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始祖の魔導書  作者: 富良斗雫
第一章
6/24

接触

 どこで切ったらいいかわからなかったので、長くなってしまいました。

「んぅ……」

 少女が身動ぎした。

「ふゎあ……」


 今は、夜の2時を回ったところだ。かれこれ7時間以上《灯火》を維持している。流石に疲れた。眠い。

 ふと、少女の方を見る。昨日は気が付かなかったが、彼女はこの辺りでは珍しい黒髪だった。


「どこから来たんだろうな……」

 そんな事を考えつつ、少女を見つめていると、

「んぅぁ……?」

 少女が目を覚ました。

 そして、僕とばっちり目が合った。

「ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

少女の悲鳴が響いた。

「ーーッ!?ーーーーーーーー!」

な、なにを言っているのか分からない……。


 僕はこれでも、マルチリンガルだったりするのだが。0歳からの英才教育の影響で。


 少女が、慌ただしく立ち上がって逃げ出そうとする。パニックになっているようだ。

 しかし、周りを見渡すとヘナヘナと座り込んだ。

「ーーーーーーーー……?ーーーーーーー」

 そして、唐突に泣き出した。

 どうしよう、この状況……。


「やあ、困ってるみたいだね」


 何処かで聞いた声が背後から聞こえた。この声は……。

「始祖様!?消えてしまったはずでは?」

振り向くと、そこには案の定始祖がいた。

「ああ、アレ? 嘘だよ。ごめんね?」


 始祖は、さらっとそんな事をぶっこきやがった。

 コイツ……!


「それで?何故貴方がここにいるんです?」

 怒りは一旦置いといて、始祖に聞く。

「うんと、まあ、色々あってね。まとめると、俺はその始書から、あまり離れられないらしい。ま、そのせいでここに来ちゃったわけだね」


 聞くと、始書が始祖の依代的なものになっているらしい。

 始祖と始書ってややこしいな。アルでいいや。


「それよりも、その子のことはいいの?」

ああ、そうだった。

「なんか、言葉が通じないみたいで……」

「ふぅん……。それなら、始書の805ページの魔法陣をつかってみ?」

 言われた通りに805ページを開く。そこには、とても複雑な魔法陣が刻まれていた。

「それは、《翻訳》の魔術だ。相手の話す言語を解析して、翻訳できる」


 そんな魔術があるとは……。言動はたまにイラッとくるが、腐っても始祖というわけか。

 取り敢えず、使ってみる。


「《展開:翻訳・未確認言語を人間語(主人公の話す言語)に変換・

「ああ、ちょっと待って」

急に始祖に止められた。

「未確認言語って解析に時間かかるんだよね。それに、なんか話てくんないと解析できないし」

 今は話しそうにないでしょ?とアルは少女の方を見ながら言った。

「だから、今回は少し裏技つかうわ。レーブは、魔法陣に手だけあてといて。後は俺がやるから。

《展開:翻訳・⬛︎⬛︎語と人間語を相互変換・継続発動》」


 すると、僕たちと少女との間に巨大な魔法陣が展開され、それが少女の口元に折り畳まれるように収束し、その後には少女の口元に、小さな魔法陣が浮いていた。


「え、な、何これ?魔法?」

 少女は呆然としている。というか、何言ってるかが分かる。

「えっと、僕の言ってること分かりますか?」

「は、はい。分かりますけど、なんで?」

「魔術を使ったんだ。翻訳魔術を」

「魔術って。……えっと、もしかして、魔物とかっています?」

「え?まあ、いますけど」

「……もしかして、沙織が言ってた異世界ってやつ? まさか、そんな……。私、帰れない……?」

 少女の表情がだんだんと悲痛なものに変わっていく。

「えっと、僕はレーベンス、と言います。君はそこの街道に倒れてたのですが、よかったら事情を聞かせてくれませんか?」

 少女は何かを考えるように少し沈黙し、話しだした。

「わからない。わからないの、なにも。私がどうしてこんなところにいるか……。それどころか、ここがどこだかもわからない。私はただ歩いてただけなのに、気づいたらここに寝てたの。

 私の知る世界には、魔術なんてないし、ましてや魔物なんていない。

 ……きっと私は、異世界に飛ばされちゃったのよ。……家出なんてしたから。

そもそも、あんなことで喧嘩なんてしなければよかったっ! もう、会えないかもしれないのに……」

 少女は取り乱した様子でそう言うと、再び泣き出してしまった。

 

 異世界転移。

 その言葉を聞いて、僕は呆然としていた。

 そのようなことがあり得るのだろうか。いや、そもそも異世界は存在するのか。

 魔導の最高峰である始祖に聞こうと、彼の方を見る。


「異世界なんてーー」

あると思うか?と聞こうとしたが。


 世界最強であるはずの、恐れるものなど何も無いはずの始祖は、恐怖と憎悪を織り交ぜたような表情をしていた。


「ど、どうした?」

「いや……、何でもない。……彼女の言っている事は、多分本当だろう」

 何故、とは聞かない。世界最高の魔術師たる始祖がそう言うのだから、何かしらの根拠はあるのだろう。

 それよりも、今は少女をどうするかだ。

「で、どうするんだ?あの子は」

始祖がそう聞いてきた。

「うぅん。取り敢えず、次の街までは連れて行くべきじゃないか? 流石に、こんな街道のど真ん中にほっぽり出すのはどうかと思うし」

「俺はあまり転移者と関わりたくはないんだけどな……。まぁ、そのくらいが妥当だろ」

「じゃ、あの子に言ってきてよ」

「お前行けよ。拾ったのお前じゃん」

「いや、だって泣いてるし」

なぜか分からないが、アルが友人の様にに感じられた。アルは偉大なご先祖なのに。

「拾ってきたものには責任を持つべきじゃないか?」

「いや、ペットじゃあるまいし……。じゃあ、行ってくるか……」


 さっきまで泣いていた少女は、目を赤く泣き腫らして座っていた。

 僕は、彼女の前にしゃがんで、話しかけた。

「えっと、君の名前を教えてもらってもいいですか?」

「遥香……」

泣きすぎて、掠れた声だった。

「ハルカさんか。珍しい名前ですね。では、ハルカさんーー」

「遥香でいいです」

「ではハルカ、僕たちは旅をしていて、今は隣のネルクという街に向かっているところなのですが、よかったら、ネルクまで一緒に行きませんか?」

「……ご迷惑じゃないなら」

「じゃ、そうゆうことで。今日はもう遅い、というか、あと何時間もしたら日が昇るんで、もう寝ましょう」

あとは僕が見とくんでーーと、言おうとしたが。

「見張りは、俺に任せて早く寝ろ。徹夜だったんだろ?」


 ここはご厚意に甘えて、眠らせてもらおう。ぶっちゃけ、眠気がもう限界だった。


「いい夢を」

アルベールのおちゃらけたような声が聞こえた。

今回はヒロイン登場回でした。

 

気づいたら、ストックが心許無くなっていました。申し訳ございませんが、更新頻度を落とさせていただきます(2、3日に一回程度)。

次回の更新は6月10日です。

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