3話 ワシ、助かる
どんどんと息が苦しくなっていく。
呼吸の臓器がシードラゴンの体へと変わっていくにつれて、呼吸ができなくなっていく。
手や足もヒレのように変わってしまい立っていられない。
このままでは死んでしまう!
なんてことを考えていると、玄関のドアが開く大きな音が聞こえてくる。
この時間にくるのは助手のパプルに違いない!
「……クァ」
こ、声が出ん!
ワシはこんなところで、こんな事で死んでしまうのか!?
いやじゃ、いやじゃ!
廊下をカツカツと歩く音が響いているが、陸に打ち上げられた魚が死んでしまうまでは数分程度のこと。
助手がこの部屋に来て、ワシに気が付いて、処置するまでは間に合うか!?
ガチャリと部屋のドアが開く音が聞こえたが、ワシの目はもう見えなくなってきた。
は、はやく来てくれ! ワシが窒息するまで時間がないぞ!
「あら?」
お、気付いたか! 姿は見えんが……
おそらく、いつもの紫色のローブを纏って、伸ばした髪を後ろで一つにまとめた、研究に全力で振っている服装で入ってきているだろう。
ワシが死ぬ前に気が付いてくれるのか?
「所長、何で死にかけてるんですか?」
ワシの頭から魚心の指輪が外される。部屋に入った瞬間にワシの事を認識して、対処をはじめてくれておる。さすが優秀な助手じゃ!
パチャパチャと何かかけられている感覚もある、これは解呪の聖水に違いない!
これで元の姿にも戻れはずじゃ! 至れり尽くせりじゃの!
「クェ~クアクェ(ふ~、たすかったわい)クァ~クァ(ありがとなパプル)」
「いえ、どういたしまして」
だんだんと呼吸が楽になってきて一安心、視力も戻ってきたわい。
さて、滅茶苦茶にしてしまった部屋の片づけに、竜に変化させられた原因や術式を調べねばならん。やることは山積み……
ん? ちょっとまて、パプル?
お前、よくワシの事が分かったな? 竜になった上に魚心の指輪の2重変化していたのだぞ?
「ククァ(ちょっとまて)クァック、クァ~クエ?(パプルよなぜ、ワシじゃと分かった?)」
「一目で分かりましたよ、魂は人間ですし、この部屋にいるのは所長だけじゃありませんか」
「クァ!(なるほど!) ククァクァ(冷静な分析と判断じゃな)」
「いえいえ、ここで働いているなら当然です。ですが……」
パプルは何か言い淀んでいるような様子じゃな。
何を隠しているのかの?
ワシは腕を組んでみるが、何かおかしい、肌がザラザラ鱗みたいな……
「解呪の聖水が効いてないみたいですね」
「クァ?(ん? どういうことじゃ?) ククァ!?(ああっ!!)」
聖水が全く効いておらん! 緑の鱗に鋭い爪、角もしっかり残っとる!
ワシの姿は竜のまま……
ワシ、元にもどれるんじゃろうか?
パプルよ、解呪の聖水が効いてない割りに妙に冷静じゃの?
聖水が効かない呪物なんぞ、数年に1個程度しか出てこんのだぞ?
「聖水効かないなんて、所長は人間をお辞めになられたのですか? それは驚きです」
「クァ!!(違うわ!!)」
「あら、そうですか、その姿もお似合いですのに」
優秀なんだが、どっかずれとるんだよなぁ……
さて、聖水も効かないなら、別の方法を考えねばなるまい。
ん? そういえば、パプルよ、なぜ竜の声しかでないワシと会話できとるんじゃ??