旅立ち
荷物の最終確認も終わり、とうとう出立の時が来た。
「持ち物は持ったか? 忘れ物はないか?……風邪ひくなよ、しっかり歯磨きしろよ、危ないとこには近づくなよ、あと……」
「レオ兄さん、大丈夫だって。じゃあ、行ってきます。ジーク兄さんも、行ってきます」
「……頑張れよ」
「はい!」
家の門を出て、街の出口へ向かう。
……この街並みを次に見るのも、当分後になるだろう。始祖が造り上げた街並みを、しっかりと目に焼き付けておく。
頭に何かが落ちてきた。空を見上げる。水滴が顔に当たった。
どうやら雨が降ってきたらしい。僕は、雨に濡れないようにローブのフードを被る。
人々が慌ただしく動き始めた。
いつしか、街を歩く人は少なくなっていた。
そうこうしているうちに、街の門に着いた。
門番に軽く会釈して、生まれ育ったキャメロンの街を出た。
「さて」
この後はどうするか。
一応、段取りは決めてある。キャメロンを出て、西に2日ほど行ったところにある街、ネルクに行くのだ。
というか、キャメロンは大陸の東端にあるので、ここより東には海しかない。
つまり、西に行くしかないのだ。
兄達もこのルートで行ったらしい。
そうと決まれば、早く行こう。
僕は降りしきる雨の中を、街道に沿って歩き始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
キャメロンを出て、8時間程経った。
辺りも暗くなってきたし、そろそろ野宿にしようと思う。
幸い、今日は魔物や賊の類には遭遇しなかったので、魔力は有り余っている。そのため、野宿と言っても魔術で作った小屋で寝るだけだ。
辺りを見回して小屋を作るのに丁度いい場所を探す。
刹那、空に稲妻が走った。
そのとき、街道の先に何かが見えた気がした。
明かりを付けようと、始書を取り出しながら、何かが見えた方に向かう。
少し遅れて、雷鳴が轟いた。
人だ。
人が、倒れていた。
僕はそれに気付くと、急いで駆け出した。
そこに倒れていたのは、15、6歳程の少女だった。
「おい、大丈夫か!?」
僕は彼女を抱き起こす。
パッと見た感じ、外傷は無いし、呼吸もしっかりしてる。どうやら、気絶しているだけのようだ。
ここに放っていくのもアレなので、取り敢えず介抱しようと思う。
少女に僕の外套を掛け、始書を開いて魔術を使って急ピッチで小屋を作る。
「えっと、土の章は……。あ、あった。使うのは《土柱》と、《土壁》だから……」
よし。
始祖から始書の使い方は教えてもらっていた。
まず、使いたい魔術の魔法陣に手をかざし、魔力を供給する。次に、魔術の威力、射程などを設定する。ここが始書と普通の魔導書の違いでもある。普通の魔導書では、威力などはその魔法陣によって決まっているのだ。
「《展開:土柱・威力:1・射程:2m・ベクトル:ノーマル・並列四重展開・発動》」
すると、2m程の間隔をあけて魔法陣が4つ展開され、土の柱が生えてきた。
「おお」
本当に多重展開出来た。
普通の魔導書では出来ないのだが。
おっと、悠長に驚いてる場合じゃない。早く小屋を作らないと。
次は屋根だ。
「《展開:土壁・威力:1・射程:4㎡・ベクトル:水平・発動》」
射程とは言っているが、要するにその魔術が効果を及ぼせる範囲のことだ。色々分けると面倒臭いので、まとめてしまったらしい。
小屋も出来たので、少女を中に運び入れた。
少女の服ーー見たことのないような服だーーは雨でずぶ濡れで、このままでは風邪を引きそうだ。
今は初夏だが、この辺りはまだ肌寒い。
乾かさなければ。
しかし、僕が勝手に脱がすのも気が引ける。
「どうするか……」
魔術で乾かすことにする。
「《灯火》」
今回は小さな火をつけるだけなので、特に設定などはいらない。
「あ」
しまった。薪がない。そこら辺から取ってこようにも、今日は雨だ。湿っていて火が付かない。
しょうがないので、魔力でずっと維持するしかない。
「徹夜かぁ……」
雨の勢いが強くなってきた。