邂逅
階段を降りた先には、扉があった。そこには魔法陣が刻まれていた。しかし、それは光を失っている。魔術は起動していないようだ。陣をよく見ると、魔力回路が欠けているところがある。多分、ここが欠けたために魔法陣は効力を失ったのだろう。
倉庫入り口の魔法陣は複雑過ぎて全く解析出来なかったが、この魔法陣は少しだけなら解析出来そうだ。
「うーんと、何かを封印してたのかな?」
しかし、それも効果を失っていては意味がない。
とりあえず、中に入ってみるか。
中に入って驚いた。部屋が新築のような綺麗さを保っていたからだ。部屋の中は薄暗かったが、それは分かった。
上の倉庫とは違い、こちらには作業台や様々な素材のような物があり、工房のような印象を受ける。恐らくこの工房で作られたであろう物もあった。
そういえば、始祖は偉大な魔術師であるとともに、優れた魔道具師でもあったそうだ。代表作としては、始祖が愛用し、現在は失われたとされる魔導書《始書》が有名だろう。この工房も始祖が使っていたのだろうか。
過去の情景に思いを馳せながら、工房を見回す。
すると、一冊の古びた本が目についた。何となく近づいてみる。
昔は美しかったであろう装丁は、変色し、ボロボロになっている。
その本に手を伸ばす。
僕の手が本に触れた瞬間、表紙に魔法陣が浮かび上がった。
「おお……。」
みるみるうちに本の傷みが修復されていく。数秒経つと、僕の前には美しい本があった。
本を開こうと思ったその時、
「やあ、君はだれかな?」
後ろから声が聞こえた。
後ろを振り向くと、どこか見覚えのある男がいた。
「貴方は……?」
男を警戒しながら聞く。
「俺か? 俺は、アルベールだ」
「何故ここに?」
「それよりも、俺が名乗ったのだから君も名乗るのが道理ってやつじゃないか?」
このセリフ、一回言ってみたかったんだよね、ちょっと違うけどーーとか呟いている。
怪しい。
「まあ……、そうですね。僕はレーベンス・グリモワルです」
「グリモワル……? 偶然かな?
まぁいいや。さっきの質問に答えよう。ーーここが俺の家だからだ」
「そんなはずは……。ここは始祖の代ーー1000年前からグリモワル家のもののはず……」
「1000年前だって……?ねえ、今は第二水暦何年だ?」
こいつは何を言ってるんだ?
「水暦? 今は第二土暦952年ですけど……」
この世界では、暦は四つあり、それが千年ごとに入れ替わっている。
なぜそんな仕組みになっているかというと、千年ごとに環境が大きく変化するから、らしい。
例えば、火暦では気温が異常に上昇し、水暦では気温が異常に下がる。土暦では天変地異が起こり、風暦では異常気象が頻発する。
そして、その暦が作られてからの四千年間を第一〜暦とし、それ以降は第二、第三とつながる。
つまり、今は暦が作られてから六千と九百五十二年目、というわけだ。
「土暦952年……。タイムスリップか? 異世界転生があるぐらいだからありえるか? いや、そういえば俺は死んだはずじゃ……。どういう事だ……?」
男は顎に手を当てて考え込んでって、て、手が顎をすりぬけている!?
「てっ、ててて、手があ、顎を……」
「ん?手?……うおっ、なんで!?」
男は身体のあちこちをペタペタと触っている。……もっとも、全てすり抜けているので音はしないが。
登場人物の名前の呼び方が本名と愛称とでブレてたりしたら、報告お願いします。
その他、不自然な点、誤字脱字等ありましたら是非報告をお願いします。
暦の話は、そうゆうものなんだな〜、と軽く流してください。正直、暦の名前をどうしようかと思って考えついた後付け設定ですし。
何分、千年単位の変化ですので環境が大きく変わる頃には、主人公たち死んでます。
本編にはあまり関係ありません(多分)。