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にわとりの卵

作者: 鳥羽風来

朝おきて台所へ行くと、健太のお母さんがフライパンに卵をわって、めだまやきを作っていました。

「おはよう、お母さん」

「あら、おはよう健太。もうすぐ朝ごはんできるから、まっててね」

 

 ごはんができて、健太は、めだまやきを食べようとしたとき、ふと思いました。

「卵からひよこが生まれるんじゃなかったかな?」

 目の前には、卵の白身の中に丸い黄身が見えます。健太はお母さんに聞いてみました。

「お母さん、この黄色いところは、ひよこだったの?」

 お母さんはあわてて言いました。

「ちがうわ。心配しなくて大丈夫よ。お店には、ひよこが生まれない卵しか置いてないの。だから、お母さんが買ってくる卵の中には、最初からひよこはいないのよ」


 健太は、ふうんと思いました。しかし、ひよこの生まれる卵と、そうじゃない卵はどう違うのか、よく分かりませんでした。だから、学校のとしょかんで調べることにしました。

 としょかんの先生に聞いて、ちょうどいい本を教えてもらい、読んでみました。

「ふむふむ、ゆうせいらんを二十日くらい温めると、ひよこがかえると書いてある」

 健太は、よく分からなかったけれど、しんぼう強く卵を温めれば、ひよこが生まれる可能性があるのだなと思いました。だから、一度ためしてみようと思いました。


 家に帰ると、健太はれいぞうこから、こそりと一つ卵をとりだし、自分のへやにもっていきました。そして、毛布にくるみました。つぶれると、毛布がよごれてしまうので、ふまないように、すこし高いところにおいておきました。

 それから毎日、学校から帰ると、健太は毛布をひらき、卵の様子を見ました。両手でやさしくもって、温めたりもしました。

 ある日、健太が毛布をひらくと、卵が半分くらいわれていました。中で何かが動いています。

「生まれるぞ」

 パリパリパリ・・・。ついに、ひよこが生まれました。


両手にやさしくひよこをもち、すぐにお母さんにほうこくしました。

「お母さん、ひよこが生まれたよ」

 お母さんはおこった顔で言いました。

「あら? それは、どこから取ってきたの? すぐに持ち主に返しなさい」

 健太は、泣きそうな顔で、反論しました。

「ぬすんだんじゃないよ。うちの卵から生まれたんだよ」

「そんなわけないでしょ。うちの卵からはひよこは生まれないの。正直に本当のことを話すまで、ごはんぬき!」

 お母さんは、全く信じてくれず、健太は悲しくなりました。

 その夜、健太はごはんに呼んでもらえませんでした。おなかがすいて食卓に行くと、お母さんは言いました。

「本当のことを話す気になった?」

「最初から本当のことを言ってるもん」

「じゃあ、ごはんはぬきね。食べちゃダメ」


 そのとき、テレビからニュースが流れました。

「養鶏所の手違いで、有精卵が市場に出回っています。ご家庭で購入した卵から、ひよこが生まれる可能性があります」

 お母さんは、それを聞いて、健太を見つめて言いました。

「それ、本当にうちの卵から生まれたの?」

「最初からそう言ってるよ」

「とりあえず、ごはん食べなさい」

 おなかがすいているので、ごはんは食べました。でも、お母さんは信じてくれなかったし、あやまってもくれない。健太はお母さんを嫌いになりそうでした。


 それから一か月くらいたったある日、健太が学校へいくと、教室のまどガラスがわれていました。近くにいた海斗くんに「何があったの?」と聞きました。

そのとき、ちょうど先生が教室に入ってきて、ガラスを見て言いました。

「わったのは、だれだ?」

 すると、海斗くんが信じられないことを言いました。

「わったのは、健太くんです」

 健太はあわてて、違うと言おうとしました。しかしその前に、海斗くんの友だちの友介くんと正昭くんが言いました。

「ぼくたちも健太くんがわったのを見ました」

 先生は健太に言いました。

「ちょっと職員室に来なさい」


 職員室では、健太はもちろん、ガラスをわったことを認めませんでした。そこで、先生はお母さんを呼びました。そして、言いました。

「健太くんがガラスをわったみたいなんですが、認めようとしないのですよ。三人の子がみているので、間違いないと思うんですがねえ。ガラスをべんしょうしてもらって、いいですか?」

 お母さんは健太を見つめて言いました。

「あなたがわったの?」

「ぼくじゃないよ。来たときは、もうわれていたんだ」

 そう言ったとき、健太は卵のときのことを思いだし、怖くなりました。

 先生からもお母さんからも信じてもらえないんだ。本当にわっていないのに・・・。


 すると、お母さんは先生に言いました。

「わったのは、うちの子じゃありません。この子はうそをついていません。もっとちゃんと調べてください」

 先生は、驚いて言いました。

「そうは言っても、3人も見ている子がいますからねえ」

 先生とお母さんは、大きなこえで、言い争いになりました。

 

 十分くらい言い争いをしていると、職員室に他のクラスの先生と、同じクラスの女の子が五人入って来ました。

「ガラスをわったのは、海斗くんたちです。わたしたち、見ていました。健太くんが犯人にされていると聞いて、わたしたち、びっくりしました」

 他のクラスの先生が、言い争いを見て、教室に行って、詳しく話を聞いてきてくれたのです。

 こうして、健太の無実が証明されました。


 健太に罪をなすりつけようとした海斗くんたちは、先生はもちろん、お父さんやお母さんからも、こっぴどくしかられました。

 健太を信じようとしなかった先生も、校長先生から、こっぴどくしかられました。

 お家に帰って、健太はお母さんにたずねました。

「どうして、ぼくを信じてくれたの?」


 お母さんは言いました。

「卵のときは、あなたを信じてあげられなかったから、次にこういうことがあったら、絶対に健太を信じようと決めていたの。あのときは、本当に悪かったと思ったの。ごめんなさいね。今日のあなたの目は、あのときと同じだったから、絶対にうそをついていないとわかったわ」

 健太はお母さんが思っていたことを知りました。

 そして、今日はピンチを救ってくれました。

 健太はお母さんが大好きになりました。


(おわり)



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