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執事の喫茶店  作者: ASOBIVA
11/20

5杯目【後編】

店主代理の魔王様は、いたずらっぽく笑ってこう言った


「賭けにどう勝つのか?

その考え方は実は営業にも通じるんです」


その言葉に新人営業は目を丸くした


あまりにも予想外の切り口だったからだ


固まっている彼女の前で


カウンターにトランプカードを展開される


魔王様が取り出したのは間違いないのだが


一体どこから取り出したのだろう?


「たとえばポーカーのルールはご存じですか?」


映画やテレビの中ではあるものの

ポーカーをするシーンは見たことがある


5枚の手札を組み合わせて役を競うゲームのはずだ


ワンペア・ツーペア・フルハウス…


確か一番強い組み合わせが

ロイヤルストレートフラッシュだっただろうか


相当運がよくないと強い役は揃わないイメージだ


「ポーカーは運任せのゲームではありません。

当店のオーナーである執事にいわせれば

“勝ちを待てるかどうか“が勝率を決める。


勝ち方の本質を知る者とそうではない者との差は

機会を重ねるごとに歴然と開いていくのです。

それは営業とて同じこと」


カードを繰りながら魔王様は語っていく


新人営業はもはや彼の語りに呑み込まれていた


何かとんでもないことが今、紐解かれている気がした


[魔王様の言うことは聞いとくといいですよー。

僕もお二人の指導で随分成長させてもらいました!]


横の客に言われるまでもない


新人営業は前のめりのまま、話の続きを促した


「私も執事も営業の勝率が極めて高かったんですがね。

結局勝ち方があるんですよ。


相手とどうやれば手を結びやすくなるのか

将来的な関係の作り方、コンテンツの質の上げ方…

今の手札が悪くても、打つべき手を知っていれば

トータルではきちんと勝てるんです」


『お、教えてください!!』


彼女は、思わず話をさえぎってしまう


一刻も早く答えを知りたい


そう思った


彼女の勢いを見て、魔王は笑った。

そして、隣の常連客に声をかける。


「そうですねえ、せっかくカードを出しましたし

三人で勝負、しましょうか?勝てたら教えるとか」


思わず、ぽかんとした。そしてうなだれた。

新人営業は、ゲーム初心者だ。

ゲームに勝てる未来が思い浮かばない。


[いやー、魔王様、彼女はお客様ですから。

さすがに気の毒ですよ。それに…]


隣の客が、空になったカップを指さす。


[見てましたけど、彼女が食べたトランプのクッキー

確か、ストレートフラッシュの役が揃ってましたよね?

それで勘弁してあげたらいいんじゃないですか?]


思わぬ助け舟に、彼女は心から感謝した。

知らないうちに、強い役のカードが揃っていたらしい


もっとも、もう全て胃の中なわけだが


「そうですねえ…お客様、失礼いたしました。

つい勝負事となると本気になってしまうので。

私の悪い癖ですね」


老成した空気があるのに、笑顔はどこか幼い。

不思議な人だと、彼女は思う。


「お詫びにとっておきをお教えしましょう。

今結果が出せないなら、打開のきっかけをつかむこと。

きっかけにつながるキーパーソンを捕まえることです」


打開のきっかけとなるキーパーソン?

新人営業は首を傾げた。


「あなたの成功につながる情報を持っている人。

世間一般には流れ出ない貴重な情報をつかめる感度の高い人。

そういう人とまず人間関係を築くことです」


「信頼を得なさい。そして『あなたなら』と情報を

開示してもらえるまでになれば、おのずと紹介が起こります。

将来大きなことを仕掛けていく火種も起こせるでしょう」


そんな人が、今自分の周りにいただろうか。


そもそも売上をあげなくてはならないというのが急務の課題だ

キーパーソンと関係を築くというのは有効だろうけれど

短期的には何の効果もない気がした


[焦らないほうがいいっすよ。そりゃ数字は大事なんですけど

明らかに数字狙ってんなってわかったら相手引きますから

きちんと関係作って、相手の役に立てる提案ができれば

あとは数やるだけでちゃんと結果出ますから]


隣の客がフォローしてくれた内容にハッとした。


(確かに、数字しか見えてなかった。ずっと焦ってた…)


「こいつも最初、本当にダメな営業でしたから。

ボロボロでしたから。ご安心ください。

そんな彼でも、今ではきちんと結果出してますから」


[お二人にはさんざんしごかれましたからね]


魔王様と客のやりとりは随分と気安い。

きっとよい上司部下の関係だったのだろう。


正直うらやましい、と新人営業は思った。


でも、今から同じような関係を

きっと築いていけると信じよう。


社内でも社外でも、相手を見ることが

自分の始まりだろう。


「ありがとうございます。

分からないことだらけですが、やってみます!」


まずは先輩ディレクターにもう一度相談してみようと思った。

そして、経営者である社長にもきちんと話してみたい。


焦るなと言い続けてくれていた彼らと

よりよい関係を作っていきたい


そして取引先にも関係を広げていきたい


お礼の言葉を伝えて、お代を払ってから

新人営業は店を出ることにした


「今度は執事がいるときにでもまたのご来店を。

あなたの成功を、そしてよい出会いを心よりお祈りしています」


見送りの言葉までやっぱりあやしい店だと

思わず笑って、扉を開けた


一歩踏み出す。

そこで、携帯電話が鳴った。


「え、あれ、先輩…?」


大学時代にお世話になった先輩からの連絡に彼女はうろたえた


”よい出会いを”


見送りの言葉を思い出す。


何かの予感を感じながら、彼女は通話ボタンを押した。

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