幕間 始祖の郷愁
大変遅くなってごめんなさい。
※「始祖と魔導書」のネタバレを若干含みます。ご注意ください。
「知らない間に、ずいぶん遠くまで来ちゃったなぁ……」
現代日本の騒々しい夜と違い、明かりもなく静かなネルクには、独り言がやけに大きく響いた。
「ミーティア……」
遠い昔に置いて行ってしまった、大切な人の名を呟く。
もう二度と、会えない人の名を。
なんで俺だけ……。
そんな気持ちは最初からあった。
あの工房で、目覚めた時から。
あの時、完全に終わったと思っていたのに。
どうしてか、俺はまだここで生きている。
いや、生きているかどうかもわからない。
あの時はああ言って誤魔化したが、実際は亡霊なのかもしれない。1000年前の。
そうだとしたら──
「ハハ……」
自分の執念深さに呆れる。
一度死んで、新たな生を得て。
今度は満足して死ねたと、そう思っていた。
でもまだ、足りなかったようだ。
だからこうして、ここにいるのかもしれない。
「でも、よかった……」
自分の残したものが、自分たちが残したものが、1000年経っても消えずに残っている。
それが嬉しかった。
報われたような気がした。
思えば、不純な動機だった。
せっかく魔術があるのだから、使ってみたい。
そんな思いから始まったのが、俺の人生だった。
でもそれが、こうして世界に影響を与えるほどになっている。
人生とは、本当にわからないものだ。
今回の本生?でも、この短い間に驚くことがたくさんあった。
まず、自分が生きていること。
子孫──レーベンスと会ったこと。
転移者──遥香と会ったこと。
レーベンス。
アイツをみていると、昔の、日本人だった頃の自分を思い出す。
劣等感に苛まれ、卑屈になり、諦めていた自分を。
俺の場合は、『転生』と言う出来事があったから変われた。
しかし、それはある種のズル(チート)であり、また、その人生を諦め、逃げ出したのと同義だ。
普通はそんなものはない。
『人生にやり直しは利かない』
古今東西で使い古されてきた言葉だ。
だからこそ、真理を含んでいる。
それはまごうことなき事実で。
しかし、一つだけ違う。
人生『の』やり直しは利かない。
しかし。
人生『に』やり直しは利く。
取り返せないのなんて、人の生き死にだけだ。それ以外は全て、どうにかすればどうにかなる。
俺はそれをやろうとして、しかし実行する前に死んだ。
次の人生なんて期待してはならない。それに縋ってはならない。
幸い、レーベンスにそのような願望はないようだが、人生を諦めているのは確かだ。
それではダメだ。
俺のエゴかもしれない。ただの自己満足かもしれない。
しかし、今までの感じだと、全ての責任は俺に帰結する。
『グリモワルだから』『始祖の一族だから』
傲慢かもしれないが、全ては俺のせいだ。
俺が自分勝手に好き勝手やってきたツケが今ここに現れている。
いや、『今』だけじゃない。あの時だって──
ともかく、全ては俺のせいだ。
『俺』という異物がこの世界に入ってきたせいで、今こうなっている。
ならば、それは子孫ではなく俺が清算すべきだ。
案外そのために今ここにいるのかもしれない。
今は手助け程度しかできないが、いつかはアイツを助けてやりたい。
幸い、その手段は既にある。1000年前の俺が、既に創っている。
アイツのコンプレックスの根幹──名付けるならば、『魔力不感症』を治す。
情けないことだが、今の俺にはこのくらいしかできない。
今の俺は1000年前の残滓みたいなものだ。
魔力なんて欠片もないし、物理的に干渉もできない。
できるのはお膳立てと、舞台の用意程度。
ならば、それを全力でやるまでだ。
親愛なるミーティア、俺は1000年後の世界でも頑張っています。
俺たちのツケを、清算するために。




