到着
昼休憩などを挟みながら5時間ほど歩いた。
「疲れ、たぁ……。もう、歩けない」
聞く所によると、ハルカのいた世界ーー地球というらしいーーは乗合馬車のようなものが発達していて、長い距離を歩くことはあまりないらしい。
「もう少しだから。この丘を越えたら、……ほら」
「うぅう……」
ハルカは疲れた様子で丘を登りきると、前を向き。
「うわぁ、綺麗……」
眼下には、巨大な城壁で囲まれた街、ネルクが夕日に照らされてオレンジに輝いていた。
「本当に、ファンタジーの世界に来たんだ……」
夕日?
まずい!
感動しているハルカには悪いが。
「急ぐよ!」
「え!? なんで?」
「日が沈むと門が閉まるんだ!」
僕らは街に向かって走り出した。……アルを除いて。
アイツ、走るのが面倒だからって始書に逃げやがった!
街がもう目と鼻の先のところまできた。
衛兵が門を閉めようとしている。
「お〜い! まだ、います!」
「はぁ、はぁ……」
ハルカが息切れしている。
「大丈夫か?」
「久しぶりに、走ったから、きつい……」
「ゆっくりでいいから、ついてきて。先に手続きしてくるから」
「うん……」
ハルカを置いて、街の方に向かう。
「身分証明書をみせて」
「はい」
「よし。もう一人のは?」
無い。どうしようか。
「あぁと……。彼女、田舎から出て来たもんで、持ってないんですよ」
そういう設定で行こう。そういう人も結構いるらしいし。
事後承諾になるけど、別にいいか。
「そうか。なら、保証金として銅貨5枚を」
「ちょっと待って……」
荷物からお金の入っている革袋を取り出す。
「はい」
「よし。入っていいぞ」
そんなこんなで、やっと街に着いた。
記念すべき、この旅で最初の街だ。
夕陽に照らされた街で、人々が家路を急いでいる。
どこからともなく、良い匂いがした。夕飯の準備をしているのだろうか。
「やっと、休めるのね」
「いや、まだだよ。宿を探さないと」
「えぇ……?」
今日はハルカにとって相当ハードだったようだ。
まぁ、それもそうか。
なんせ、急に異世界に来たと思ったら魔物に会って、何時間も歩いたんだもんな。
そりゃあ疲れるだろ。
そんな彼女のためにも、早く宿を探さないと。
ここのような城塞都市の宿は、たいてい街の外縁部にあると相場が決まっている。なので、く門からそう離れていないところにあるはずだ。……ほら。
ちょうどよく、道の先に宿屋の看板が見えた。あそこで良いや。
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
宿に入ると、店番をしていた少女が元気な声で出迎えてくれた。
「二人です。一人部屋を二部屋で」
「一人部屋を二部屋ですね。何泊ですか?」
うんと、この街でやりたいことが色々あるから……。
「取り敢えず、三泊で」
「三泊ですね。えっと……、金貨一枚と大銀貨一枚になります」
金貨一枚と少しか……。案外安かったな。見ると、掃除も行き届いているし、内装も質素ながら洗練されている。僕はいい買い物をしたようだ。
革袋の中から金貨と大銀貨を取り出して店員に渡す。
財布が少し寂しくなってしまった。明日からは、稼がないと。
「ありがとうございます。はい、部屋の鍵です」
店員から鍵を受け取ると、部屋へと向かう。
「ごめん、なんか宿代まで出してもらっちゃって」
ハルカが申し訳なさそうに謝ってくる。
「いや、気にしなくていいよ。旅は道連れ世は情けっていうし」
カッコいいこと言っちゃって、とかいうアルのからかうような声が聞こえた気がした。
そんなことを話していると、もう部屋に着いた。
「はい、鍵。なくさないようにね。それじゃ、おやすみ」
ハルカに鍵を渡し、自分の部屋に入る。
「おやすみなさい」
ハルカの返事が聞こえた。
部屋の鍵を閉めると始書が光って、アルが現れた。
荷物を置き、寝る準備をしながら話す。
「明日はどうすんの?」
直球だな。
「とりあえず、金を稼ぐ」
「冒険者か」
「うん」
それが一番手っ取り早いだろう。
「ハルカはどうすんだ?」
「うぅんと……。どうするかな……」
「ま、連れてけばいいんじゃない? M29の試し撃ちもしたいし。守りながらでも出来るだろ?」
気楽に言ってくれるなぁ。
ま、出来るかできないかと聞かれると、出来る。
でもな……。
冒険者には危険がつきものだ。十分に安全マージンを取っていても、不足の事態はおこる。
……いや、それはこれからの旅でも同じか。どんなに安全な道を通っていても、魔物に襲われるときは襲われるのだ。
それならば、早いうちに身を守る力くらいは身につけるべきか……?
……あれ? 何でこれからもハルカと旅をする前提なんだ? 取り敢えずネルクまで連れて行く、という話ではなかったっけ。
……まぁいいや。当分ネルクにいるつもりだし。後のことは後で考えよう。
「もう寝る」
「そうか。おやすみ」
「うん、おやすみ」
アルは光となって始書に入っていった。
僕も布団に入り、目を閉じた。
お金の感覚は、
銅貨一枚 百円
大銅貨一枚 五百円
銀貨一枚 千円
金貨一枚 一万円
という感じです。
これは「都市貨幣」の場合です。貨幣の種類によって変わります。
都市貨幣については、後ほど出てきますので。
宿の値段は、中世の相場が分からなかったので、現代日本の安い方で考えました。




