初戦闘
「えっとじゃあ、アルベールさんはその魔導書?に取り憑いた精霊ってこと?」
「う、うん。そういうわけだから実体がないんだ」
「ふぅん。まぁ、魔術があるんだから精霊くらい居るわよね……。でも、アレが精霊……?」
ということで、現在絶賛嘘吐き中です。
まさか信じるとは思わなかった。言い出しっぺのアルベールは絶対信じると言っていたが。
「あ、でも旅の間は双子って設定でよろしく」
噂をすれば。僕の隣に光が集まっていき、アルが現れた。
「やっぱ壊れてた。魔力での変質だったり、経年劣化とかで。結構な機能が使えないわ」
「確か、始書には自己修復術式ってのがついてるって伝説にはあったはず……」
「で、伝説……。まじか。そんなのが。ま、まぁいいや。自己修復と言ってもなんでも治るわけじゃないんだ。デリケートで結構希少な素材を使うとことかは素材がないと。……てことで!素材集めよう!」
「まぁ、完全な始書を見てみたいし、使ってみたいけど、希少ってことは危ないんじゃない?」
「うん、まぁ危ないけど……。君の体質が治ると言ったら?」
「……本当に?」
昔もこういう事を言ってくる奴らはいた。しかし、そのことごとくが詐欺師だった。
だから、僕のこの体質は治らないだろうと、半ば諦めていた。
しかし、今回は情報の信憑性が違う。それこそ、桁違いに。
僕は、魔術が使えるのだろうか。昔憧れたレオ兄さんや、物語の英雄のように。
僕は、期待してもいいのだろうか。
「お願いしますっ。その方法を教えて下さい。なんでもしますから」
「お、おう。……何でもって言ったな?」
そう言うと、アルはニヤリと笑って。
「んじゃ、旅の途中途中で始書の修復用の素材を集める事。と言っても、始書が直んないと体質も治らないんだけどね」
「えっと、どういう事?」
「体質を直すのに使う魔法の術式がぶっ壊れてるからだよ」
「魔法」
また出た。何でもありの超技術。
「そう、俺が作り出した唯一の魔法」
唯一?
「魔法ってそんなに種類少ないの?」
「う〜ん。まぁ作ろうと思えば沢山あるんだろうけど、正直、魔法一つあれば大体何でもできるしね。……おっと?」
「どうした?」
「いや。そういや、まだ始書で戦闘した事ないんだっけ?」
「うん。そうだけど……」
「んじゃ、これが初めての戦闘になるかな!」
そう言うと、アルは光となって始書の中に入ってしまった。
どう言う事だ?
「きゃっ、何か来てる!……アレが魔物ってやつ?」
ハルカが指差して言った。
その指の指す方を見ると、狼のような姿をした一匹の魔物が、こちらに向かって走って来ている。
ネルトニヒ・ウォルフだ。
「なっ!」
アルが言っていたのはこういう事か!
急いで始書を取り出し、開く。
「えっと……。《展開:火球・威力:3・速度3:・射程:500m・発動》」
僕の目の前に真紅の魔法陣が展開され、直径1m程の火球が出現した。
そして、ネルトニヒ・ウォルフに向かって真っ直ぐ飛んでいった。
魔狼は高速で飛んで来た火球に反応出来ないかと思われたが。
「速いっ!?」
直前で回避した。まさに人外の反応速度だ。
これが魔物の魔物たる所以でもある。
魔力によって強化された身体能力は、ただの野生動物のそれを軽く凌駕する。一部の魔物には魔術を使うものさえいると言う。
これ以上距離を詰められたらマズい。鍛えてはいるが、ジーク兄さんと違って接近戦はからっきしなのだ。
「《展開:岩弾・威力:3・速度:5・射程:300m・並列九重展開・発動》」
火球より速い岩弾を面で展開する。確実に当てるためだ。
九つの魔法陣から放たれた岩の弾丸は、一瞬の内にウォルフとの距離を詰め、着弾した。
魔力によって通常の三倍に強化された岩弾は、その身体を容易く貫く。
「ギャウッ!」
岩弾の一つが足に当たったのか、ウォルフはバランスを崩して倒れ、10m程地面を転がって止まった。
とどめを刺すために、倒れているウォルフに歩み寄る。ウォルフは、首を起こしてこちらを睨んでいた。
「《展開:岩弾》」
通常の岩弾をウォルフの頭に撃ち込むと、血飛沫が飛び散り、ウォルフは事切れた。
「ふぅ……」
「殺したの?」
後ろからハルカの声が聞こえた。
「うん」
「そう……」
ハルカが恐る恐るウォルフの死体に近づく。
「これが魔物なのね。普通の動物と同じに見えるけど……」
「いや、正真正銘魔物だよ。ネルトニヒ・ウォルフっていう。身体能力だって野生動物より遥かに高いし、多分、解体したら魔石が出てくるよ」
「魔石?」
「魔物の体内にある石のこと。魔力が固まって出来たものと言われていて、魔導具とか魔法陣描くのに使ったりする」
「ふぅん」
魔物の名前が超安直になってしまいました。思いつかなかったんです。
次回の更新は6月14日です。