね。ま、あのくらいは瞬殺じゃないと」
アルが魔導書から出てきた。
「ねぇ、魔物に気付いてたなら早く言って欲しかったんだけど」
「ゴメンゴメン。いや、どんくらい戦えるか知りたかったからさ」
「だからってこれはーー」
「別に、楽勝な相手だっただろ?」
「それは…‥そうだけど。……でも、今回はハルカもいたし!」
「悪かったって。そこまでは考えてなかったよ。……まぁ、ハルカにも最低限の自衛手段くらいあった方がいいか……。うぅん……」
アルはしばらく考え込んで。
「……あぁ、アレがあったか。レーブ、始書の630ページの魔法陣使ってくれる?」
「うん、いいけど……。召の章? 召喚魔術か。……《展開:召喚陣》」
召喚魔術は魔力を込めるだけで、設定などは必要ない。
魔法陣が展開され、その光が段々と集束し、 やがて一つのものを形作った。
それは、黒光りする鉄の塊だった。よくわからない部品がくっ付いていて、筒が伸びている。
無骨な印象を受けるが、しかし、同時にどこか美しさというのも感じられる。
僕はそれを手に取る。金属の冷たさと、ずっしりとした重みが手に伝わってきた。
「なにこれ?」
「銃……?」
ハルカが何かを呟いた。
「うん、そう。回転式拳銃。確か、S&W M29とか言ったかな。ミリタリー系はあんま詳しくないけど」
「でも、何でこれがこの世界に……?」
「さぁ? それは俺にも分からないなぁ。ま、それあげるよ」
アルベールがこちらに目配せしてきたので、何となく意思を察して、回転式拳銃をハルカに差し出す。
「いいの?」
ハルカが遠慮気味に聞いてくる。
「良いんじゃない? アルが良いって言ってるんだから」
「そう? ……ありがとう。ぅわ、おも……」
ハルカは、回転式拳銃をおずおずと受け取った。
「えっと、これどうやって持ち運べば……。えぇと、ホルスター?みたいなのはない?と、いうか、弾はないの?」
「残念ながら、ホルスターはない。ネルクについたら材料買って作るから少し我慢して。あと、弾もない、というかいらない。代わりに魔石が要るけど」
買うのも僕だし作るのも僕だけどな! アルベールは実体ないし。
「え、魔石? 銃じゃないの?」
「銃だよ。見た目はね。元々はモノホンの銃だったんだけど、俺が色々弄ったからさ。効果も同じようなもんだけど、原理が違う。実際のところは魔導具だな。魔術で創った弾丸を撃つっていう。
名付けるなら、《S&W M29 type:magic》ってとこか。
使い方もあまり変わらないな。小さな魔石をそこーー薬室に入れて、撃鉄を起こして、引き金を引くだけ。簡単でしょ?」
「えぇ、まぁ」
「ま、使ってれば慣れてくるさ。
それはそうと、解体しなくていいの? んと……、ウォルフを」
ああ、忘れてた。
荷物を漁ってナイフを取り出す。
ナイフでウォルフの心臓の辺りを切り裂く。
辺りに血が飛び散った。
「うわ……」
そして、手を突っ込んで中をまさぐる。
「ええ……?」
ハルカの引いたような声が後ろから聞こえて来たが、無視する。
何か硬いものが手に当たった。
「あった」
それを掴み、手を引き抜く。
「《流水》」
魔導書で水を出して、手とウォルフの体内から取り出したものを洗う。
僕の手には、紫に光る小さな石があった。
魔石だ。
「それが魔石?」
「そう。はい、あげる」
リボルバーに魔石が必要らしいので、ハルカに手渡す。
「ありがとう……って、これ血だらけだったやつじゃない!」
「おっと」
投げ返された。
「洗ったから大丈夫なのに……」
しょんぼりしたふりをしてみる。
「いや、水洗いじゃあね……」
アルが余計な事をボソッと言った。
た、確かに……。
「ご、ごめん。やっぱりもらうよ、ほら」
ハルカが手を差し出して来たので、にっこり笑って魔石を再び手渡す。
「はい、あげる」
「ありがとう。……まさか、さっきの演技だったの!?」
「ごめんごめん」
「全くレーブは……」
「をい。あんまりイチャコラを見せつけんじゃない」
アルが真顔でそう言って来た。
イチャコラって……。
「い、いちゃこらしてない!」
ハルカが真っ赤な顔で必死に否定する。
少しショックだ。何もそんな必死にならなくても……。
ハルカは僕のことがあまり好きではないらしい。
「本当かぁ?」
「ほ、ほんとだし!」
アルがハルカをからかって遊んでいる。仲がいいな。
「ふぅ……。《火球》」
ボォンッ
「うおっ」
「きゃっ」
ウォルフの死体に火をつけて燃やす。
放っておくとアンデットになってしまうからだ。本当は毛皮なども売れるのだが……。
今回は時間がないので諦める。
「出発するよ」
「お、おう」
「うん」
次回の更新は6月16日です。
銃についてですが、一応調べて書きはしたのですが、何か間違ってるところがあったら教えて下さい。