接触
どこで切ったらいいかわからなかったので、長くなってしまいました。
「んぅ……」
少女が身動ぎした。
「ふゎあ……」
今は、夜の2時を回ったところだ。かれこれ7時間以上《灯火》を維持している。流石に疲れた。眠い。
ふと、少女の方を見る。昨日は気が付かなかったが、彼女はこの辺りでは珍しい黒髪だった。
「どこから来たんだろうな……」
そんな事を考えつつ、少女を見つめていると、
「んぅぁ……?」
少女が目を覚ました。
そして、僕とばっちり目が合った。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
少女の悲鳴が響いた。
「ーーッ!?ーーーーーーーー!」
な、なにを言っているのか分からない……。
僕はこれでも、マルチリンガルだったりするのだが。0歳からの英才教育の影響で。
少女が、慌ただしく立ち上がって逃げ出そうとする。パニックになっているようだ。
しかし、周りを見渡すとヘナヘナと座り込んだ。
「ーーーーーーーー……?ーーーーーーー」
そして、唐突に泣き出した。
どうしよう、この状況……。
「やあ、困ってるみたいだね」
何処かで聞いた声が背後から聞こえた。この声は……。
「始祖様!?消えてしまったはずでは?」
振り向くと、そこには案の定始祖がいた。
「ああ、アレ? 嘘だよ。ごめんね?」
始祖は、さらっとそんな事をぶっこきやがった。
コイツ……!
「それで?何故貴方がここにいるんです?」
怒りは一旦置いといて、始祖に聞く。
「うんと、まあ、色々あってね。まとめると、俺はその始書から、あまり離れられないらしい。ま、そのせいでここに来ちゃったわけだね」
聞くと、始書が始祖の依代的なものになっているらしい。
始祖と始書ってややこしいな。アルでいいや。
「それよりも、その子のことはいいの?」
ああ、そうだった。
「なんか、言葉が通じないみたいで……」
「ふぅん……。それなら、始書の805ページの魔法陣をつかってみ?」
言われた通りに805ページを開く。そこには、とても複雑な魔法陣が刻まれていた。
「それは、《翻訳》の魔術だ。相手の話す言語を解析して、翻訳できる」
そんな魔術があるとは……。言動はたまにイラッとくるが、腐っても始祖というわけか。
取り敢えず、使ってみる。
「《展開:翻訳・未確認言語を人間語(主人公の話す言語)に変換・
「ああ、ちょっと待って」
急に始祖に止められた。
「未確認言語って解析に時間かかるんだよね。それに、なんか話てくんないと解析できないし」
今は話しそうにないでしょ?とアルは少女の方を見ながら言った。
「だから、今回は少し裏技つかうわ。レーブは、魔法陣に手だけあてといて。後は俺がやるから。
《展開:翻訳・⬛︎⬛︎語と人間語を相互変換・継続発動》」
すると、僕たちと少女との間に巨大な魔法陣が展開され、それが少女の口元に折り畳まれるように収束し、その後には少女の口元に、小さな魔法陣が浮いていた。
「え、な、何これ?魔法?」
少女は呆然としている。というか、何言ってるかが分かる。
「えっと、僕の言ってること分かりますか?」
「は、はい。分かりますけど、なんで?」
「魔術を使ったんだ。翻訳魔術を」
「魔術って。……えっと、もしかして、魔物とかっています?」
「え?まあ、いますけど」
「……もしかして、沙織が言ってた異世界ってやつ? まさか、そんな……。私、帰れない……?」
少女の表情がだんだんと悲痛なものに変わっていく。
「えっと、僕はレーベンス、と言います。君はそこの街道に倒れてたのですが、よかったら事情を聞かせてくれませんか?」
少女は何かを考えるように少し沈黙し、話しだした。
「わからない。わからないの、なにも。私がどうしてこんなところにいるか……。それどころか、ここがどこだかもわからない。私はただ歩いてただけなのに、気づいたらここに寝てたの。
私の知る世界には、魔術なんてないし、ましてや魔物なんていない。
……きっと私は、異世界に飛ばされちゃったのよ。……家出なんてしたから。
そもそも、あんなことで喧嘩なんてしなければよかったっ! もう、会えないかもしれないのに……」
少女は取り乱した様子でそう言うと、再び泣き出してしまった。
異世界転移。
その言葉を聞いて、僕は呆然としていた。
そのようなことがあり得るのだろうか。いや、そもそも異世界は存在するのか。
魔導の最高峰である始祖に聞こうと、彼の方を見る。
「異世界なんてーー」
あると思うか?と聞こうとしたが。
世界最強であるはずの、恐れるものなど何も無いはずの始祖は、恐怖と憎悪を織り交ぜたような表情をしていた。
「ど、どうした?」
「いや……、何でもない。……彼女の言っている事は、多分本当だろう」
何故、とは聞かない。世界最高の魔術師たる始祖がそう言うのだから、何かしらの根拠はあるのだろう。
それよりも、今は少女をどうするかだ。
「で、どうするんだ?あの子は」
始祖がそう聞いてきた。
「うぅん。取り敢えず、次の街までは連れて行くべきじゃないか? 流石に、こんな街道のど真ん中にほっぽり出すのはどうかと思うし」
「俺はあまり転移者と関わりたくはないんだけどな……。まぁ、そのくらいが妥当だろ」
「じゃ、あの子に言ってきてよ」
「お前行けよ。拾ったのお前じゃん」
「いや、だって泣いてるし」
なぜか分からないが、アルが友人の様にに感じられた。アルは偉大なご先祖なのに。
「拾ってきたものには責任を持つべきじゃないか?」
「いや、ペットじゃあるまいし……。じゃあ、行ってくるか……」
さっきまで泣いていた少女は、目を赤く泣き腫らして座っていた。
僕は、彼女の前にしゃがんで、話しかけた。
「えっと、君の名前を教えてもらってもいいですか?」
「遥香……」
泣きすぎて、掠れた声だった。
「ハルカさんか。珍しい名前ですね。では、ハルカさんーー」
「遥香でいいです」
「ではハルカ、僕たちは旅をしていて、今は隣のネルクという街に向かっているところなのですが、よかったら、ネルクまで一緒に行きませんか?」
「……ご迷惑じゃないなら」
「じゃ、そうゆうことで。今日はもう遅い、というか、あと何時間もしたら日が昇るんで、もう寝ましょう」
あとは僕が見とくんでーーと、言おうとしたが。
「見張りは、俺に任せて早く寝ろ。徹夜だったんだろ?」
ここはご厚意に甘えて、眠らせてもらおう。ぶっちゃけ、眠気がもう限界だった。
「いい夢を」
アルベールのおちゃらけたような声が聞こえた。
今回はヒロイン登場回でした。
気づいたら、ストックが心許無くなっていました。申し訳ございませんが、更新頻度を落とさせていただきます(2、3日に一回程度)。
次回の更新は6月10日です。